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第71話 『束の間の休息』

大変お待たせ致しました、第71話を急ぎお送り致します。

遅刻してしまい本当に申し訳ございません。しかも短いです…

 


「【大地系統:点穴(てんけつ)】!!それから…【大地系統:岩盤操作】っ!!」



 薄い黄色の輝きを放つ魔力(マナ)…大地系統の魔法に共通する力を用いた魔法を二つ同時に操り、シルヴィアは第3の天幕ほぼ一杯に穴を作っていた。


 ただ地面を掘り返すのではなく、湯が土で濁らない様にと岩盤を動かし…即席とは思えない岩風呂が物凄い勢いで構築されていく。


 鮮やか過ぎるその手際の良さに、傍に居たリクは『地面を掘る為に』と右手に集束させていた闘気(オーラ)を霧散させた。


 下手に手伝おう物なら、かえってシルヴィアの邪魔になると思ったのだ。



「うーん…シルが大地系統の魔力(マナ)を使ってるの久しぶりに見るけど、やっぱり上手だよなあ。俺、する事無さそうだ」


「えへへ……今日は全然魔力(マナ)使ってなかったから、この位やっちゃっても良いかなぁって」


「思った通り、皆が凄く強くなったお陰だな。俺達が出しゃばる事も無かったし…ここまではホント出来過ぎな位だよ」



 普段通りの会話をしつつ、シルヴィアは片手間で魔力(マナ)を操る。リスティアに来て以来、全く使う事が無かった大地系統の魔法なのだが…


 元々、幼少期から治癒系統と並んで得意としている魔力(マナ)制御であり、ブランクを欠片程も感じさせない見事さだとリクは思う。


 本当ならこれだけの勢いで突貫工事を行えば、相当量の魔力(マナ)を消費する事になり…シルヴィアの消耗が気になる所である。


 ただ、今日に限って言えば……彼女は『全く』魔法を行使していない。都合3度有った戦闘は、ことごとくをメイスを使った近接戦闘で済ませていた訳で。


 それもこれも…初戦で自信を付け、力みが無くなったアレイ達がその実力を試すか様に次々と魔物を倒してしまったのが大きい。


 リクもまた魔力(マナ)闘気(オーラ)も全く使う事無く此処に着いてしまった為、力は有り余っているのだった。


 そうこうする間にも、岩風呂は殆ど形になって来ており……すっかり手持ち無沙汰になったしまったリクに、シルヴィアはアレイ達へ合流してはどうか?と提案する。



「この分だと、私だけでお風呂は大丈夫そうだね。リっくんもアレイ君達と一緒に行ってくる?」


「…その方が良いか。じゃあひとっ走り行って、水を汲んでくるよ。狩りと薪は皆に任せるつもりだったし…やっぱり先に風呂を用意してあげたいしさ」


「うん、行ってらっしゃい。形を整えたら私は料理の方に行くね」



 正直、リクとしては皆に少しでも野営の『勘』とでも言うべき感覚を養って貰う為に、出来る事は全部体験して貰おうと考えていた。


 幸いにも野営地に選んだこの場所は、近くに清流と呼べそうな川も流れており、更には魔物の放つ瘴気や魔力(マナ)も近くに感じる事が無い、理想的な場所であった。


 安全はほぼ確保されている様なものだが、念には念を入れるべきとも考え…シルヴィアの提案を受け、アレイ達『調達組』を追うべくリクは作業を彼女に任せる事にする。


 既にアレイ達が出立してから結構な時間が過ぎて居るが、リクが本気で走れば5分と掛からず追いつくだろう。


 話が纏まり、天幕を出たリクは突風、そして猛烈な衝撃波を巻き起こして森の奥へと駆け出した。


 一瞬で小さくなるその背中を穏やかな笑みで見送ったシルヴィアは、夕食の下拵えを手伝うべく…急ピッチで岩風呂の仕上げに掛かるのだった。



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「大物仕留めてやるぜ!……と思ってたの確かだけどよ。まさかこんなのに出くわすとは思わなかったぜ…」


「す…凄く調理のし甲斐はあったよ?その……手が疲れちゃったけど」



 疲れた表情を浮かべ、草の上に体を投げ出すミーリィ。その隣に座り、苦笑交じりに彼女と話しているのは、夕食の調理を終えたイリスだ。見上げれば空には既に星が瞬き始めている。


 日が暮れるギリギリまで狩りを続け、漸く拠点へと戻って来た『調達組』は20羽以上の鳥と…アレイが苦労して背負ってきた『ギガントボア』1体。更にしっかりと乾燥した薪を持ち帰った。


 上空や木々の枝に居る鳥を各自が【鎌鼬(カマイタチ)】で撃ち落とし、充分な数が確保出来た…と思った頃、一行は思わぬ強敵と遭遇した。それがこのギガントボアである。


 狩りが主な目的の一つである以上、それぞれ武装したままであったリク以外の4人は即座に戦闘を開始した。しかし…その内容は実に一方的なものだった。


 ギガントボアの驚異的な突進を、大盾を構えたアレイが正面から受け止める。まるで岩山にでも衝突したかの様な轟音を響かせる激突だが、受けたアレイは微動だにせず相手の巨体を逆に大盾で殴りつける。


 激突の衝撃で目を回したギガントボアはその場にばったりと倒れ……その巨大な頭部をルーカスが【大切断】で豪快に切り飛ばした。この間……僅か2分である。


 ただ、鍛錬を重ねたルーカスの【大切断】は既に戦技と呼んで問題の無い威力になっており、強敵とはいえ…普通の動物に使うには過剰な一撃であった。


 そしてアレイ達4人はギガントボアから噴き出した大量の返り血を浴び……合流した後、水汲みの為にまた離れていたリクを驚かせる事になったのだった。



戦闘衣(バトルクロス)は汚れないから良いが……俺達の方はしっかりと血や泥をおとしておかないといかんな」


「ホントにこれは凄い魔具だよ!洗練された、なんて言葉じゃ到底足りないこの緻密な魔力(マナ)回路!この機能!」


「……ルーカス君って、こういう時人が変わった様になるわねぇ」


「まあ、男子(おのこ)は大なり小なり…この手の気質はあるでござるよ」



 帰還してすぐ、リクはシルヴィアと風呂を沸かし始めた為、此処には居ない。その天幕の外に設けられた『いつもの』テーブルと椅子の周りに皆集まっている、という状況である。


 全員が苦労して製作した最新型の戦闘衣(バトルクロス)は、元々備えていた【汚損防止】に加えて【抗菌消臭】の魔力(マナ)回路が追加されていた。


 開発者のエリスによれば、おおよそ1週間は着替え無しでの行動を想定しているとの事で、特に女性にとっては洗濯が出来ない環境における強い味方と言える。


 ただ、アレイが口にするように…着ている人間まではそうはいかない。そこで先に皆の汚れを落とす為にもと…リクは帰って早々に岩風呂を完成させに向かったのだった。


 やる事は簡単である。ただ岩風呂を満たすだけの水を収納用魔具から注ぎ入れ、リクは剣を抜き放つと…



「【弐式・(にしき・)灼熱剣(ヒートブレイド)】ッ!!」



 練魔鋼の長剣を赤熱化させ、それを水に刺し入れる。全力でやればそれこそ熱湯になってしまう為……シルヴィアに湯の温度を見て貰いながら調節してゆく。


 あんまりな力技だが、薪を無駄にせず、しかも早い為……野営では重宝して来た『湯沸かし方』である。後で説明を聞いたアレイは呆れ返っていたが…


 そうしてあっという間に岩風呂は完成し、まずは女子が。その後交代して男子が温かい湯で汚れと疲れを落とす。


 先に女性陣を入浴させた理由は単純で、野外の風呂は温泉でもない限り保温がきかないからだ。その点、男性陣が後から入るようにすれば…リクが再加熱をする事で問題は無くなる。


 尤も、リクとしては本当は先に食事を摂り、入浴後に就寝…と行きたい所であったのだが…汚れたままというのは具合が悪い。魔物は兎も角、血の匂いを残したままにしては、狼などの野生動物に襲われる危険もあるのだ。


 結果、夕食は少し遅くなったものの…これも野営の醍醐味だな、と思いつつリクは男子一同の適温へと『追い焚き』をするのだった。


 この後、調理時間が確保出来ない為、グリル料理一辺倒になったギガントボアを主菜に、持ち込んだ野菜を使ったサラダ、そして同じく…前もって調理した物を持ち込んだパンとスープという、野営らしからぬ夕食がテーブルに並べられた。


 思わぬ食材が手に入ったものの、ギガントボアの巨体を短時間で調理する事は、シルヴィア達にも不可能だったのだ。止むを得ず、20羽を越える鳥と同様…焼く事にしたのだが、味付けだけは妥協しなかった。


 因みに今回はシルヴィアとナーストリアの二人が意見を出し合い、それをイリスが実行していくという工程を取る事にしたらしい。


 イリスも自分の家でしょっちゅう料理はしており、人並み以上の腕なのだが…ナーストリアは酒場仕込みのプロ級。更にシルヴィアはそれを上回る【スキル】まで発現している。


 この機会に自身の料理の腕を少しでも上げるきっかけを掴みたい、とイリスが言い出してこうなった、とはシルヴィアの弁である。


 とはいえ、二人が何かを教える事も無い位にイリスは手際よく調理を進め……夕食はつつがなく完成したのだった。


 そんな控え目な性格のイリスが積極的に行動した産物の食事は非常に好評であり、リクとアレイを筆頭にお替りを競い合う勢いで、次々と平らげられてゆく。


 男子4人とミーリィが押し合いへし合いの状態でグリルへと向かっていく姿を見つめつつ…『調理組』の3人は充実した笑顔を交わし合うのであった。


 大きな月が天から優しい光で照らす広場に一時の穏やかな時間が流れる。この時、後に起こる危機を…リクも、シルヴィアも想像する事は出来なかった……




次回から大きく戦局が動く予定です。本当ならその導入部まで書いていたのですが…

あまりにも長文化してしまった為、現在再構成しております。


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