新たな希望、残された傷
エリカ王妃は健康な王子を出産し、ティムと名付けた。
幼い王子はエリカによく似ており、母よりも少し濃い黒髪と、鮮やかな翠の瞳を持っていた。
エリカと王子の容態が安定した後、彼女の親友である二人も王宮での女官の職を離れることになった。
ヒルダがハントを連れて王都を去った時、貴族たちは皆ほっと胸を撫で下ろした。これでようやく、宴会のたびに酔っては同じ話を繰り返すハントの愚痴を聞かずに済むのである。
領地へ戻った後、ハントは以前よりもずっと気楽に過ごせるようになった。
他人の視線を気にする必要もなく、酒で自分をごまかす必要もない。
毎日、ヒルダは彼に終わらせるべき仕事を割り振った。それはディマン王国の大使館で過ごした最後の頃と同じく、内容が明確に整理された書類仕事ばかりだった。ハントはそれらを分類し、まとめるだけでよかった。
外交官としてディマン王国へ渡った際、彼はすでに印章も印鑑もヒルダへ預けていたため、面倒な公文書の確認や決裁印を押す作業すら必要なかった。
仕事を終えれば自由時間である。
その大半は書庫で恋愛小説を読むことに費やされた。
自分が元々集めていた蔵書に加え、ヒルダは外出するたびに新刊や連載作品の続刊を買ってきてくれた。
ただ一つだけ、どうしても手に取れない作品があった。
『虐げられた奴隷少女は、孤独な大公に溺愛される』
エイデンの名前の由来ではないかと疑っている小説である。
少なくとも、自分とヒルダはその物語のようにはならなかった。
作中では、ヒロインが主人公に別の想い人がいると誤解し、自らの妊娠を知った後、一人で家を出て辺境で子供を育てることになる。
その結末を思えば、まだ自分たちは恵まれているのだとハントは思った。
夕食の時間になると、ヒルダは必ず彼と同じ食卓についた。
使用人たちはいつの間にか総入れ替えされていたが、ヒルダによれば、以前いた若い少年少女たちは王家から預かった見習いたちであり、すでに訓練を終えて各地の貴族家へ送り出されたらしい。
ハントはその話に満足した。
あの忌々しいアンジェラさえいなければ、何も問題はない。
今の暮らしは、かつて自分が領地を離れた時に思い描いていた理想そのものだった。
ある日、父の命日と追悼行事の日程を確認するため、ハントは屋敷の書庫で家系図を開いた。
そこで彼は、すでにエイデンの名が記されていることに気付いた。
長男 エイデン
生誕 302年
死亡 ――
ハントは思わず固まった。
ヒルダは、エイデンの死亡年を書いていないのか。
しかし彼には、その理由を尋ねる勇気がなかった。
さらに目を移すと、自分の名前の下にもう一つ別の名があることに気付いた。
ノーマン。
その名前は母親の欄と繋がっていなかった。
ハントは昔、父が地下室で飼っていた「ペット」と、そのペットが産んだ小さな雄犬のことを思い出した。
特に気にも留めなかった。
父はとうの昔に彼らを船へ乗せて売り払い、華唐国の奴隷制度の苛酷さを考えれば、その小犬が生き残っているはずもない。
ただ驚いたのは、父がその名前を家系図へ残していたことだった。
十五歳の頃、学校の課題のために家系図を見た時には、その名前は存在しなかったはずである。
もしかすると、父なりの遅すぎた懺悔だったのかもしれない。
しばらくして、リタール王国で貴族家系譜を管理する官吏がヘクトール伯爵家を訪れた。
名簿を整理している際、ヘクトール家の家系図においてエイデンの死亡日が記録されていないことに気付いたという。
補記が必要かどうか、ヒルダに確認するためだった。
ヒルダはきっぱりと断った。
その後、貴族社会では一つの噂が広がり始める。
ヘクトール伯爵夫人は長男の死を受け入れられず、いまだ王家の公式記録にも死亡日を記載していないのだ、と。
その官吏がさらにエリカ王妃へ確認を求め、正式な通知を出して死亡日を提出させるべきか相談した時、エリカはただ小さくため息をついた。
「ヒルダにとって、あの子は今でも大切な息子なのです。」
死亡日の登録を拒み続けるだけではない。
ヒルダは定期的に領地を離れ、一人で南方の辺境地帯へ向かっていた。
その後、宮廷官吏試験を受験し、筆記試験で第三位という優秀な成績を収めて合格し、内閣部門で働くようになってからも、その習慣は変わらなかった。
季節ごとに必ず数日間は辺境へ滞在する。
再び妊娠した後も同様だった。
比較的安定する妊娠中期には可能な限り南へ向かい、危険な初期と出産直前の後期だけ旅を控えた。
ヒルダは一度たりともハントに同行を求めたことがなく、ハントもまた尋ねることができなかった。
かつてヒルダは言った。
エイデンは今、空と草原に抱かれながら、自由と安らぎを得ているのだと。
だからハントは思っていた。
そこはきっと、ヒルダがエイデンの遺灰か遺体を埋葬した場所なのだろうと。
ある日、ついに彼は耐えきれなくなって尋ねた。
「辺境へ行くのは……エイデンに会いに行くためなのか?」
ヒルダはあっさりとうなずいた。
「ええ。」
「どうしてそんなに頻繁に? 墓参りなら普通は年に一度でも……」
「まだ子供ですもの。母親の傍にいてほしい時期です。時間を作って会いに行くことが、私にできる唯一の償いなのです。」
その後、ハントは二度と辺境のことを尋ねなかった。
エイデンの墓を一緒に訪れてもよいかと聞こうと思ったことはある。
だが断られるのが怖くて、結局一度も口にできなかった。
自分にそんな資格があるのだろうか。
エイデンがどんな瞳をしていたのか。
どんな髪色だったのか。
自分に似ていたのか、それともヒルダに似ていたのか。
そんなことすら、彼は知らないのだから。
「エイデンお兄ちゃんに会ってきたの! お母様が錆鉄冒険者ギルドにも連れて行ってくれたのよ。すごい魔法使いや戦士がいっぱいいたんだから!」
数年後に生まれた二人目の子供も、やがてヒルダに連れられて辺境へ行くようになった。
彼らは確かに、かつてハントが夢見ていたように再び同じ家で暮らしていた。
彼の両親よりもずっと幸せな結婚生活を送り、
新しい子供たちにも恵まれ、
可愛らしい息子や娘たちは雨上がりの茸のように次々と大きくなっていった。
夢は叶ったはずだった。
ハントは領民から称賛される伯爵となり、
ヒルダは宮廷の内閣部門で確かな地位を築いた。
学院時代の話をしても、今では笑いながら思い出話にできる。
それでも。
過去の影は消えなかった。
それは二人の間に常に存在し続け、決して失われることはなかった。
そしてヒルダの心の中には、ハントが永遠に辿り着くことのできない場所が、今もなお残されていたのである。




