帰らぬ夫と、薔薇の内宮
その手紙は、あまりにも突然届いた。
ヒルダはそれを目にした瞬間、自分の目を疑いそうになった。
ハントからの手紙だった。
そこに綴られていた内容は、驚くべきものだった。便箋の上には、誤解と愚かさゆえに愛する妻と離れざるを得なかった、深情な男の姿が描かれていた。今、その男は妻との再会を待ち望み、妻と子を抱きしめる日を夢見ているらしい。
手紙には、こう書かれていた。
家に帰りたい。
帰った時、最初に君の姿を見たい。
僕はずっと、君を深く愛していた。
過去の僕はあまりにも傲慢で、自分の気持ちを素直に伝えることができなかった。
君の手紙を読んだ。
そこに綴られた愛に、僕は深く心を打たれた。
君の愛は、あのキャンディ家の魔女のものより、ずっと真実だった。
僕が屋敷にいない間、君の暮らしはきっと辛かっただろう。
あの侍女や使用人たちは冷たい人間ばかりだ。昔、母が屋根裏部屋に閉じ込められていた時も、彼女は彼らから随分ひどい扱いを受けていた。
この間、君はずっと屋敷で一人きり、僕を待っていたのだろう。
一人で僕たちの息子を産み、育てていたのだろう。
どれほど不安で、どれほど怖かったことだろう。
君が一人で今まで耐えてきたのは、きっと僕が振り返るのを待っていたからに違いない。
もう心配しなくていい。
僕は決めた。
君の愛に応えると。
僕と君、そして僕たちの子エイデン。
三人で、幸せに暮らそう。
論理は破綻しており、文章もひどく不安定だった。
ヒルダは驚いた。
これが、二年近く大使館で働き、この一年は部屋にこもって文書仕事に専念していたはずの使節が書いた手紙なのか。
ハントの人格は、自室への長い閉じこもりの末に、さらに歪んでしまったらしい。
かつて学園時代、ハントはジェイソン国王の側近となり、先代ヘクトール伯爵の厳しい躾を生き延び、キャンディ公爵家の監視の目をかいくぐってヴィクトリアと恋愛関係を持った。
つまり彼は、決して頭が悪いわけではなかった。
性格も、本来は硬直しきっていたわけではない。
だがディマン王国へ派遣される使節となった後、膨大な仕事と人間関係の重圧は、あっけなく彼を押し潰した。
先代ヘクトール伯爵の権勢は、先王との友情を土台にしたものだった。
ハントが学院で存在感を持てたのも、当時王太子だったジェイソンとの友情があったからだ。
けれどディマン王国での外交において、そんな情など何の価値もなかった。
この手紙には、ヒルダをさらに狼狽させる点がもう一つあった。
ハントが――ノーマンの存在に、まったく触れていない。
まさか。
まさか、あの時の「この物に、僕の代わりに夫の務めを果たさせればいい」という言葉は、「君はこれからこの男と屋敷で暮らせ。僕は二度と帰らない」という意味ではなかったのか。
あれは婚姻上の責任を放棄する宣言ではなく、ただ一時の気まぐれで口にした、あの手の小説の男主人公が言いそうな馬鹿げた台詞に過ぎなかったのだろうか。
ヒルダは思い出す。
ハントは新婚初夜、自分は永遠にヒルダを愛さない、ヴィクトリアのために貞潔を守るのだと宣言した。
にもかかわらず、その夜のうちにヒルダと同じ寝台に入った男でもあった。
それは、珍しくヒルダを動揺させた。
これまでヒルダの行動はすべて、ハントが名ばかりの伯爵となり、実質的にはディマン王国に住み続けるという前提で進められていた。
もしハントがリタール王国へ戻るつもりなら、ヒルダの計画は大きく狂う。
ノーマンの立場も、非常に厄介なものになる。
もちろん、ヒルダはノーマンを遠い地へ送り、幽閉することもできる。
あるいは、殺してしまうことすらできた。
ハントが帰ってきた後、ノーマンなど最初から存在しなかったふりをし、エイデンをハントの子として育て、ハントと偽りの幸福な生活を送ることもできる。
ヒルダには、それができる。
けれど、したくはなかった。
彼女はノーマンのことを、わりと気に入っていた。
あの子犬のように潤んだ空色の瞳が、悲しみに染まるところなど見たくない。
犬は人間の最も忠実な友人だというではないか。
ならば、ヒルダが今すべきことは一つしかない。
ハントの帰国を阻止すること。
今の時間なら、ノーマンはまだ剣術訓練を受けているはずだ。
剣術の後には、魔法の授業が続く。
この手紙を隠し、できるだけ早く王宮へ向かい、エリカ王妃に相談するだけの時間は十分にあった。
ヒルダはすぐにエリカからの許可を得て、護衛に付き添われながら急ぎ王宮へ入った。
王宮の廊下で、ヒルダはジェイソン国王と遭遇した。
今では公然と傀儡王と見なされている男である。
何年も経ったというのに、ジェイソン国王の姿は学園時代とほとんど変わらなかった。
整った顔立ち、白い肌、皺一つない顔。
その表情には、どこか子どものような無邪気な笑みが浮かんでいる。
その笑顔を見て楽しい気分になる者もいれば、苛立ちや怒りを覚える者もいた。
少し前、外交の場で不適切な発言をし、さらに印章を軽率に預けたことで問題を起こして以来、この国王の権限は完全に空洞化したと噂されている。
重要な政務はすべてエリカ王妃と、王家の親族でもあるニコラス宰相に委ねられていた。
公務の執行を一時停止されたジェイソン国王は、エリカ王妃の付き添いで王立劇場の盛大な音楽劇を鑑賞した。
そしてそこで、人生の新たな楽しみ――演劇を見つけたのである。
エリカは議会から予算を得て、王立劇場を改修した。
改修後の王立劇場は、もはや単なる上演施設というより、華麗な鳥籠だった。
人々の目には厄介者と映る存在を、優しく飼い慣らすための場所。
あるいは、今ハントが暮らしている、誰にも重要性の分からない文書を処理し続けるあの部屋と同じなのかもしれない。
ジェイソン国王は華やかな礼服をまとい、軽装鎧を着た護衛たちに囲まれながら、王立劇場の方角へと進んでいた。
彼はある程度離れた場所から、すでにヒルダの姿に気づいていた。
ヒルダは謙虚に頭を下げ、型通りの礼を取り、廊下の端でジェイソンとその一行が通り過ぎるのを待った。
ジェイソンはヒルダに何も言わなかった。
ただ軽蔑するように一瞥し、顎を高く上げて、足早に通り過ぎていった。
ジェイソンの一行がヒルダの前を通り過ぎると、国王付きの侍従の一人が慌てて列の後方から抜け出し、低い声でヒルダに謝罪した。
侍従は慎重に説明した。
ジェイソン国王は最新の演劇を鑑賞するため劇場へ急いでおられ、ヘクトール伯爵夫人に応対する余裕がなかったのだ、と。
自分たち侍従も職務上、国王に付き従わねばならず、もし後日機会をいただけるなら、改めて無礼を詫びに伺いたい、と。
ヒルダはその反応に特に驚かなかった。
すでに失脚しているにもかかわらず、それをまったく理解していない国王よりも、現在権力を握る王妃と親しく、すでに後継者を産み、伯爵に代わって家を掌握している伯爵夫人の方が、取り入る価値のある相手なのだ。
やがてヒルダは王宮侍女に導かれ、奥宮へと向かった。
かつての時代、奥宮には王妃と王家の子どもたちの住居のほかに、独立した庭院があった。
その中の建物は「後宮」と呼ばれ、国王の側妃たちが住まう場所だった。
奥宮であれ後宮であれ、いずれも極めて華やかに飾り立てられ、貴重な宝石や彫刻がそこかしこに配され、きらびやかに輝いていた。
しかしエリカの時代になると、大半の装飾は片付けられ、奥宮全体は簡素で清潔な趣へと変わっていた。
もう一つ、明らかに変わった点がある。
庭園のあちこちに、薬草が植えられるようになったことだ。
「これは確かに緊急事態ね。」




