表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/40

狂気は家族の形をしていた

ヘクトール伯爵家の後継者の誕生は、上流社会に大きな衝撃を与えた。


エイデンが生後一か月を迎えると、ヒルダは慣例に従い、新生児のための祝賀会を開くことになった。

彼女は、ヘクトール伯爵本人がまだ国外に滞在しており、体調が回復して帰国できるようになった際に、改めてより盛大な祝賀会を開催する予定だという理由を挙げ、比較的小規模な集まりを催した。


これに異議を唱える者はいなかった。

現ヘクトール伯爵ハントがディマン王国で使節を務めている間、私的な感情問題と健康上の問題によって、半年以上も大使館の自室で療養を続け、一歩も部屋から出られない状態であることは広く知られていたからだ。


上流社会の中でも勘の鋭い者たちは、すでにヘクトール伯爵本人はいてもいなくても変わらない存在であり、実際にこの家を掌握しているのは伯爵夫人ヒルダなのだと見抜いていた。


ヒルダが開いた小規模な祝賀会には、王国の重要人物たちが顔を揃えた。

エリカ王妃、ニコラス宰相、新婚のフランクフルト公爵夫妻――さらには、かつてディマン王国の王女であったブランティ公爵夫人までが、一族の女性たちを伴って出席した。


その場に集まった人々は皆、エイデンの容姿を称賛した。

白金の髪と空色の瞳。その姿は、歴代のヘクトール家当主たちの肖像画から抜け出してきたかのようだった。


キャンディ家にも招待状は送られていたが、公爵は丁重な辞退の手紙を寄こした。

ヴィクトリアが産んだばかりの息子を見舞うため、家族総出でディマン王国との往復を続けていること、そして一か月後に開かれる皇太子長男誕生の祝賀会の準備を手伝っていることが理由だった。


ヒルダの実家であるセイレン男爵家も出席していた。

彼らは周囲からの祝福を受けながら、内心では、ヒルダに婚約解消を思いとどまらせた自分たちの判断は正しかったと満足していた。


祝賀会の間、ノーマンはほとんどの時間を伯爵邸の図書室で過ごしていた。

人目につかないようにするためである。


ディマン王国が、ほとんど侮辱にも等しい形で、ハントによく似た奴隷の少年を贈ったという噂は広まっていた。

だが多くの人々は、その少年奴隷はすでにヒルダによって遠くへ送られたか、あるいは「処理」されたのだろうと考えていた。


やがて新生児誕生による騒ぎも落ち着き、ヒルダと家族はようやく穏やかな日常を取り戻し始めた。


そんな中、唯一しつこく訪ねてくる招かれざる客がいた。

ハントの母親であり、前伯爵夫人であるクレアだった。


ヒルダを驚かせたのは、クレアが孫の様子を見に来るたびに、ヒルダが解雇した元使用人たちの行方を執拗に尋ねてきたことだった。


ヒルダがハントに説明したのと同じ理由を語ると、クレアはむしろ、もっと彼らを引き留める努力をするべきだったと非難した。


当初ヒルダは、前伯爵夫人が、自分を虐げ、嘲笑し、冷たい水や腐りかけた食事を与え、監禁されていた屋根裏部屋に十分な生活物資を届けなかった使用人たちへ報復したいのだと思っていた。


しかし何度も遠回しに探りを入れるうちに、ヒルダは驚くべき事実に気づく。


前伯爵夫人は、本気で彼らを探し出し、助けたいと思っているらしかった。


「最初は私もあの人たちを憎んでいたわ。でも伯爵家を離れて新しい家庭に嫁いでから、使用人たちは主人の命令に逆らえないものだと理解できるようになったの。あの人たちは、ただ夫の命令に従わざるを得なかっただけなのよ。本当に私に害をなそうと思っていたなら、とっくに屋根裏部屋で私を殺していたはずだもの。」


「今になって思えば、前の夫も可哀想な人だったわ。義父から厳しい教育を受けて育って、感情の表し方が分からなかったのよ。だからあんなことをしたの。屋根裏部屋に閉じ込めていた間も、彼はよく私の様子を見に来てくれたわ。いつも厳しく罵ってばかりだったけれど、私は彼が私を愛していたことを知っているの。ただ恥ずかしくて口に出せなかっただけなのよ。」


「ヒルダ、手紙を送るだけでは駄目よ。いつか子どもを連れてディマン王国へ行き、ハントときちんと向き合って、二人の未来について話し合うべきだわ。もし昔の私が、もっと勇気を出して正直に自分の気持ちを話せていたら、きっと私たちの関係は違うものになっていたはずよ。」


うわぁ……。


ヒルダも侍女たちも、その言葉を聞いて大きな衝撃を受けていた。


小説の物語に没頭しているハントだけではない。

前伯爵夫人もまた、自分自身が作り上げた歪んだ世界の中で生きていたのだ。


ハントが理想とする「虐げられながらも健気に耐えるヒロイン」は、まさに彼自身の母親そのものだった。


ハントはいつも母親を嫌っていると言っていた。

しかし実際には、彼は両親の関係を再現しようとし続けていたのである。


調査を進めるうちに、ヒルダはさらに一つの事実を知った。

前伯爵夫人の現在の夫――領内の神官の家系は、ヘクトール伯爵家の分家だったのだ。


つまり前伯爵夫人は、前伯爵の従弟と再婚したことになる。


その結果、ヘクトール家の歪んだ家族関係と、虐待と言っても差し支えない親子関係や夫婦関係は、外部へ流出することなく、領地の中に閉じ込められたまま受け継がれていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ