世にも不思議なHMD
山田さんは、一呼吸おいてから説明を始める。
「このHMDを装着するとですねぇ」
そして、驚かないでくださいよ、と言いたそうな表情で、僕の目をジーッと見る。
まるで、僕の驚きの表情を一瞬たりとも見逃さないように。
「コンテンツが見えて音が聞こえるだけではなく」
「ええ」
「触ったり触られたりという皮膚を通じた感触まで体験できます」
「……!」
「さらには、熱い冷たいという温度も感じます」
「……!!」
「ツルツルやザラザラの感触も伝わります。匂いまで嗅げたりします」
「……!!!」
いきなり不思議なことを言い出す彼に、僕は言葉を失う。
「残念ですが、まだ味覚や食感、口の中に入れて飲み込む感覚や満腹感までは再現できていません。つまり、食事系はできません」
「……?」
当たり前だろ。
僕の耳がおかしいのか? 気でもふれたか?
いや、そんなはずはない。
僕はいたって正気だ。
山田さん、何、冗談みたいなことを言い出すのだろう。
そんな馬鹿なことができるはずがないではないか。
HMDをかぶって、見えているものが触れる?
熱も感じる??
匂いも嗅げる???
いきなり全否定するのは悪いので、僕はちょっと驚いてみせた。
「えっ? 普通は視覚や聴覚だけに訴えると思っていましたが」
それを聞いた彼は、少しもったいぶった言い方をする。
「いいえ、これは、それを超越したHMDなのです」
あり得ない。
感覚は神経の伝達信号。
装着するだけで脳細胞と直結するHMDなのか?
そんなことをしたら、脳細胞が破壊されかねないだろう。
おお!? だから、僕が実験台なのか??
僕は、思わず吹き出しそうになるのをこらえた。
そして、徐々に核心に触れる言い方をして、相手の矛盾を突くように試みる。
「となると、このHMDを装着すると五感のうち味覚以外に働きかけるのですね?」
「はい」
「食べる感覚は再現できないと」
「ええ」
「実際に物を食べるわけではないですから、そりゃ再現できませんよね?」
「……」
「感覚は筋肉から脳へ伝わる電気信号ですから、HMDが全身の皮膚や筋肉に作用できないと思うので、頭蓋骨の障壁を越えて脳細胞に働きかけると」
「……」
「どうしてそんなことが、このHMDでできるのですか?」
すると、彼は平然とした顔をし、口角をキューッと上げる。
「それは企業秘密です」
出たー! 伝家の宝刀!
うさんくさいものでも、これを一振り、あら不思議、まともになる。
そんな粉飾なんか消え失せろ。
僕はどうにも信じられない。
ゲームのプレイ前に、僕を催眠術とかで暗示にかけるのだろうか?
ここはどういう作戦で行くか、考えどころである。
まあ、嘘に決まっているだろうが、どんなごまかし方をしてくるのか半分興味もあるので、騙されたふりをすることにした。




