彼女は前へ、彼は過去へ
結局のところ、ハントはヒルダが去るのを永遠に引き止めることはできなかった。
エリカ王妃が懐妊したのである。
王家の未来の後継者の誕生は、王国全体を歓喜に包み込んだ。敵対する派閥の貴族たちも、互いに競い合う商人たちも、この時ばかりは憎しみを脇に置き、祝賀の催しへと加わった。
近年のリタール王国王家は、不妊や先天的な障害の問題に深く苦しめられていた。長年にわたりディマン王国の属国であったリタール王国では、王妃や側妃の多くをディマン王国や国内の上位貴族から迎え続けた結果、近親婚が繰り返され、王家の血筋は徐々に弱体化していったのである。子どもたちは先天的な疾患を抱えやすく、生殖能力にも問題を抱えることが少なくなかった。
ジェイソン国王の父の代になり、その長年蓄積された歪みはついに悲劇として表面化した。
ジェイソン国王の父と第一王妃は長年にわたり後継者を授かることができず、妾を迎えられることを恐れた第一王妃は、自らの従兄と密通し、ジェイソンを産んだ。
しかし第一王妃もその従兄も、すでに弱まりつつあった王家の血を受け継いでいた。その結果生まれたジェイソンもまた、多くの先天的な疾患を抱えていたのである。
さらに先代国王自身も不妊であることが判明していたため、ジェイソンは私生児でありながら王太子として認められ、やがて国王の座に就くこととなった。
そのため王家と議会は、エリカ王妃に大きな期待を寄せていた。彼女自身もまた王家によって意図的に生み出された存在だった。王族の庶流の血を引く二つの家系を結び付け、その中から健康で聡明な少女を選び出し、幼い頃から王家の手で徹底的な教育を施したのである。
表向きは王妃でありながら、実際には王家を支える真の統治者となるために。
エリカ王妃の懐妊は、まさに国全体の新たな希望だった。
彼女の長年の親友であるヘクトール伯爵夫人ヒルダと、フランクフルト公爵夫人ノーラは、ほどなくして王宮へ召し出され、王妃の護衛と話し相手を務めることとなった。
王妃の懐妊は、ハントにエイデンのことを痛いほど思い出させた。
もしエイデンが生きていたなら、今ごろは二歳になっていただろう。きっと「お父様」と呼ぶようになっている、いちばん愛らしい時期だ。
そしてエリカ王妃の子どもが生まれれば、二人はきっと仲の良い友人になっていたに違いない。
もし王妃が王子を産んでいたなら、エイデンは王子の補佐役となり、王子が即位した暁には国王の側近となっていただろう。そうなればヘクトール伯爵家と王家との長きにわたる絆も再び強まり、かつて父が国王との親交によって他家を圧倒した栄光を取り戻せたかもしれない。
もし王妃が王女を産んでいたなら、エイデンがその王女と婚姻を結ぶ可能性もあった。エリカとヒルダの深い友情を考えれば、それは決して夢物語ではない。王家直系の王女を迎え入れることができれば、ヘクトール伯爵家は名誉も財産も名声も手にすることができただろう。あるいは王女を迎えるために爵位が引き上げられ、侯爵や公爵へ昇格していた可能性すらあった。
そのすべては、エイデンのあまりにも早すぎる死とともに、泡のように儚く消え去ってしまった。
ハントはヒルダに付き添い、王都へ向かうことを決めた。
二人は王都にあるヘクトール家の別邸で暮らすことになった。
ヒルダが王宮で働いている間、ハントは王立学院時代の友人たちと再会していた。彼らの多くは何一つ成し遂げることなく、領地の税収で暮らしているか、家柄だけで得た名誉職にしがみついているような人間だった。
彼らは酒を飲みながら、王立学院時代の思い出を何度も語り合った。特にジェイソン国王と共に過ごした、今となっては愚かとしか言いようのない冒険譚を。
彼らに残されているのは、そうした輝かしい過去の記憶だけだった。
酔うと、ハントは必ず泣いた。
酒による陶酔と高揚の中で、彼は自らの悲劇を聞く者すべてに語った。
愛する妻を残し、重要な外交任務のために新婚初夜の翌朝には遠い異国へ旅立たねばならなかったこと。忙しさのあまり妻からの手紙を開く暇もなかったこと。そしてようやく仕事が落ち着いて手紙を開いた時には、妻が男の子を産み、その幼い命が自分の知らないところで病によって失われていたこと。
それは現実とは大きく異なる物語だった。
ハント自身の自己正当化から生まれた物語だった。
宴席にいる誰もがそれを理解していた。だが酔いの盛り上がった場では、人々は感情を共有できる物語を求めていたのである。
だから皆はハントを囲み、「君のせいじゃない」と慰め、「時間が解決してくれる」と励まし、「きっとヒルダ夫人との間に再び元気な子どもを授かれる」と言った。
その後もハントは、自分だけで参加する宴会のたびに同じ話を繰り返した。
最初のうちは、ヴィクトリアとの関係やヒルダへの冷遇を知る者でさえ、その涙と苦しげな口調に同情した。彼らはハントの隣に座り、優しく慰めていた。
しかし同じ話が何度も繰り返されるうち、人々は次第に沈黙するようになった。
さらに時が経つと、彼の話に飽き始め、不機嫌そうに目を逸らす者が増えた。
そして最後には、彼を嘲笑するようになった。
新しく社交界に入った若者が事情を尋ねれば、古参の貴族たちは笑いながらこう答えた。
「心配しなくていい。どうせそのうち自分から話し始めるさ。」
「またヘクトール伯爵が始まったぞ。」
「あいつは本当にどうしようもないな。ヒルダ夫人がいなければ何一つできない。」
「聞いたことがあるか? 仕事が忙しくて新婚翌日に出発したんだとさ。ヴィクトリア夫人との関係を誰も知らないとでも思っているのかね。」
「一年以上も妻の手紙を開かなかったのを仕事のせいにするなんて無理があるだろう。ただ愚かだっただけだ。」
「今後はヒルダ夫人も出席すると分かっている時だけ招待状を送ろう。」
「そういえばヒルダ夫人は最近どうしているんだ?」
「王妃陛下のお側で働いているらしい。近いうちに官吏試験を受けて、女性官僚になる可能性も高いそうだ。」
「それは素晴らしい話だな。ジェイソン国王が作ったあの内閣は……いや、これ以上は言うまい。だが女性が加われば、あの粗忽な男たちをずっと上手く支えられるだろう。」
「まったくだ。王妃陛下にとっても、女性の官僚がいる方が安心できるはずだ。」
「ヒルダ夫人は学院時代から優秀だったからな。ただ誰かの妻として埋もれてしまうのは惜しい人材だった。みんな分かるだろう?」
「先代ヘクトール伯爵が決めた縁談の中で、あれが一番の成功だったかもしれんな。」
「楽しみだな。もし女性官僚制度が軌道に乗れば、いつかは私たちの娘も家を直接継げる日が来るかもしれない。」
こうしてハントは、少しずつ上流社会から孤立していった。
共に酒を飲んでいた友人たちもまた、何一つ成果を残せないまま、より若く有力な後継者たちに職を奪われ、それぞれの領地へ帰っていったのである。




