表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/48

7.商業ギルド

「はぁ、はぁ、はぁっ……つ、疲れた……」

「だ、大丈夫か?」


 冒険者ギルドを出て、よろよろと力なく壁に寄りかかった。あんなに長い時間、人と対面したのは久しぶりだ。まるで、寿命を消費したかのような疲労感だ。


「うぅ、これから商業ギルドにいかないといけないの……辛いぃ」

「仕方ないだろう。そうしないと、作ったものが売れないっていう話だからな」

「分かってます……。でも、でもぉ……辛いぃ……」


 泣き言を言っても何も変わらないのは知っている。だけど、泣き言を言わないと進めない場合だってあるんだ!


 すると、黒猫のシオンさんが私の胸に飛び込んできた。そして、私の頬にすり寄ると、また魔法を発動してくれた。すると、心が温かくなって落ち着いてきた。


「少しは気が楽になったか?」

「は、はい……。すいません、シオンさんに迷惑ばかりかけて……」

「気にするな。ヒナには元気でいてもらわないとな」


 シオンさんの優しさが心に沁みる。私、シオンさんがいないと何も出来ない子になっちゃう。


「よし。少しは気が持ち直したから、商業ギルドに行くぞ。紹介状も書いてくれたから、事情は分かってくれるだろう」

「話す内容が減って良かったです。でも、対面は無理ぃ……」

「ほら、今日頑張れば、明日は楽しい素材採取だぞ」

「うぅ、頑張りますぅ……」


 足に力を入れて、ようやく歩き出す。腕の中から降りたシオンさんが先導してくれる。その後を、周りに気を付けながら進んでいった。


 歩き始めて十数分だろうか、通りに大きな建物が見えてきた。入口では冒険者ギルドと同じように沢山の人が行き交っている。


「うっ、あんなに人が……」

「ヒナ、頑張れ」

「ダメ、産気づいたかも……」

「いつのまに妊娠したんだ」


 沢山の人を見るだけで体が異様に重くなる。膝がガクガク震える中、黒猫の手がペシペシと私の足を叩く。


「これで最後だ。頑張れ」

「うぅ……」


 シオンさんの応援で少しだけ力が戻る。ゆっくりと出入口に近づいていき、扉から中に入ると――冒険者ギルドと同じ光景が広がっていた。


「うっ、生まれる……!」

「こんなことで産気づくな」


 お腹を押さえて蹲ると、シオンさんの呆れた声が聞こえてくる。


「ほら、どこの人がいいんだ? 今回は獣人がいないようだが……」

「そ、そんな! 獣人さんがいないなんて!」


 人と対面するよりも、獣人さんと対面するほうが楽だったのに!


「うぅ……」


 どの人がいいかな……。あの人は美人過ぎて圧が凄いし、キャリアウーマン的な人も圧が強いし……。あっ、あの人は小さいから圧がそんなに強くない。


「じゃあ、あの小さい人のところで」

「分かった。行くぞ」


 黒猫のシオンさんが先に行き、その後をおどおどしながらついていく。


「ようこし、商業ギルドへ! どのような用件ですか?」

「この子の登録に来た」

「分かりました。どうぞ、席にお掛けください」


 冒険者ギルドでも見たやり取りを見ながら私は席に着いた。


「ほら、ヒナ。紹介状を出すんだ」

「あ、はい。あの……これを……」


 プルプル震える両手で紹介状を手渡す。すると、お姉さんが嬉しそうな顔をして受け取ってくれた。


「紹介状持ちだったんですね。今、中身を確認しますので、少々お待ちください」


 そう言って、お姉さんは封を切って中の手紙を確認する。ニコニコとした笑顔で読み進めていった時――。


「……えっ」


 突然、真顔で低い声を出した。


「ひっ!」


 な、何々!? 冒険者ギルドで同じ光景を見たんだけど!


「……えっ、こ、これ……本当に、あ、あ、あなたが?」

「ひ、ひぃっ!? は、はいっ!? た、多分……わ、私だと……思いますぅっ!」


 目の前で固まっていたお姉さんが、手紙をプルプルと震える手で持ち直した。明らかに動揺している。というか、顔が引きつっている。


「こ、こ、この……全技能適性有りって……え? な、何ですか、これ!? ま、まさか、冗談ではないですよね!?」

「じょ、冗談!? い、いえっ! そ、そんな……! わ、分か……らない、ですけど、多分……ほんと、だと思いますぅ!」

「ほ、ほんとに!? ほ、本当に、あなたが!?」

「は、はいぃ!? た、多分ですけどぉっ!!」


 お互いに目を見開き、体をガクガクと震わせ、動揺と動揺がぶつかり合ってカオスな空気になる。


 すると、ガッと私の手を掴んできた。


「ヒィィッ!?」

「え、えっと……念のために確認なんですけど、この魔道具製作Lv.10(MAX)とか錬金術Lv.10(MAX)とか……本当、ですか?」

「ほ、ほんとですぅ……! 手、手を、手を離して、くださいぃ……!」

「す、すごい……すごすぎる……! この歳で……!?」

「え、えぇぇ!? あの、わ、私……そ、そんなつもりじゃなくて……!」


 動揺していたお姉さんの目がギラリと輝き、顔が一気に営業スマイルへと切り替わった。さっきまでの狼狽が嘘のように、完璧なプロの笑顔が貼り付けられ、それが逆に恐ろしい。


「おめでとうございますっ! すごい逸材ですっ! いえ、もはや天才クラフトマスター様ですねっ!」

「えっ、あのっ、えぇぇぇ!? い、いやいやいやいや!? そ、そんなことないですぅぅぅっ!」


 お姉さんが両手を強く握って身を乗り出す。離れようとしても、椅子の背もたれがそれを邪魔する。


「ようこそ、商業ギルドへっ! 我々としても全力でサポートいたしますっ! どんな素材でも、ご希望があればすぐにご用意いたします!」

「え、えっ!? そ、そんな!? い、いらないですぅっ! 普通で大丈夫ですぅっ!」

「いえいえっ! そんなわけにはいきませんっ! あなたほどの方には専属の担当者をつけさせていただきますっ! そして専用の作業室、優先素材枠、ギルド負担による試作品予算も!」

「や、やめてぇぇぇっ!? そんな贅沢したら胃が痛くなりますぅぅぅ!!」


 両手をぶんぶん振って後ずさるが、すでにお姉さんは完全に上客モードだった。机越しに深々と頭を下げ、まるで王族相手のような口調になる。


「どうか、当ギルドをお使いくださいませ、ヒナ様! 研究資金の融資も、協力職人の斡旋も、すべて最優先でご案内いたしますっ!」

「ヒ、ヒナ様ぁ!? や、やめてくださいぃぃぃ!! 私そんな立派な人じゃないですぅぅぅ!!」

「いえ! どうかご遠慮なさらず! あなたのような天才の輝きを曇らせては、我らギルドの恥っ!」

「ま、眩しいぃ……! 圧がっ、圧が強いですぅぅぅぅ!!」


 お姉さんの笑顔が輝きすぎて、視界が白くなっていく。そして――。


「ひゃぅ……」


 ぷしゅー、と音がしそうな勢いで机の上に突っ伏した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載!

スラムの孤児は慎ましく生きたい~大賢者の遺産を継いだけど、救世主にはなりません~

旧作

転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!

転生少女の底辺から始める幸せスローライフ~勇者と聖女を育てたら賢者になって魔法を覚えたけど、生活向上のため便利に利用します~

追放を計画的に利用して自由を掴んだ王女、叡智と領地改革で無双する

転生したら魔法が使えない無能と捨てられたけど、魔力が規格外に万能でした

スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜

ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる

元社畜はウィンドウで楽しい転生ライフを満喫中! ~ゲームのシステムを再現した万能スキルで、異世界生活を楽々攻略します~

異世界喫茶で再出発ライフ

ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する

推し命の転生者、弱小ポンコツな推し神様のために万能な推し活パワーで騎士爵領を大領地にする

過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった


この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~

コミュ障クラフターの私、引き継いだ能力が異世界では規格外すぎて無自覚に無双してしまう件~地味に暮らしたいだけなのに、なぜか注目されて怖いんですが~

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ