くっついて結合
とりあえず状況を整理することにした。
種が1つの場合、天種、魔種ともに問題なく発芽・成長させることができる。
が、魔種が混じった時点で2つ以上の操作は厳しい。
天種は数があるので、もう少し実験は続けられるが、そろそろ1時間だ。
延長をするならそろそろ報告しないといけないのだが……
「そろそろ時間ですね」
「……延長しましょうか」
ルナは数に入っていないらしく、俺が発言するより早く、多数決で延長が決定してしまっていた。
そろそろ、リーシャあたりには俺の優柔不断はすでにバレているのかもしれないな、と思わず苦笑した。
ルナが収穫してくれた魔種を貰いつつ、とりあえずあとどのくらいいけるのかを確認してみる。
【封印の魔石箱】
系列:魔石
魔力軽減:ランク3
魔力:121/240
回魔:1
封印:ランク6
【MP:32/32】
合計153か。あと10回、2個づつで5回が限界だな。
とりあえずいきなり一日で魔石を壊すわけにもいかないので、あと4回だな。
魔種同士の展開は、練習にはなるだろうか。副産物として、天種での操作は出来そうな気がする。ただ今後は、一度金を貯めて高い魔石を手に入れないと練習台にすら厳しいだろうな。
魔石箱の封印というのが気になるところだ。まぁ箱の中に何があるのかわからない以上、封印は解かない方が無難だろう。
休憩を挟みながら4回の実験を終え、ちょうど時間になったので修練所を出ることにした。
結果は全敗だし魔石の魔力残りは3。さすがにしばらく使えないな。
「そういえば、成長の進行速度がどうとか言ってましたが」
リーシャがちらりとローリーを見ると、ローリーは思い出したように「あ」と呟いた。
「ごめんなさい、すっかり忘れてました」
「スマン俺もだ」
苦笑すると、ローリーもつられたように苦笑した。
「要するに、魔力で育った方のウィーベリーで成長の魔法を見せてもらった時、魔力の流れが行き渡るのが早かったような気がするんです」
とりあえず、面倒なので天種、魔種と呼ぶことにしたことを伝える。名称を変えたら話が早くなったものの、それでも少し話が長かったので、頭の中でまとめながら聞いてみる。
天種の時の魔力の通りを例えるならば、言うならば細いストローのようなもので、ある程度吹き込まなければ流れてすらくれないだろう。
これが魔種の場合、元々魔種に残っている、【魔力が物質に変化したもの】が関係しているのか、スポンジに水を通すかのように早かったらしい。
そこまでを聞いて、魔種を2個同時に展開できない理由がなんとなくだがわかったような気がした。
木に浅い溝を彫ってそこに水を流すところをイメージするとわかりやすい。
通常のウィーベリーは、乾いた木に水を流すイメージだ。
魔力を強く流すのは、木そのものを傾けて水を流しやすくすると思えばいい。
木そのものは水を弾く力もあるので、溝から零れるほどの量でない限りは溝通りにまっすぐ流れてくれるはずだ。
ならば、この乾いた木が最初から濡れた木だったらどうだろうか。
水はもちろん溝を優先的に流れるだろうが、少しでも油断すれば溝がない方向へも簡単に流れてしまう。流れる水の量が同じであれば、濡れている場合の方が圧倒的に左右に流れやすい。
水同士でくっついてしまう性質を持つためだったか、くっついてしまった方が科学的に安定するんだったか……まぁ細かいことは忘れたし、小学校の頃習った記憶があるだけだが、そんな感じだ。
それでもある程度勢いがあれば、溝に沿って流れてくれる分は多いだろう。
ならばこれが2本ならどうか。
答えは簡単だ。
乾いた木ならば問題なく、零れることもなく溝に沿って進むだろう。
濡れた木ならば、……おそらく、水に勢いがないために、途中の水に引っかかれば水同士くっつく性質により、簡単に軌道を修正されるだろう。つまり途中で零れやすくなってしまうはずだ。
……いやそんな実験やったことないから推測でしかないのだが。
俺が仮説を話すと、リーシャやローリーは納得したように仮説を重ねた。
魔力同士……というか、物質化した魔力――魔力物と便宜上呼ぶことにする――が魔種には残っている。
ローリーが言うには、魔力物は魔力に触れると容易に魔力へと戻るらしい。
つまりこうだ。
1.俺が流した魔力Aに触れることにより、魔力物が魔力Bへと還元される。
2.魔力Bが、触れた魔力Aとくっついて魔力Aの進路を変える。
3.その流れを想定していないので、魔力Aは変えた進路のまま進む。
4.俺がそれに気付いて魔力Aの進路を修正する。
5.他の魔力物Cが魔力Aと触れることで魔力Cへと還元される。
以下繰り返しだ。
そりゃコントロールが一定しないわけだ。……まぁ仮説だが。
つまるところ、コントロールを一定させたいのであれば、方法は2つ。
・2つ以上の発動に魔種を使わない。
・魔種2つ以上の発動時、流す魔力を単純に2倍使用する。
やってみる価値はあるが、とりあえず検証は1日1回か、もしくは魔石を追加購入しないといけないな。とりあえず実戦には程遠そうだ。
とりあえず今日は休みというスタンスに戻り、解散ということになった。
解散したはずなのだが、ルナが俺の見張りということでリーシャに命令され、俺の後ろをちょこちょこと付いて回っている。
「……何か食うか?」
食堂が並ぶ通りを見付けて歩いていると、ルナが珍しそうに周囲を観察しているので声をかけると、「え、いえ、あのその」とルナが呟くと同時、かすかにどこからかきゅるる、と音が聞こえた。
一瞬何の音かと思ったのだが、ルナがその瞬間即座に顔を背けたのを見て、――ついでにその顔が少し赤くなっているのを見て――ルナの腹が鳴ったのだと気付く。
……うん、武士の情けだ。さすがに突っ込むまいぞ。
などと思いつつ聞こえなかったフリをして「何が食いたい?」と周りを見回す。
「あ、あの。不躾ですが、どうせ食べるのでしたら」
「――ん?」
ルナがくい、と俺の服を引っ張るので、思わずそっちを見ると、ルナはじっと俺の顔を見つめて希望を口にした。
「私、ミカミさまの作って下さるものが食べてみたい」
とりあえずルナの希望を聞くことにし、適当に買い物することにした。
外で食った方が絶対美味いと思うんだがなぁ、とか、ルナの手料理の方が美味いんだがなぁ、とか色々言いたいことはあるが、まぁうん。今までルナの作ったことのない料理を作ってやろうと考える。
「材料は何を?」
「……前にルナが買って来たパンはどこで買った?」
「あ、はいこっちです」
手を引きながら、ルナが嬉しそうに尻尾を振ってくれているのでまぁ良しとするか、と苦笑しつつ付いて行くと、ルナは迷う素振りもなくどんどん進んで行く。
そういえばルナはこの辺でずっと暮らしてたんだっけな、と遅まきながらに気付きつつ、とりあえずパンを買ったら次は卵と砂糖と牛乳とバター、などと考えた。
「お姉さーん!」
「はぁい、あらルナちゃんかい」
ルナはお姉さんと呼んではいるが、出て来たのは中年の女性だった。
多分おべっかだ。なかなかやるな。
「パン下さい、今日はごしゅじ、……ミカミさまが出してくれます!」
「ん?あぁこの人が」
どうやら俺のことを話したらしい。まぁ主人が出来たという話くらいはするのか。
「一番安いパンでいい。いくらになる?」
「おや、……聞いていたよりケチだね」
ぐぬ、ケチと来たか。
「いや、ただ焼いて食うなら一番いいものをもらうんだがな」
などとちょっと見栄を張ってみる。俺のためじゃない、ルナに恥をかかせないためだ。まぁ言い訳だが。
「ただ焼いて食う以外にどんな食い方があるってんだい……」
「――フレンチトーストにしようと思ってな」
女性が呆れたように言って来るので、とりあえず予定を話してやると、女性は不思議そうに「ふれん、……何だって?」と呟いた。ふとルナを見ても、小首を傾げて「何それ食べれるの」という顔をしているので、あれちょっとやっちまったかなと思ってしまう。
「ちなみにパンをどうやって食うんだい」
「卵と牛乳と砂糖を混ぜてな」
「はぁ?パンにかい?」
あ、やっぱりこの辺ではそういう作り方がないってことなんだな。




