秘匿実験
ローリーとルナの聞き込みによれば、修練所に「秘匿修練室」という部屋があるらしい。有料らしいが、誰かに見られたくないような技を練習したいときに借りるものらしい。完全防護剤、完全防音剤、魔力反射材というのを材木に仕込んでいるらしいので、外からでは魔力すら感知できないという触れ込みのようだ。ちなみに修練所のオーナーにも見れないようになっており、何らかの理由で万一部屋を破損させた場合、実費で修理しないといけないらしい。
料金は1時間10$。1000円だな。
一応曲がりなりにも余裕があるのでこの料金くらいは自分で払おうとしたら、
「何言ってるんです、パーティでしょう」
「秘匿スキルを見るんです、情報料くらいは出しますよ」
などとリーシャとローリーが言うので、お言葉に甘えることにした。
少しルナが恐縮した風だったが、苦笑して頭をぽんと叩くと、気にしないことにしてくれたようだ。目配せすると、ローリーもリーシャも、俺の真似をして頭を叩き、「子供扱いしないで下さい」とむくれていた。
「すまんな、今日は珍しく使ってるヤツがいてな」
普段あまり使われないらしい秘匿修練室には先客がいるようだった。
すぐに終わるとのことで、待たせてもらうことにすると、オーナーが「すまねーな。これはオゴリだ」と4人にそれぞれコップ1杯づつのジュースをくれた。
とりあえずそれを飲んでみると、どこかで飲んだことのある味がした。
リンゴではないが、似たような甘酸っぱさ。少し酸っぱさの方が勝っているような気がするが、クドい味ではない。よく見れば、壁にメニュー、……らしきものが貼ってある。数字しか読めないのでわからないが、多分この中にジュースもあるのだろう。
1時間も経たず部屋が開いたようだ。使用していた人物は裏口から帰ったらしい。
案内されるままに部屋に入ると、部屋の中はがらんどうだった。ほとんど何もない。あまり使われることもないらしいとの情報だが、まぁうん、使われていない理由のようなものもわかる気がする。
「……苔とか生えてますね」
「焼きますか?」
リーシャが呟くように言うと、ローリーが物騒なことを言い出すので「いやいや」と突っ込みだけ入れ、とりあえず準備することにした。
用意したのは2種類の種だ。
1種類はオリジナル。採ったままのウィーベリー。
天然ものの種だ。略して天種だ。
――まったく意味がわからないので、とりあえず天種と呼ぶことにする。
もう1種類は魔法で、開花→受粉→種までのプロセスを一気に成長させた種だ。人工モノというか、魔法モノというか。
とりあえず天種の対義語として魔種と呼ぶことにする。
時間もないので、まずは天種から。
とりあえずルナとやった時同様、網をイメージして一気に形を作って行く。
4度目だからか、前よりも少し慣れた気がするが、まぁたった4度で慣れるはずもないので多分気のせいだろう。
ローリーも目を見張っているところを見て、少し自信が湧いた。
「少し前より早いですね」
「……慣れたからだろ」
同じことを考えたのか、ルナの言葉にそう返すと、リーシャは何か思うところがあるのか、「ふむ」と呟くように言った。
MPは――と見てみると、【MP:12/32】。ルナと前にやった時と変わらないなと思いながら、魔石で全快した。
次に魔種。
同じように魔力を注ぎながら網をイメージする。
「わわ」
「――これは」
ルナが驚く程度には伸びが違う。ローリーもさらに驚いたように呟くが、ある程度蔓が伸びたあたりで、少し表情を厳しくした。
「……こんなものか」
網を完成させると、ローリーが「なるほど」と呟いた。
「……成長の進行速度が違いますね」
「速度?」
思わずオウム返しに聞き返すと、ローリーは「いえ」と手を横に振った。
「とりあえずもう少し検証しましょう。話はそれからです」
【MP:17/32】。これも、リーシャとダンジョンでやった時と変わらないなと思いながら、魔石で全快した。
次にやったのは、同時発芽実験だ。
まず組み合わせは天種と天種。
――思った通りというか、魔力がしっかりと流れる様子がわかるので、操作がしやすいためか、両方同時にやってもそこまで混乱はしない。ダンジョンでやった時には魔力の流れに混乱があった気がするのだが。問題なのはMP不足くらいか。
「2つ同時でも行けたじゃないですか」
「……そうだな」
リーシャには同時展開ができそうにない、と少し愚痴っていたので、あっさりとそれを成した俺に呆れたように言われてしまった。とは言っても、魔力が足りなかったので中途半端に網が小さい。とりあえず返事だけすることにし、次の実験に移ることにする。
念のため見てみると、【MP:1/32】。ギリギリ枯渇まではしていなかった。途中で魔石から補充できるようになれば、十分行けそうな気がする。
さて次に、魔種と魔種での同時発芽実験だ。
魔力を注ぎ込んだ瞬間に気付く。
――うわ何これむっず!
出来ないわけではないが、……これはキツい。
「――ッ」
思わず両手を種から離した。魔力が手や種から拡散するのを感じながら気付く。
「大丈夫ですか?」
ルナが心配そうに声をかけてくれているが、とりあえず頭を撫で、反対の手を握ったり開いたりを繰り返す。
これは単純に……コントロールの問題か。
●魔素の基
一応そのための能力は持っているはずだ。
しかしまぁ、とりあえずもう一度だ。
魔種はいくらでも作り出せるが、後で一応、天種から育てて作り直そう。
何度かの練習の後、魔種が切れたので一時中断することにした。
魔種はあと1つしかないが、とりあえず何となくわかってきた。
「……何度か見ていて思ったのですが」
ローリーが声を挟む。
「魔力製の種の方は、種そのものに魔力があるのでは」
「……あぁ、なるほどそういうことですか」
ローリーの仮説に、リーシャが納得したように呟く。
リーシャとローリーの仮説の立て合いに参加しつつ、話を整理しつつ、魔種を作成する。魔種の収穫は何も言わなくてもルナがやってくれているようなので任せることにした。
簡単に言えば、種に残った魔力、――正確には魔力を分解した物質のようなものが残っているため、それに魔力が触れると物質が魔力に戻ることになる。
その結果魔力同士が絡み合い、結果俺が思ったようには魔力が流れなくなるということだ。水滴同士のようにくっつき合い、結果魔力のコントロールが悪くなる。
なるほど納得の行く仮説ではある。
それならMP消費が少ないことも理由が付くしな。
ただ、ひとつだけ納得の行かない現象がある。
1つだけなら、天種と変わりなく――MP消費は少ないが――コントロールは乱れないのだ。1つだけなら集中しているからいけてるのか、それとも別の理由があるのか。
とりあえず残った1つの――ルナが収穫してくれてる分は除く――魔種と、天種の2つでやってみることにする。
魔力を流すと、天種の種がまず発芽した。一瞬遅く魔種も発芽し、魔力が一気に魔種の方へ引き寄せられる感覚。
「――ッ!?」
いつもなら問題のない天種までまともに操作できない。魔種の方に気を取られているのかとも思ったが、天種に意識を集中してもほとんど変わらない。
結果だけを見れば、魔種2つの時と変わらない状態に終わったのだった。




