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中身がおっさんの新入社員、無自覚に職場を潰し続ける ―最強のクラッシャー、営業部で城を落とす―  作者: らび


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7/12

合コンクラッシャー

 その頃、俺には妙なあだ名がついていた。


 「合コンクラッシャー」。


 きっかけは、同期に頼まれて一度だけ出た合コンだった。頭数が足りないからと無理やり引っ張り出され、俺は端の席でウーロン茶を飲んでいただけだ。酒も飲まず、話も振らず、ただ座っていた。なのに、だ。


 気づけば、相手の男たちが全員、俺の方ばかり見ていた。話を振れば俺に、乾杯をすれば俺に、グラスが空けば我先に俺のドリンクを頼もうとする。同期の女子たちが前日から練っていたトークは、ことごとく空を切った。最後は男四人が俺の連絡先を取り合って揉め始め、場は完全に崩壊した。会計のころには、同期の女子たちの顔が一様に引きつっていた。とにかく、合コンは死んだ。


 俺は何もしていない。ただ、営業の癖で、相手の話を丁寧に聞いて、要点を拾って返しただけだ。「それ大変でしたね」「つまりこういうことですか」。二十四年で染みついた傾聴の作法だ。だが合コンの卓では、その傾聴が凶器になるとは思わなかった。


  *


 翌日から、女子社員たちの俺を見る目が、微妙に変わった。


 給湯室で、俺が入ると会話がやむ。ランチの誘いがそっと減る。すれ違いざまの会釈が、少しだけ硬い。相沢がこっそり耳打ちしてくれた。


 「熊沢さん、合コンで男を全部持っていっちゃったでしょう。あれで女子の間で、ちょっと……警戒されてるんですよ。悪気はないんですけど」


 俺は、素直にへこんだ。


 中身はおっさんだ。モテたくてモテているわけじゃない。ただ普通に働いて、普通に飯を食って、同僚と普通に雑談したいだけだ。なのにこの体は、俺の意思と関係なく、周りの人間関係を引っ掻き回す。女子大生のころからずっとそうだった。サークルを潰し、就活の場を潰し、そして今、職場の輪からも弾かれかけている。


 「……俺は、ただ、職場で普通に馴染みたいだけなんだがな」


 給湯室で一人、俺はぼやいた。二十四年、取引先には好かれ、可愛がられてきた。酒の席でも商談でも、人に嫌われた記憶はほとんどない。それがこの体になってから、同性にだけは、どうしても壁ができる。モテという名の壁だ。地味に、こたえた。


  *


 そんな俺に、普通に接してくれるのは、相沢くらいだった。


 「気にしすぎですよ。熊沢さんが仕事できるの、みんな知ってますから。そのうち分かりますって。顔じゃなくて、中身で」


 中身、という言葉に、俺は少しだけ笑ってしまった。お前の想像する中身とは、だいぶ違うぞ、と。


 相沢は、周りが引こうが構わず、ランチのたびに俺を誘い続けてくれた。警戒の輪の真ん中で、一人だけ、俺を「ただの同期」として扱う。損得も、警戒も、嫉妬もない。ただの隣の席の人間として、飯に誘ってくれる。


 おっさんの俺には、その距離感が、どんなモテより、ありがたかった。モテなんて、いらない。俺が欲しいのは、肩の力を抜いて飯を食える、こういう相手なんだ。


 皮肉なものだと思う。モテればモテるほど、俺は一人になっていく。合コンクラッシャーという派手な異名の裏で、俺は少しだけ、孤独だった。その孤独の輪郭が、この頃から、妙にくっきりしてきた。


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