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僕が異世界常駐でゲームのデバッグをさせられた件  作者: s_stein
第一章 異世界にもVRゲームがあった
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デバッグ室はカオス

 僕が山田さんの背中にくっつくように部屋の中へ入ると、彼はスッと僕の後ろに回り、ドアをバタンと閉めた。

 完全に真っ暗になった。

 電気もつけずにドアを閉めるなんてちょっと非常識ではないか。


 そのうち電気をつけるだろうと待っていたが、何も起こらない。

 完全な沈黙が続く。


 衣擦れの音もしない。

 呼吸する音すらしない。


 僕の震える筋肉だけが音を立てる。

 いや、その振動が鼓膜に到達することで、音が聞こえているかように錯覚しているのだろう。


 一人暗闇に投げ出されたわけではないのだろうが、相手が沈黙してしまうと恐怖心が募ってくる。

「あのー、……山田さん?」

 自分の声が闇に吸い込まれる。反響音があまり感じられないのだ。

 だからなのか、返事がない。


 ここでいきなり彼に抱きつかれることはないだろうが、とにかく不安である。

「……山田さん??」

 これも返事がない。


 彼は消えてしまったのだろうか。

 完全な沈黙が続く。

 自分が動くと少しは衣擦れの音がするから、耳が聞こえなくなったわけではないようだ。


 ちょっと声を大きくしてみる。

「山田さん! いますか???」

 またもや返事がない。


「や・ま・だ・さん!?」

 こちらの問いかけが、全て闇に飲み込まれる。

 こんなことって、あるのだろうか。


 とその時、右横の方向からゴソゴソと音がする。

 急に音がしたので飛び上がるほど驚愕し、震えが倍加した。

 これは心臓に悪い。寿命が縮んだ気がする。


 腕を伸ばして壁のスイッチを探しているのだろうか。

 真っ暗にする前にやればいいものを。

 嫌がらせだったら、たとえ初対面であれ、本気で怒るところだ。


 やがて、パチンというスイッチ音がした。

 同時に、パッと部屋の中が明るくなる。

 闇の中で光が爆発したみたいだ。


 明かりがつく予想はしていたものの、こうも急に明るくなると、反射的に目を細めてしまう。

 先ほどまで暗闇に慣れようと開いた瞳孔が急に小さくなったはずだ。

 こういうときに目が痛くなるのは瞳孔のせいかは知らないが、とても苦手である。


 明かりに目が慣れるまで数秒かかった。

 まず視界に入ってきたものは、6メートル四方くらいかと思われる広さの部屋。

 そして、そこに広がる奇妙キテレツな光景。

 はっきり言って<カオス>。


 たくさんのパソコン本体、たくさんのモニター、たくさんのカメラ、たくさんの計測器、無数のケーブル、多数の工具類。

 それらは、部屋の三方向の壁際に置かれたいくつもの長い机の上に、雑然と放置されている。それはもう混乱状態と言って良いほど。


 この部屋の使用者は、整理整頓というものを知らないようである。

 会社だって、自宅みたいに思えばキレイにしようという気になるはず。

 あ、自宅がゴミ屋敷の人は別だけれど。


 そして、部屋のど真ん中に鎮座する白いシーツのベッド。枕なし。


 <カオス>の中心に白いベッドがデンと置かれると、ここだけ整然としているように見えて、かえって異様なほど存在感がある。


 よく泊まり込みでデバッグをするときは、仮眠室があてがわれて、そこに仮眠用の折りたたみ式ベッドがあったものだ。

 これは、僕たちにとっての必需品である。

 リフレッシュコーナーの長椅子をベッド代わりにして床に落ちたことがあるから、ベッドのありがたさがよくわかる。


 もうそれがここにある。しかもすでにセットされている。

 ということは、実に用意周到。

 ここはデバッグ室、兼、仮眠室なのだ。

 こういうのを見てしまうと、太陽が高く昇る昼間からもう徹夜覚悟の気分になる。


 なお、後々わかるのだが、このベッドこそが僕の長い『デバッグ生活』のフィールドとなるのだ。


 山田さんは、僕のすぐ右横に無表情の顔を見せている。

 その割には気配が全く感じられなかった。実に不思議。

 それ以前に、真っ暗にしたことに対する詫びの一言もない。


「どうして黙っていたのですか?」

「……」

「さっきから呼びかけていたのに、聞こえていなかったのですか?」

「これがHMDです」

 人の話を聞かない彼は、<カオス>の中からズルズルとHMDを取り出す。

 扱いが雑だ。


「あのー」

「これを使っていただきます」

「あのーー」

「これ1台しかありませんから、取り扱いに注意願います」


 質問無視。取り付く島もない。

 ちょっと初対面の客人への接し方について講釈でも垂れようかと思ったが、やめた。

 こういう人だと思って、あきらめるしかないようだ。


 HMDの形状は眼鏡型だが、厚みのある装置みたいなものと大きめのヘッドフォンが両側についていて、普通のサイズより大きい。

 持ってみると重量感がある。

 正直言って、これを長時間装着できる自信はない。

 座らず、寝っ転がるしかないだろう。


 あれ? HMDにケーブルがない。

「これって、ケーブルはないのですか?」

「これはスタンドアロン型で、ゲーム機とはWi-Fiでつながっています」

 言われてみると、HMDの右横に短いアンテナのようなものが見えた。なるほど。


 急に彼が小声になる。

「それと……」

「はい」

「……」


 なぜか次の言葉が聞こえてこない。

 それどころか、時計が止まったように動かなくなった。


 彼の身の上に何が起きたのだろう。



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