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僕が異世界常駐でゲームのデバッグをさせられた件  作者: s_stein
第一章 異世界にもVRゲームがあった
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聞いていない話のオンパレード

 動かなくなった山田さんに不安になった僕は、目を覚まさせることをかねて大声で呼びかける。

「山田さん!?」

 動かない。マジか……。

「や・ま・だ・さん!?」


 すると、彼は、浮遊した魂が体内に戻って我に返ったかのような顔をする。

「おお……」

 おおじゃないだろう。

「どうされました?」

「いや、失礼」

 ほんと、失礼だ。


 そうして彼は、僕の耳元に口を近づける。それはもう近すぎて耳をなめるくらいに。

 女の子なら許せるけれど、男はきもい。

 数センチよけたが、向こうは追ってくる。

 あきらめた。まさか、その方面の人じゃないよな?


「……」

 この人、また黙っているよ。

 早くしてくれ。くすぐったくて、息がタバコ臭いんですけど。


 すると、山田さんがロボットみたいに変な声でしゃべり出す。

「これはサイシンのギジュツをツカッた『この世界』にないセイヒンの『試作品』なので、シュヒギムはゼッタイにマモってください」


 今、わざわざ『この世界』って言った。

 どういう意味だ?

「守秘義務は、まあ当然守りますが、これ試作品なのですか?」

 彼は、僕から遠ざかり、またいつもの声に戻って回答する。

「はい。今回の作業は、この試作品の動作確認も含まれています」

 どうしちゃったんだ、この人。


 今、『試作品の動作確認』って言った。

 この話は聞いていない。


 最初、彼から説明を受けたときは、これから発売するVRの恋愛&アクションゲームをデバッグする作業と思っていた。

 しかし、それを動作させるHMDの試作品の動作確認って、ゲーム以前の話である。


 どう考えても、重要度が試作のHMDの操作にあるような気がしてきた。

 つまり、恋愛&アクションゲームは動作確認用の単なるコンテンツで、デバッグのウエイトはHMDというわけ。

 そこで、彼から受けた説明をもう一度頭の中で振り返ってみると、次のことがわかった。


 -デバッグ対象は、恋愛&アクションゲームとは言ったが、そのゲームのデバッグの作業だけとは言っていなかった。

 -そのゲームは、これから発売するゲームとは言っていなかった。

 -そのゲームの動作環境は、すでに発売されている、あのHMDとか、あのゲーム機とかを何も言っていなかった。

 -動作確認に使うHMDは試作品と言っていなかった。


 ことごとく依頼内容が曖昧になっていることに改めて気づいた。

 どうも僕は、既知の情報で相手の曖昧な話を勝手に補完して、理解したつもりになっていたようだ。

 聞く側、つまり自分の都合いいように、こうなっているのだろう、と補完して。


 これでは、おいそれとは作業に取りかかれない。

 少し鎌をかけつつも、真意を引き出す必要がある。


 僕は勇みながら、彼に質問をぶつけた。

「これを使って、恋愛&アクションゲームのデバッグをするのですよね?」

「ええ」

「デバッグの観点がずれると意味がなくなるので伺いますが、ユーザ視点で何をどこまでデバッグするのですか?」


「装着してみるとわかりますよ」

「いえいえ、いきなり装着しろって言われても、はいそうですかとは、こちらもできません。これ、どういう試作品なのですか?」

「怪しいものではありませんよ」

「そういう問題ではなく、私に何をさせたいのですか?」

「……」

「そちらの意図が理解できないと、こちらの作業は、その意図とずれた作業になりますが」


 山田さんは困った顔つきになって、ぼさぼさ頭に右手を突っ込み、ボリボリとかく。

「先に種を明かしてしまうと、こういうことまでできるんだ、という操作者の驚きが半減するので言わないでおいたのですが」

「なぜですか?」

「先入観が入るので」


「でも、購入者は前情報で期待して購入し、それを実際に体験して驚いたり楽しんだりするのですから、隠すものじゃなくて、むしろ積極的に教えますよね?」

「それは商用ベースの話で」

「ということは、これは試作ベース?」

「……はい」

「説明の時は『試作』って伺っていませんが」

「……」

「ゲームのデバッグと伺いましたが、そうではなくて、HMDのデバッグですか?」

「……」

 彼は急に黙ってしまった。


 少し真相究明を急ぐ。

「言葉は悪いですが、もしかして私は実験台?」

「そこまでは申しておりませんが」

「いや、何が起こるかをおっしゃらずに、さあ装着してくださいって、実験台だと思いますが?」


 彼の頭をかきむしる手が異様に早くなる。

 そして、急に手が止まった

「わかりました。どういう試作品かを先にお教えしましょう」

 それを先に言えよ、という言葉は飲み込んだ。

「よろしくお願いします」

 大人の対応で返す。もう僕はガキの年ではないから。



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