第3話 鬼王様は朝五時半だった
そして、事務所に着いた。
猿田がいた。
猿田彦次郎。
桃太郎の猿だ。
「何で、猿田がいるんだ?」
「だって、事務所に住んでるし、ここで事務しながら住むんだ」
事務しながら住むってこいつ……本気か?
さすが猿田。
やるな。
「就職したんだよ。正社員で、フリーターじゃない。すごいだろ」
「ここに住んだら、夜でもちゃんと事務所で対応できるだろう? あ……桃太郎団子の店主代理もする」
「ああ、桃の代わりな」
「それから……ファンクラブの名称も書いてくれ」
「全国一寸親衛隊」
猿田は書類を見て少しだけ変な顔をした。
「それから、手続して」
俺は手続きを終えた。
「寮の鍵これな」
「ありがとう」
「一寸のファンクラブって全国一寸親衛隊なんだな」
「そうだけど?」
「他の人はどんな感じなんだ?」
「親衛隊はこんな感じだぞ?」
鬼ヶ島雷堂 鬼王組
鳥山雉太 鳥山教
森山狼 O-KAMI
堀川一寸 全国一寸親衛隊
「ちなみに、桃達は」
山野桃太郎(桃太郎) MOMO
鬼ヶ島朱羅(桃太郎の鬼 鬼王子) Prince's Room
鬼屋雷牙(鬼王様秘書) RAIGA'S
「それと、茜ちゃんは」
鬼ヶ島茜(桃太郎の鬼 鬼姫 桃太郎の彼女) 鬼姫陣営
「こんな感じだけど」
「一寸、今日は仕事ないけど、鬼王様が空いてる時間が早朝しかないから、明日から早朝に走り込みするって言ってたよ」
「体力つけないといけないからって、鬼ヶ城に集合だって」
「え?!」
「確か午前五時三十分でいいかなって。朝食は鬼ヶ城で出ると思う」
「安心だね」
猿田が言った。
「そういうことで」
「……」
「ちょっと待て。そんなにハードなのか?」
どういうことだ。
「鬼王様だし」
猿田が遠い目をした。
「きっと昼寝は鬼ヶ城でさせてくれるよ」
「本当に?」
「親しみ隊の活動は結構あるよ」
「え?!」
「もう入ってるのか?」
「地域のごみ拾いのボランティア活動」
「老人ホーム施設などをまわる」
「子ども園や小学校などをまわって、皆に前転を教える」
「……」
俺は固まった。
「前転を教える?」
「そうだよ」
「何で?」
「親しみ隊だから」
「説明になってないぞ」
「鬼王様が皆でやるって」
鬼王様か。
なら仕方ない。
……いや、仕方なくない。
「俺は顔担当なんだが」
「大丈夫だよ」
「何が?」
「鳥山もやるから」
安心材料になっていなかった。
「そういえば、鳥山が前転が綺麗にできないって言ってたから、危険かも」
「確かに俺も綺麗にはできないかもしれない」
「教えるのはハードじゃないか?」
「簡単なダンスを踊る方がいいかもしれない」
「どんぐりころころとか」
「それくらいで何とかしたいな」
「確かにその方がいいかもしれないね」
猿田も頷いた。
「あのさ、親しみ隊って歌も歌うんだよね?」
猿田が聞いた。
「そうだと思うけど」
「一寸って歌うまいの?」
「普通だ」
俺は目を逸らした。
後ろで話を聞いていた狼が口を開く。
「一寸、お前、本当に普通なのか?」
「……」
「普通だ」
俺は頷いた。
「口パクならできる」
「……」
前途多難である。
すると、鳥山が言った。
「俺はそれなりにうまいぞ」
「やめろー!」
猿田が即座に止めた。
「お前は歌わなくていい」
「何でだよ」
鳥山は不満そうだった。
狼は少し青くなった。
嫌な予感がする。
「待て」
狼が言った。
「親しみ隊で歌えるの、もしかして俺だけか?」
誰も答えなかった。
「おい」
さらに沈黙。
「おい!」
まさか……。
歌まで俺が担当するのか?
鳥山がにこにこして言った。
「俺は歌えるから大丈夫だ」
「うまいぞ」
「鳥山教のやつらだって褒めてくれる」
「参考にならない気がするのは俺だけか?」
狼が言った。
「いや、俺もそう思う」
一寸も頷く。
「鬼王様はうまいだろうな」
その時だった。
たまたま事務所へ来ていた雷牙が言った。
「鬼王様は歌もうまいですよ」
「「「さすがセンター」」」
狼、鳥山、一寸は感動した。
やっぱり鬼王様だった。
すると鳥山が言った。
「まあ、俺ほどではないだろう」
「お前はやめておけ」
猿田が即座に止めた。
「何でだよ」
「鳥山教基準だろ」
「そうだな」
鳥山は頷いた。
認めるな。
この時、俺はまだ鬼王特訓がどんなことになるのか分かっていなかった。
俺は顔で売ってるんだが。
あとがき
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