表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

黄金宮の夜宴

それは、リタール王国主催による盛大な祝宴であった。

長年にわたり港湾都市と沿岸地帯を脅かし続けていた海賊団を、勇者・陽太が討伐したことを祝うための宴である。


ディマン王国の王族は全員が出席し、王家への敬意を示すため、国内のほぼすべての貴族家門の当主たちも参列していた。どうしても来訪できぬ者は、相応の身分を持つ代理人を送り込んでいる。

また、ディマン王国と友好関係にある周辺諸国、かつて勇者の援助を受けた国々からも、大使を通じて豪奢な献上品が届けられていた。


そしてディマン王国と長きにわたり友誼を結ぶリタール王国からは、ハントの属する外交使節団に加え、ディマン王国の王女を妻に持つブラウンティ公爵本人までもが出席していた。


この宴のために、ディマン王家は新たな宮殿を一つ建造していた。

その宮殿は、もはや常軌を逸していると言っていいほど壮麗だった。


外壁は白大理石で築かれ、内部には千を超える部屋と十の大広間が存在する。

ほぼすべての部屋の壁面には巨大な壁画が描かれており、建国以来の神話や歴代国王の偉業が、惜しげもない色彩で綴られていた。


宮殿内部には大量の黄金、水晶、大理石が用いられており、眩い金色と濃密な原色の洪水は、訪れた者たちの感覚を麻痺させるほどだった。

外には広大な庭園が整備され、神話の神々を模した巨像、歴代王の騎馬像、高く噴き上がる噴水、異国から集められた名花の数々が咲き乱れている。


ハントや同僚たちは目を奪われっぱなしだった。

ブラウンティ公爵は、彼らの感嘆する様子を見て満足げに笑い、自らの強大な縁戚関係を誇るかのように、宮殿の壁画や彫像を案内して回った。

その姿は、まるで自分の屋敷を紹介している主人そのものだった。


さらに、ディマン王国は客人の歓待にも異常なほどの力を注いでいた。


宴席で料理をこぼした者。

庭園で泥を踏み、靴を汚した者。

そうした客が現れるたび、美しい侍女たちがすぐさま現れ、丁寧に更衣室へ案内する。


そこには何十着もの礼服や靴が用意されており、客人は自由に新しい装いへ着替えることができた。

汚れた衣服は専門の使用人が回収し、洗浄、乾燥の後、香を焚き込めた美しい小袋に入れて返却される。


こうした手厚すぎるもてなしに、招待客たちはすっかり魅了されていた。

彼らはディマン王国の華美な建築と洗練された歓待を称賛し、美しい侍女たちから、


「次回の宴にもぜひご招待したく存じますので」


と微笑みながら連絡先を求められると、嬉々としてあらゆる情報を書き残していった。


だが、一部の者たちは警戒していた。

他人が衣装を替えさせられる様子を見て以降、服を汚さぬよう過剰なほど慎重になり、受け取った贈り物も密かに卓上へ置き去りにしていた。


宴が最高潮へ達した頃。

ついに、ディマン王家が会場へ姿を現した。


先頭を歩くのは国王夫妻。

その後ろには王子王女たちと、その伴侶たちが続く。


彼らが歩みを進めるたび、広間に集った賓客たちは一斉に頭を垂れた。

王族が席に着くまで誰一人として顔を上げず、大国ディマンに対する最大限の敬意を示していた。


王族の中でも、ひときわ目を引いていたのはソロモン王太子と、その妃――水の聖女・美波だった。


ソロモンは長身で端正な顔立ちをしており、壮麗な王族用礼装が彼の威勢と自信をさらに際立たせている。

対して、美波は小柄で儚げな容姿をしていた。

純白の薄絹を重ねた礼服は妖精の羽を思わせ、背中には大きなリボンと長いショールがあしらわれている。歩くたび、それらが柔らかく揺れ、まるで本当に羽が生えているかのようだった。


しかし。


ソロモンは歩く時も座る時も、常に片腕で美波を抱き寄せていた。

それは愛情深く守っているようにも見えたが、同時に、彼女を外界から隔離しているようにも見える。


宴の最中、美波は終始うつむいたままだった。

その姿は、まるでソロモンの影の中へ閉じ込められているようだった。


ソロモンの左隣には美波。

そして右隣には、王家の血を持たぬ二人の若い女が座っていた。


招待客たちは、以前からその素性を聞き及んでいたため、好奇と悪意の入り混じった視線を向けていた。


そのうちの一人こそ、ハントが最も会いたかった相手――

リタール王国カンティ公爵家出身、現在はソロモン王太子の側妃となったヴィクトリアである。


かつて人々から「月光の乙女」と称えられた銀髪は、美しく結い上げられ、豪奢だが重々しい髪飾りの下へ押し込められていた。

淡い紫を基調とした豪華な礼服を纏っているが、それは彼女が好んでいた軽やかなハイウエストドレスではなく、最近ディマン王国で流行している膨らんだスカートの形式だった。


彼女は誇り高く顎を上げていた。

まるで、隣に座る女から少しでも遠ざかろうとしているかのように。


ヴィクトリアの隣に座るのは、ソロモン王太子第二側妃――毛錦鳳。


彼女の父は華唐国出身の大商人・毛石。

ディマン国内に数多の事業を持ち、富は一国にも匹敵すると言われている。


毛錦鳳は華唐風の正装を纏っていた。

深紅の錦には牡丹と鳳凰が刺繍され、黒髪には翡翠の簪が幾重にも差し込まれている。


第二側妃という立場でありながら、毛石がソロモン最大の後援者であり、王家とも極めて近しい関係にあることは周知の事実だった。

そのため、彼女の周囲には取り巻きが幾重にも集まっており、侍女一人しか連れていないヴィクトリアとは対照的だった。


毛錦鳳は露骨にヴィクトリアを嘲笑っていた。


「最近の王都では、髪飾りは控えめな方が上品とされていますの。古臭い方ほど、何でもかんでも頭に挿したがるのでしょうけれど」


その後は、自らの華唐風礼装を誇示しながら、


「最近では皆、こうした衣装を仕立てていますわ。もう膨らんだ古いドレスなど、誰も着ませんのに」


と笑う。


ヴィクトリアは硬い表情でそれを聞いていたが、何一つ言い返せなかった。


会場にいるブラウンティ公爵は、元々カンティ家と敵対関係にある。

自身の姪をソロモンの側妃にしようとしていたところを、カンティ家に先を越された以上、ヴィクトリアを庇う理由など存在しなかった。


だが、この宴で注目を集めていたのは、王太子の女たちの争いだけではない。


ソロモンの二人の弟たちもまた、笑顔で国王夫妻へ媚びへつらいながら、その眼には隠しきれぬ野心を滲ませていた。


――そして。


本来、この宴の主役であるはずの勇者・陽太だけが、主卓の端で静かに酒を飲んでいた。


誰一人、彼へ話しかけようとはしない。


まるで彼だけが、この豪奢な宮殿から切り離された異物であるかのようだった。


やがて、ヴィクトリアは耐えきれなくなったように席を立ち、そのまま足早に会場を後にした。


ハントはしばらく迷っていたが、ついに決意し、人混みへ紛れるようにして、密かに彼女の後を追った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ