第69話 『Z組、初の実戦』
大変お待たせ致しました、第69話をお送りいたします。
Z組、そしてアレイ達の初陣のお話です。
カイン達A組と予期せぬ邂逅から凡そ15分。担任のアルベルトとレジーナへの報告を終えたアレイが戻って来た。
目立つ行動を避ける為、ここまで全員で乗って来たハーダル家の馬車を引き続き使用したので、移動にもそれなりに時間が掛かったようだ。
漸く一息つけるとばかりに馬車から飛び降りたアレイは深々と溜息を吐き、ゆったりとした足取りでリク達Z組のメンバーの元へとやってくるのだった。
「待たせたな。例の件についてはアルベルト先生達には伝えた……くれぐれも『無茶はするな』と釘を刺されたぞ、リク」
「まあ……出たら出た時の事で、全員の無事を最優先って事はちゃんと考えてるよ。それで、俺達は何をどうするんだ?」
「俺達Z組の担当区域…と言えば良いのか分からんが、中央を行く本隊の支援…遊撃部隊という事になるな。その右翼に配置されていた」
簡潔に『Sクラスの魔物の情報』を担任と副担任に伝えた事を最初にアレイはリクに報告する。レジーナは言わずもがなだが、流石にアルベルトも驚きを隠せない様子であった事もアレイは付け加える。
例年の大討伐演習ならば、この王都にほど近い森林地帯に出現する魔物は最高でも『Bランク』程度の個体でしかない。
故に、教師陣の戦闘力も加えればアカデミーのほぼ全戦力が集結している為、大きな被害を出す事なく『恒例行事』としてこれまで行ってこれたのだが…
そもそもが殆ど対処が不可能な存在として、通常のランク分けではなく独自の呼称として『Sクラス』等と指定される様な魔物の出現など当然想定していない。
これが少人数、または単独での行動及び戦闘ならば、アカデミーでも突出した力を持つアルベルトならば討伐も恐らくは可能だろうと実際に報告に赴いたアレイは思ったのだが…
しかし、アルベルトは苦い表情を浮かべると動揺しているレジーナに対し、他の教員への情報共有の為にすぐ行動するようにと指示をした。
これはつまり、全生徒が参加しているこの大討伐演習では、アルベルト一人が幾ら強くとも…生徒達全てを守って戦う事は不可能である事を示している。
その上でアルベルトは自分の受け持つクラス…Z組に「絶対に無理をしないように」と釘を刺すようにアレイに指示し、担当する役割を伝えたのだった。
時間が押していた為、簡単な説明にならざるを得なかったらしいが、全生徒を3つの舞台に分け、中央を担当する部隊が本隊。その左右に遊撃を担当する部隊をそれぞれ展開して森林地帯を縦断するというものだ。
「右翼の遊撃部隊……アレイ君、私達の他のクラスとか、上級生の人達はどういう感じなの?」
「……右翼遊撃担当はZ組の8人のみだ。ついでに言っておくが、3年生全員及び1年のA組は中央の主力。2年生全員と俺達以外の1年は左翼遊撃担当だ」
アレイとリクの会話を邪魔しないようにしていたシルヴィアだったが、魔物討伐が初めての面々が多く参加している以上、どのような戦力配分になっているのが非常に気になった。
そこでその疑問をアレイに質問したのだが…あまりに想定外な答えを聞いたシルヴィアは硬直した。一体何の冗談だろうと。
そして…当然だが、ルーカスにシード…他のメンバーからも次々に驚きの声が上がる。
「ええっ!?う、嘘だろ?僕達8人だけ!?右翼は捨て駒って考えじゃないだろうね?」
「或いは…最初から戦果を稼がせない為の布陣、という事でござろうか?元々魔物の数が少ない…という事も考えられるでござるよ?」
「……いんや。アレイの顔を見る限りじゃ、お前等の考えの『悪い部分』だけ足した感じじゃねぇか?どうなんだよ、アレイ?」
「………残念だが、これはミーリィの言う通りだ。要するに、右翼側の事は最初から考えにも入れていないという事だろう。当然だが布陣としてはこんな物はあり得ない」
ルーカスとシードがそれぞれに悲観的な意見を述べる。これもまた当然であるが…あからさまに仕組まれた『悪意の編成』を受け入れられずにいた。
これでは実戦経験を積ませようというアカデミーの理念にすら反している。一体学年主任の先生とやらはどこまでZ組を目の敵にしているのだろうか。
更にはミーリィが吐き捨てる様に言い切った言葉にアレイが同意した事で、ナーストリアとイリスは口を噤んでしまった。
だが……一同に重苦しい空気が流れ始めたのを、リクが何でもないように断ち切る。
「で、これなんだけどさ。取り合えず俺達は右から移動して…片っ端から魔物を討伐すれば良いんだろ?まずは拠点を作れる場所を確保する為に移動しないとな。皆、荷物持って準備しようか?」
「おい、リク!?お前、アレイの話聞いてたろ?アタシ等はとんでもない状況に置かれたんだぞ!?少しはさ…」
「何言ってんだよミーリィ。それに皆も……俺達がそこらの魔物に負けるとかまだ思ってるのか?大丈夫、すぐに分かるからさ。皆がどれだけ強くなったのか、さ。ほら、シルも固まってないで準備してくれ」
ある意味『空気を読まない』とさえ言える程、普段通りのリクの物言いに思わずミーリィが食いつくが、リクはわざとらしく肩をすくめて見せる。
確かに『Sクラス』と戦うのであれば、Z組といえど苦戦は免れない。だが、それを抜きに考えれば…リスティア近郊で出現が確認されている魔物程度は既に敵ではない。
未だその実感が沸かない皆に少しでも安心してもらう為、リクはその点を特に強調しつつ、いつも通りの振る舞いに徹したのだ。ついでに固まったままのシルヴィアの肩を軽く揺さぶっておく。
「…あ、そ…そうだね。ちょっとビックリしちゃって……もし魔物が少ないのなら、探して討伐すれば良いもんね。うん、考え過ぎてたかも」
「………も、もっと楽観的に考えてても良さそうな感じじゃない、これ?」
「う、うん………リク君もシルヴィアも…いつも通りだし……大丈夫な気がしてきた…」
「…よし、Z組はこれから移動を開始する。以後、拠点確保まではリクとシルヴィアの指示に全員従うようにしよう。では二人とも、先導を頼むぞ!」
「ん、任された。じゃ、全員が安心して寝泊まり出来そうな広い場所を確保するのを第一に…出発!!」
リクの振る舞いで全員の緊張が適度に解れた事を確認し、アレイが号令を掛ける。既に他の部隊は出発している時刻だが、後れを取り戻そうなどと言うつもりはさらさら無い。
魔物討伐に関してはエキスパートとでも言うべき二人に先導を任せ、自分達はあくまで経験を積む事を優先したのだ。
アレイとしても少々歯がゆい思いがする考えではあるが、これこそが『無理をしない』という事そのものだと自分に強く言い聞かせる。
そう……リクやシルヴィアの『足手まといにならない』という自信を得るまでの辛抱なのだ、と。
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リスティア南部の広大な森林地帯は、大小の差はあるが木々の少ない開けた場所が点在する。
リク達Z組が進む右翼側のルートも例外ではなく、事前に配布された簡易な地図によれば…20㎞程進んだ先に天幕を張って拠点とする事が出来そうな場所があるらしい。
設営に慣れたリクとシルヴィアが居るとは言え、他に野営経験があるのはミーリィだけで、残るアレイ達はそもそも外で寝泊まりする事自体が初の体験となる。
それ故、手間取る事も考えた一行は自然といつものマラソン並みのペースで森林地帯を駆け抜ける事になった。今は兎に角日が暮れるまでに拠点を構築する…それが最大の目標なのだ。
先頭を走るリク、そのすぐ後ろにつけるシルヴィアがそれぞれ索敵の為、引っ切り無しに周囲へと魔力を放つ。
授業で何度も教えられてはいるが、アレイ達にとって初めて見る実戦での索敵魔法は正に『お手本』には打ってつけであり、それぞれが見様見真似で魔力の練り方を会得しようとしていた。
早速実戦での経験を積み始める仲間達の姿を見て、リクとシルヴィアは小さく頷きあった。この様子なら皆、大きな気負いもなく実力を発揮できそうだと二人は思う。
そしてそのままひた走る一行が、目的地と定めた場所まであと僅かまで近づいたかと思える程の距離…残り5㎞程の地点でリクは走る速度を一気に落とし、全員に止まるようにと右手を振って指示を出した。
声を出さずに合図だけでそうして見せたリクの行動は、音を立てるべきでは無い状況を示している。迷う事なく指示通りにシルヴィアがリクの隣に止まり、続いてアレイ、ミーリィと皆が集まってくる。
「……うーん。思ったより魔物の数が多そうだなあ。魔力が反発した辺りに瘴気も結構感じるし……多分、戦闘になるかな……これだとそこそこ近くに群れが居ると思う」
「ええっ!?いきなりなの!?早くもこのナーシャ様の超絶魔法をお披露目する機会が!訪れる!ってこと!?」
「いや、落ち着くでござるよナーシャ殿!?」
「て、言うか……黙れバカ!大声出すんじゃねえ!!」
「!?むー!!むぐー……」
「シード君とミーリィの言う通りだよ、ナーシャ。確かに数は多いんだけど……正直、肩透かしって感じかなあ……リっくん、これって多分『ヴァイスル』だよね?」
「いや待て!?それこそおかしいだろうシルヴィア!?それにリクも!いきなり俺達はBランクの魔物を相手にする事になるのか!?」
「はは……最初の相手にしちゃあ……強すぎないかなあ、それ?」
「あ、あうううう……こ、怖い……Bランクって…そんな…」
リクが停止するように指示を出したのは、やはりと言うべきか魔力を放った先…丁度自分達が向かっていたほぼ正面に『反応』を捉えたからだった。
魔力の反発作用を利用する索敵魔法は、非常に高い精度で相手の位置を特定出来る反面、反発作用を生じる際に相手にこちらの存在を気付かれる危険がある。
言わば、自身と異なる魔力をぶつけられるのだから当然と言えば当然なのだが、これは人に対しても魔物に対しても変わらない事だ。
リクとシルヴィアは討伐の際、索敵の後は必ず【隠密行動】を発動させる等、自分達の位置を察知させない様に細心の注意を払ってきた。
だが、今回は二人以外にはイリスだけが【隠密行動】の【スキル】を所持しているだけで、全員の気配を完全に消す事はまず不可能だろう。
その為、リクは接敵する遥か前だと判断しつつも、全員に心構えをして貰う時間を作る事も含めて……早々と動きを止めたのだ。
いよいよ魔物と戦うのだ、と一同に緊張が走る…かと思いきや、真っ先に声を上げたのは、完成したばかりの短杖を右手で掲げ、豊満な胸を大きく反らしたナーストリアである。
いきなり最大火力の魔法を放ちかねないテンションの彼女を慌ててシードが止めに入るが、ナーストリアを止めるには彼の体は小さ過ぎ……子供の様に振り回された。
そして結局は業を煮やしたミーリィが『小声で叫ぶ』という器用な真似をしつつ、彼女の口を塞いだ。抗議のうめき声が上がるが当然ミーリィは無視する。
更にそのやり取りの間、詳細に相手の瘴気を分析していたシルヴィアが魔物の種類を特定する。一応、リクに確認するのは互いの意見が一致しない場合は再度索敵魔法を使う、という普段通りの二人の取り決めなのだが…
その分析によると、Z組が相対する可能性が高い魔物の正体は…狼の様な姿を持つ魔物『ヴァイスル』だという。
これに真っ先に驚き、やはり器用に小声で叫ぶアレイ。そしてルーカスとイリスも驚愕、そして怯えた表情を浮かべる。
優れた皮革製品の材料として高価で取引される事でも知られる魔物の脅威度は…『Bランク』と冒険者ギルドでは指定しているのだが、これは例年の大討伐演習で遭遇が想定されている『最高ランク』である。
つまり、Z組は初めての実践でいきなり演習最高難易度の魔物との戦闘を強いられる事が濃厚となった、という事なのだ。普通ならば即時に撤退し、他の部隊との合流を最優先すべき事態と言える。
そう……普通ならば……
「数は……そうだね、多分8体。丁度いい感じに一体ずつ倒せそうだよ?これなら良い準備運動になるんじゃないかな?」
「そうだな。俺も良いと思う。試しに皆…『普通に』魔法の矢で攻撃してみよっか。ヴァイスル相手ならそれでも過剰火力だろうけどさ」
「いや……全力で行かなくて良いのか!?相手はBランクの魔物なんだぞ!?」
「やってみれば分かるって。今のアレイ達の魔法や戦技は、毎日の訓練と…あの魔人形との模擬戦闘の経験とでケタ違いに威力が上がってる。ヴァイスル程度なら…消し飛ぶと思うぞ?」
「……お喋りはそこまでみたいだぜ。皆、構えな!!来るぞッ!!」
獣人族特有の…その中でも狩りを得意とする人狼族のミーリィの鋭い聴覚が、未だ姿は見えないものの、自分達へ近づいてくる『敵』の動きを察知した。
その言葉に反応し素早く戦闘態勢を取る一同……と、のんびりとした動作でそれぞれ長剣とメイスを取り出して準備を始めるリクとシルヴィア。
昨日までの鋼鉄の輝きでは無く、練魔鋼特有の黒光りする輝きを放つその武器は、村を出る際に鍛冶屋のハルバーから手渡された物と同じなのだが…
「……わざわざ外側を鋼鉄で覆ってるなんて考えもしなかったね。ハルバーさん、私達が練魔鋼の軽さに慣れてないからこうしたのかなぁ?」
「いや、多分…だけど。俺達が派手に暴れ過ぎない様にわざと重くするのと、威力を削ぐのが目的だったんじゃないかって思う。実際、ちょっと振ったら軽さには慣れたし」
そう。数日前にエリスから伝えられていた通り、二人がこれまで鋼鉄製だと信じ込んでいた得物は、実際には錬魔鋼を用いて作られた『特別製』の武器だった。
但し、一目ではそうとは分からない様にそれぞれ外装として鋼鉄で覆い隠し、今まで使用していた剣とメイスの重さに合わせた『偽装』が施されていたのだ。
どうしてそんな手の掛かる事をしたのか、とリクとシルヴィアはそれぞれの意見を述べ合うのだが…切羽詰まったミーリィの叫びが二人を現実に引き戻す。
「だからお前らァッ!?もう魔物が見えてるってんだよ!!散開しろ、散開ィッ!!」
「分かった分かった。じゃ、皆…全速力で走って…それぞれ引き付けたら一匹ずつ倒してみよっか。くれぐれも魔法を普通に抑えるのを忘れるなよー?」
「…無茶を言うな!全員散開!!兎に角一人一殺で行くぞ!!リクの指示通り魔法の矢だ!!」
リクとシルヴィアが改めて皆の元へと視線を戻してみると、すっかり視認できる距離にまでヴァイスルの群れは近づいていた。事前の打ち合わせ通り、各自が半信半疑といった面持ちで魔法の矢を放つべく魔力を練り上げている。
1か月という短い期間ながら、常軌を逸した魔法制御訓練を乗り越えて来たアレイ達6人の魔力を練る手並みは、既に熟達した魔法使いを凌駕する域に到達しており、全員が瞬く間に発射準備を整えた。更に今度はリクとシルヴィアを加えた8人全員が散開して駆け出す。
初速から最高速の走りでバラバラの方向へと散っていくZ組の動きにヴァイスルの群れは虚を突かれ、一瞬右往左往するが…すぐさま散り散りになった『獲物』を一体ずつ追い始めた。
しかし、魔物の中でも比較的走る速度が早い方に分類されるヴァイスルの全速力が、Z組の走る速度に全くついていけない。
それもその筈。Z組の面々は全員が【走破】を発現しており、元々それを発現していたミーリィは【高速走行】への変化を遂げていたのだ。早朝の弾丸マラソンの成果の一つをここで早くも見せつける事になった。
そしてリクが厳命した通りに『通常の威力』を心掛け……5人の右掌と1人の右拳に純粋な白い魔力が輝き、気合と共に一斉にそれを解き放つ。
「「「「「【魔法の矢】!!」」」」」
「【飛翔拳】!!」
「ちょッ!?何かアレイだけ違うの放ってないか!?おかしいだろアレ……っと、こっちも……っとッ!!」
「こ、拳の形の……えっと、一応……魔法の矢みたい…だね……えいっ!!」
異口同音。5人の声が唱和し、高速度で一斉に放たれる魔法の矢。そして一人だけ全く異なる名前の『技』らしきものを吠え、まるで遠く離れた相手を殴り飛ばすかの様に拳を振りぬいて魔力を解き放ったアレイ。
あんまりな光景に思わずリクがツッコミを入れ、シルヴィアが苦笑しつつもアレイが放った物が一応は魔法の矢と同種の物である事を確認しつつ…二人もまた瞬時にヴァイスルとの距離を詰めると、片手間でそれぞれの武器を相手に向かい軽く振り抜いた。
その直後。
ドゴオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!
比喩ではなく、大地を揺るがす轟音と共に大森林の一部が吹き飛んだ。それも6カ所も同時に。
それぞれが十分に魔力を抑え、普通の威力を心掛けた上で放った筈の一撃であった筈だった。しかし、その威力はアレイ達が想像していたものとは次元の違うものになってしまっていた。
着弾と同時に大地が大きく抉れ、木々は薙ぎ倒されるか吹き飛び、目標であった筈のヴァイスルはそれこそ……肉片すら残らず消し飛ばしてしまった。
原型を留めているのは僅か2体。リクが剣で首を刎ね飛ばしたものと、シルヴィアがメイスでやはり頭部だけを叩き潰したものだけだ。
これをツッコミや分析をしつつ片手間でやってしまうあたりは、流石に経験の差と言うべきなのだろうか。
それぞれの戦果を暫し呆然と見つめるアレイ達の姿に、リクとシルヴィアは再び笑顔を交わし合い…自分達が仕留めたヴァイスルをシルヴィアの凍結魔法を用いて冷凍し、リクの収納用魔具へと放り込む。
ヴァイスルの毛皮は高値で引き取って貰える為、ついいつもの癖で持ち帰ろうとしているのだ。一応、演習では討伐した魔物を持ち帰る事を制限していない為問題はないのだが…
やがて自分達の挙げた戦果を漸く飲み込む事が出来たのか、全員がリクとシルヴィアの元へと集まってきた。
初陣を見事な勝利で飾った事で興奮冷めやらぬ、といった面々を前にリクは一先ずの総括を始める。
「……取り合えず初勝利、って事だけど。アレイ、今のは何だよ?魔力を込めた拳で遠距離の敵を殴るなんて聞いた事ないぞ?」
「いや、俺の魔力制御で魔法の矢を放つと目標から逸れる事があっただろう?ところがこうすると不思議と外れないのだ。言っておくが…これはお前の闘気の拳が元になっているんだぞ?」
「……ああ、成程な。確かにリクの闘気の拳って奴は離れてても闘気だけブッ飛んで来てたよな。アレを魔法の矢で再現したって事か……メチャクチャだな」
「少々魔力の効率は悪くなるが、当たらないよりはマシだろう。それに…Z組だからな。メチャクチャな位気にするまでもないだろう」
「うわぁ……アレイまでこんな事言いだしたら、いよいよ僕らは異能者の集団って事にされそうだねぇ。に、しても……」
「すっっっっごいんじゃない!?私達ってば!!Bランクの魔物を倒しちゃったわよ!?それも…こんな簡単に!!」
「お、落ち着くでござるよナーシャ殿!?」
「わ……私でも……倒せちゃった……それだけ強くなったって…ことだよ、ね?」
「皆、ちょっと力んじゃった分だけ普通よりも強い魔法の矢だったんだけど、十分に分かってもらえたんじゃないかな?皆がどれだけ強くなれたのか、って」
ひと際大きな威力を見せたアレイの技の名は【飛翔拳】というらしい。
シルヴィアが分析した通り、実質は魔法の矢である。但し、普通は開いた掌から発射するようにイメージする筈の魔法を、アレイは『魔力の拳で殴りつける』イメージで飛ばしたのだと言う。
彼の生来からの異常な量の魔力は、著しく魔力制御能力が向上した現在でもまだ完全な制御が困難らしい。
通常なら必中とさえ言われる魔法の矢でさえ例外ではなく、威力や速度を上げようとしようものなら…たちまちに命中精度が落ちてしまったのだ。
そこで考えたのが、リクの闘気の拳の特性を真似る事だった。模擬戦闘で幾度となく叩き込まれた拳は、離れていても闘気だけが拳の軌道に沿って飛んでくる事が多々あった。
自身は闘気を扱う事は出来ないが、魔力での代用なら可能ではないか?と練習と考察を重ねてきた末に生み出されたものなのだそうだ。
これでもかという力技にミーリィが呆れた声を上げ、苦笑するルーカスもそれに同意する。そして…その後ろではナーストリアが大声で盛り上がっていた。
まだ他に魔物がいるのではないかと一人警戒を続けようとしていたシードが止めに掛かるが……やはり体格差により振り回されている。その横では自分の両手を見つめて、未だ信じられないといった表情のイリス。
そしてそれぞれが自身の力を理解し、噛みしめ……自信を付けた事をもう一度確認するように笑顔のシルヴィアが口を開く。
彼女が言うように、初陣の緊張からアレイ達にはかなりの力みがあった。その為、最初にあれだけ言われていたにも関わらず…無意識の内にそこそこの魔力を込めて魔法の矢を放ってしまった。
結果は大勝利……と大規模な破壊である。改めて自分達の攻撃が起こしたものを見て一同は気を引き締める。
既に自分達の力は大きすぎる、と言えるレベルに到達してしまっている。これでは全力を出す局面を見誤れば……大惨事を引き起こしかねない事実をアレイ達はハッキリと認識したのだ。
「俺達にとっては…そうだなあ、もう『A+』位なら倒せる筈だよ。だから、そのランクの魔物以外には出来るだけ加減して戦って行こう。普通に魔力も体力も勿体ないからさ」
「それじゃあ……そろそろ出発かな?皆、少し時間掛かっちゃったから、速足で野営ポイントを目指すね。ちゃんと夕飯の支度もしたいから」
「急ぐ理由が晩メシなのかよ!?……ったく、お前等のペースに合わせてたら逆に疲れるぜ……」
「えーっ?だってご飯は大事だもん…」
興奮も冷め、空気が弛緩した頃を見計らい、リクとシルヴィアは出発の号令を掛ける。しかし…シルヴィアがあくまで夕飯の支度に万全を期したいから、と言い切ったことでミーリィがツッコミを入れた。
そのミーリィに不思議そうに小首を傾げて見せるシルヴィアの仕草に思わず一同から笑い声が漏れる。
この後、都合3度魔物との交戦を重ねつつ…Z組は一路、今夜の野営を行うと定めたポイントへと大森林を駆け抜けていくのだった。
既に歴代の大討伐演習における総合戦果ポイントを遥かに凌駕する戦果を叩き出しているとは露知らず……
前回言葉を濁しましたが、仕事量の増加に伴い執筆時間が非常に制限されてしまっております…
言い訳でしかありませんが、絶対に投げ出す事だけはしませんので…




