36.魔物討伐のお手伝い(2)
「諸君、よく集まってくれた」
静まり返った平原に、澄んだ声が響いた。冒険者たちの視線が一斉に、前に立つ美女のシオンさんへと向けられる。
「北方にて魔力脈の乱れが確認された。それに伴い、各地で魔物が異常活性化している。王国騎士団、ならびに魔術師団が鎮圧に当たっているが……広範囲に及んだ影響のすべてを抑えきるには至っていない」
シオンさんは一度、言葉を区切り、冒険者たちを見渡した。
「その結果、包囲網をすり抜けた魔物の群れが確認された。数は多くないが、いずれも魔力に侵され、通常よりも凶暴かつ高位化している」
宙に浮いた地図を見せて、シオンさんは説明を続ける。
「発見地点はここだ。街道沿い、ならびに周辺の集落に近い。放置すれば、民間人への被害は避けられない」
危機が迫っていると感じた冒険者たちの表情が引き締まる。
「諸君らに依頼するのは、これら漏出個体の迅速な討伐。被害拡大を防ぐことを最優先とする」
その声音は冷静でありながら、有無を言わせぬ重みを帯びていた。
「なお、対象は通常個体より魔力反応が強い。油断すれば、熟練者であっても命を落とす可能性がある」
だからこそ、とシオンさんは小さく息を吸う。
「止めるなら今のうちだ。戦えないと思った者は去ってもいい」
厳しい口調でいうが、誰一人として動く者はいない。みんな、覚悟を決めた顔をしていた。
「皆が強い志を持っていてくれたことに感謝をする。もう少しで接敵をするだろう。各自、準備を怠るな」
シオンさんがそういうと、冒険者たちは威勢のいい声を張り上げた。戦いは近い。
◇
「あっ、森で会った」
「ひっ!」
人から離れて待機をしていると、声がかかってビックリした。恐る恐る振り向いていると、森で出会ったあのパーティーの人たちがいた。
「驚いた、お前も来ていたのか」
「はは、はいっ……。シ、シオンさんのお、お手伝いを……したかったので……」
「じゃあ、あの人の関係者? へー、国家魔術師と知り合いだったなんて、お前って凄いんだな!」
戦士の人が気さくに話しかけてくれるけれど、私は頭がこんがらがって普通に話せない。
「この戦いに参加出来るんだから、お前って見かけによらず強いんだな!」
「ははは、はいっ。い、いいえっ」
「……どっちなんだよ」
うぅ、対面での会話は苦手だ。何を言っていいのか分からなくなるから。
「こら、グレン。この子は人が苦手だって言っていたでしょ。あんまり、追い詰めるようなことはしないの!」
「えっ? 俺、普通に話していただけで……」
「……距離、近すぎ。もっと、離れて……」
「すいません。うちの戦士がご迷惑を……」
「い、いえいえいえいえっ! わ、わた、私のほうこそ……生きててごめんなさいっ!」
慌ててそういうと、そのパーティーの人たちは不思議そうに頭を傾けた。あぁ、また余計なことを言ってしまった!
「まぁ、一緒に戦うことになるんだし、頑張りましょう」
「はは、はいっ」
戸惑いながら返事をした時――。
「魔物の一団が見えてきたぞ!」
その声に場は緊張をした。誰もがその方向を見ていると、怒涛の勢いでこちらに迫ってきているのが見えた。
先頭を走るのは、巨大な亀の魔物だった。岩のような甲羅には赤黒い魔力の筋が走り、進むたびに地面が震える。鈍重なはずの巨体は異様な速度で迫り、その背後から同様の魔物が続いていた。
「あれは、グラントータスだ!」
「くそっ! 物理も魔法も通さない、あの厄介な甲羅を持つ魔物か!」
「相手が悪いな……だが、ここで引くわけにはいかない!」
冒険者たちは叫び合いながら、一斉に前へと踏み出した。その動きを察したのか、グラントータスの群れは同時に頭と手足を引っ込め、分厚い甲羅の中へと身を隠す。
次の瞬間だった。
――ゴォォッ!
地鳴りのような音とともに、グラントータスたちの甲羅が高速回転を始める。巨体とは思えないほどの勢いで宙へと浮かび上がり、回転に巻き込まれた魔力が刃となって解き放たれた。
「来るぞ! 風の刃だ!!」
無数の風刃が雨のように降り注ぐ。冒険者たちは盾を構え、身を翻して回避するが、すべてを防ぎきることはできない。
「ぐっ……!」
「ちっ、数が多い……!」
「前に行けない!」
鎧の隙間を裂かれ、浅くない傷を負う者も出始める。それでも冒険者たちは怯まず、反撃に転じた。
「今だ! 集中攻撃!」
「いけぇっ!」
「うおぉぉっ!」
剣士が渾身の一撃を叩き込み、槍が甲羅の縁を狙って突き出される。魔術師の放った火球や雷撃も、正確に命中した――はずだった。
だが。
――ガンッ!
――ゴォンッ!
「なっ……!」
「通らない!?」
「くそっ!」
剣は弾かれ、魔法は甲羅の表面で霧散する。分厚く、鈍く光る殻はびくともしない。まるで要塞に攻撃しているかのようだった。
「くそっ、やっぱりダメか!」
「甲羅が硬すぎる……!」
「どうやって、倒すんだ!」
攻撃を受け止めたグラントータスは、再び回転を強めた。甲羅の継ぎ目から溢れ出した魔力が渦を巻き、次の攻撃を放つ前触れのように空気を震わせる。
その様子を、私はじっと観察していた。
――今だ。
一歩、前に出る。冒険者たちの視線は気にしない。見ていたら緊張してしまうから、視界に入れるのはグラントータスだけ。
大丈夫。倒し方は、もう分かっている。
駆け出した瞬間、グラントータスたちが一斉に風の刃を放ってきた。だが、その軌道は単調だ。回転に合わせて、決まった角度で飛んでくる。
「――遅い」
剣を振るい、風刃を弾く。弾き、払い、踏み込む。次々と飛んでくる刃も、進路を塞ぐには足りなかった。
やがて、複数のグラントータスを視界に捉える位置に辿り着く。私は深く息を吸い、念じた。
念動力、発動。
次の瞬間、回転していたグラントータスたちの動きが、ぴたりと止まった。空中で制御を失い、巨体が次々と地面へと叩きつけられる。
――ドンッ、ドンッ!
「動きが止まったぞ!」
「何をしたんだ!?」
「これなら!」
驚きの声が背後から聞こえたが、構わない。
私は迷わず踏み込み、甲羅と胴体のわずかな隙間へと剣を突き入れた。一体、二体、三体――確実に急所だけを狙う。
低い呻き声が上がり、やがてそれも途絶えた。沈黙したのを確認し、私は静かに剣を抜く。
「なるほど、動きを止めればいいのか!」
「よし、数人がかりで動きを止めるぞ!」
「みんなでかかれ!」
私の動きで冒険者たちは活発になった。どうやら、解決策を見つけたみたいだ。これで、グラントータスも問題なく討伐出来るだろう。
前を見据え、次のグラントータスに狙いを定めた。




