封印の魔石
「そんなことやってたんですか?」
「ミカミさま……」
ローリーには呆れられ、ルナには心配そうな顔をされた。
「どうせ魔力が足りなくなるから1回だけだと思ったんだ」
「……それ今考えましたね?」
「ミカミさま…………」
ちょっと言い訳してみると、ローリーが即座に突っ込みを入れ、ルナはそれを聞いてさらに心配そうな顔をする。
まぁ割と本気で1回しか保たないと思っていたのだが、苦笑して誤魔化すに留める。どう言ったところで、心配をかけたのは事実だしな。
とりあえず、人目の少ないところへと移動しようということになった。
宿でやってもいいのだが、掃除が大変だし、どこかに根でも張られたら最悪だしな。
「この前の丘みたいなところでいいか」
「あっ、あそこはダメです」
候補を上げてみると、ルナが即座に却下した。
「イベントみたいなのがあるらしくて、朝から人が集まっているようです」
そうなのか。となると俺には一切心当たりがないのだが、どうしたものか。もう一度、ルナを除く全員でダンジョンに行った方が早いような気すらしてきたぞ。まだMP回復してないけどな。
少しMP回復のために実験を後に回し、その間にリーシャと買い物に行くことにした。ひとりだと何をするかわからないからとのことだ。ちなみにルナとローリーは適当な場所を探してみるとのことだ。
とりあえずリーシャを連れたまま雑貨屋へ向かう。目的は魔石なのだが、魔石を売る店は、俺が知っているのは雑貨屋しかない。アルカナードでは魔法屋という店があったのだが、今まで散策して回った限りではそういう名称の店は見当たらなかった。見落としただけかもしれないが、まぁ雑貨屋には良くしてもらってるから別にいいか。
「あぁ、例のミサンガのところですか」
どこへ行くのかと訝しんでいたリーシャはようやく納得しつつ、「楽しみですね」と言ってくれた。実はあのミサンガ自体は雑貨屋のオリジナルで、付加魔法を発注したのも思い付きらしいとのことだ。
ちなみに他のミサンガは、リーシャにやったものより軒並み高いので正直連れて行くのは気乗りしないのだが、……まぁ別に何かの記念でやったわけでもないし、リーシャに何かを求めてプレゼントしたわけでもないので、別にいいかと思い直した。
雑貨屋に着くと、ひとり先客がいた。エルフなのか、耳が尖っているのが見えるが、観察しようにもローブのようなものを着込んでいるのでほとんど見えない。中にかすかに見える髪は金髪のようだが、……映画化した某ファンタジー小説のエルフに似ている気がする。気がするだけだが。
「……待ちましょうか」
「そうだな」
狭い店なので俺たちが入ると邪魔だろうと思いつつ外で待つことにする。
待ちながら観察していると、エルフは色々と物色した上で、「また寄るよ、邪魔したね」と言いながら帰って行った。帰り際、こっちを見て会釈だけして行ったのでこっちも会釈を返しておいた。
店に入ると、「お」と爺さんが呟いた。
「いらっしゃい。コレかの?」
「……前にも言ったが、女性のパーティメンバーだ」
俺の言葉にくっくっ、と意地の悪い笑い方をすると、「今日はどうした?」と言ってカウンターから出て来た。
「安い魔石が欲しいんだが、……あまり詳しくなくてな」
とりあえず実験をするにあたり、ある程度の魔石を準備しなければいけない。
爺さんは「ふむ」と呟くように言うと、魔石のコーナーへ……ではなく、何故かカウンターの裏から箱を取り出した。
「これなんかどうだね」
「――ふむ」
呟きつつ箱を手に取ると、とりあえず詳細を見てみることにする。
【封印の魔石箱】
系列:魔石
魔力軽減:ランク3
魔力:240/240
回魔:1
封印:ランク6
なるほど。封印がかかってるのか。回魔、つまり魔力の回復は1。これは単純に1時間あたりの回復力を示すらしい。ちなみに魔力が0になった瞬間に魔石が消滅するので、当然ながら消滅した場合には回復しない。
――封印とか箱とかの場合にどういう扱いになるのかは知らないが。
「全く鑑定とかに出しとらんが、少なくとも悪くはないはずだがの?」
「……おいくらまんえんくらいだ?」
「おくいらま……?……何だねそれは」
思わず口にしてしまった言葉を聞き咎めた爺さんは、それでも値段のことだと悟ったのだろう、「そうだな」と自分の顎に手を添える。
「この前のものより魔力は低いようだし、ふぅむ」
封印されてるからじゃないのか、と思わず口を挟む前に念のため常識検索すると、封印された魔石は、その封印媒体を含んでひとつの魔石という扱いになるらしい。
「値段は付いてないのか」
「……今日売り込まれたばかりでの、いつもは断るんだが、ちょっと断れない相手で仕方なくの」
営業もしてるんだろうから、まぁ断れない相手くらいはいるか。
適当に値段付けて店に並べればいいのに、意外なところで律儀なんだなと少しだけ見直すかと思ったが、よく考えたらそれって当たり前のことだったな。
「ふむ。……これはお前にくれてやろうかの」
「は?」
「長年面倒臭がってやらなかったウィーベリーを掃除してくれた礼じゃ」
「いやいや金はもらっただろ」
タダより怖いものはない。
思わず反射的に断るものの、爺さんは不思議そうな顔をしながらも、俺の手にその箱を握らせた。
「お前も変わった男だの、タダなんだからもらっとけ」
「……こういう人なんですよ、この人は」
リーシャが苦笑するのを見つつ、手の中の箱を仕方なく受け取ることにした。
「なら、何か次に来た時には礼をさせてくれ」
「老い先短いジジィだからの、生きてるかどうかは知らんぞ」
爺さんはニヤリと笑いながら、カウンターの中へと戻って行った。
とりあえず魔石の使い方を常識検索すると、使い方が自然に頭へと流れ込んで来た。言葉ではなく使い方のイメージが、知識や経験として身に付いたような不思議な感覚だ。その知識を使って魔石から自分へと魔力を移動し、MPを全快させる。
ちなみに、魔石を握ってさえいれば、魔石から直接魔力を使うこともできるようだ。まぁそこまでの魔力を使うことはなさそうだが。
宿に戻ると、ローリーとルナはすでに帰っていて、ルナが美味いメシを作ってくれていた。
とは言っても食パンだが、昔ネットで見た食い方――スマホをチェックしていたら、データフォルダに入っていた画像で思い出したやつだ――を、見事に再現して作ってくれたようだ。多分俺が教えたのだろう、覚えてないがこれほどピンポイントに俺の知っている作り方なんだから間違いないだろうと思う。とは言っても作り方は難しくない。パンの耳を刳り抜いて耳の部分を焼きながら、ベーコンやら卵やらを耳の中に型代わりに入れ、黄身が焼ける前にチーズを入れて塩胡椒で味付けし、パンの中身で蓋をして、適度に焼いたら裏返して少し焼けば出来上がりだ。簡単だから、単に偶然他にもこういう食い方が流行っているだけなのかもしれん。
ベーコンはこの世界にはないらしく、その辺は適当に肉で代用したのか、思っていたものよりも滅茶苦茶美味いものが出来上がって出て来た。
「パンは甘いものとセットで食べると思っていたのですが、卵を挟むアレといい、色々なものに合うのですね」
リーシャが言うのを聞いて、そう言えば卵サンドも最近食ってないなと思い出した。そのうちルナに教えて作ってもらうか。
「パンそのものを型にするなんて調理法は初めて知りました」
ルナはそんなことを言いつつ俺が作るより美味いものを作るので、こんな風に作り方だけ教えて任せるというのもいいかもしれない、と改めて思った。
「今度作り方を教えて下さい」
「ミカミさまに聞いた方がいいですよ」
「――なるほど、出所はミカミンさんですか」
あ、こういう言い方をするってことはやっぱり俺が教えたのか。




