29.ガラス瓶作り
「んー! 新しい工房、ワクワクしますね」
翌日。工房の中に入ると、これから作るガラス瓶を思うと心がワクワクとした。
「まさか、一日で工房を建てるとは思わなかった……」
「本当はもっとじっくりと作りたかったのですが、今は時間がないですからね。ちょっとだけ力を抜いて作りました」
「これがちょっと力を抜いて出来る建物か……」
シオンさんは呆れ顔だ。だけど、本当にそうなんだよ。もっと凝った作りにしたかったし、装飾だってつけたかった。色々とこだわりたいところがあったのだ。
だが、今は依頼を受けている最中。仕事を優先しなければいけない。
「じゃあ、まずはガラス瓶でも作りますか」
「ま、まてまて! まだ、工房しか建ててないだろう? 機材とかは?」
「あぁ、それならありますよ。えーっと……この辺でいいかな? えいっ」
場所を見繕うとガラス加工技術のスキルを発動させた。すると、何もないところに鉄製のガラス炉が出現した。
「なっ!? なんか出てきたぞ!?」
「こういうのはスキルにあるんですよね」
「ただのスキルに物を召喚する力はないぞ! ……って言いたいが、ヒナのスキルは規格外だったな」
そう、私のスキルにはこういう必要な物を出してくれる能力がある。だから、スキルがあるだけで、いつでもどこでも作業が出来るのだ。
「ふふふ、これから楽しい作業を始めますよ」
「工房を作った時のように我を忘れるなよ。ちょっと、怖いから」
「えへへ、ごめんなさい。つい、夢中になると周りが見えなくなるんです。だけど、今回はそうなりませんからね」
「頼んだぞ」
シオンさんの注意を受けて、私は気を引き締めた。
「まずは、アイテムボックスから買っておいたガラスの素を出してっと」
アイテムボックスからガラスの素が入った袋を出した。
「このガラスの素も品質は普通なんですよね。もっと透明度が高くて、不純物の少ない砂が欲しいんですけど……」
袋の中身を指でつまみ、光に透かしながらため息をつく。
「ほら、見てくださいシオンさん。この粒、微妙に粗いですし、色も若干くすんでます。こんなのじゃ、私の理想の瓶にならないんですよ」
「い、いや……普通というか、むしろ高品質の部類だと思うが……」
「えぇぇぇ……これで高品質なんですか? 私のイメージしてるのはもっとこう、透きとおる水みたいな、澄みきった素材なんですよ! 仕上がりの美しさは素材の段階で決まるんですから!」
「……ヒナのハードルが高すぎるだけじゃないか?」
「高くて当たり前です! だって、これから作るのは薬品用の瓶ですよ? 不純物が入ってたら薬の効果にも影響が出るし、見た目だって美しくないと!」
私はぷりぷりと頬を膨らませながら、袋を抱えた。そして、スキルで召喚したるつぼの中に流しいれる。
「はぁ……まったく、工房の時といい、ヒナの普通は信用ならん。で、だ。使えないならどうするつもりだ?」
「使えないとは言ってません。ただ改良します!」
私はにっこりと笑う。
「スキルを使えば不純物はなくなりますし、溶かして精製すれば透明度も上がります。ちょっと面倒ですけど、この程度なら余裕ですよ」
「聞いてるだけでただのクラフターの仕事とは思えないんだが……」
「クラフターですよ!」
私はるつぼをガラス炉の前に置き、手を軽くかざした。すると、るつぼの温度が上がり、中の素材が溶けだしていく。
「じゃあ、不純物を取り除いて、混ぜる」
「なんだか、変化が良く分からんな。きっと、凄いスキルを発動しているんだろうが……」
「仕上がりが楽しみですね」
これで、ガラスの素の準備は完了した。
「次はモールの作成ですね」
「モールとはなんだ?」
「型のことです。この型にガラスの素を入れて、膨らまして形を作るんです」
「なるほど……。だが、今から型を作るのか? それは時間が……」
「大丈夫ですよ。えい」
説明をした後にスキルを発動させた。すると、目の前に四角い金属が現れる。
「はい、スキルで召喚した型です。私の想像通りの型が出来ています」
「そうなると思っていたよ! ヒナのスキルは本当にもう!」
「えへへ、便利ですよね」
「スキル一つで革命が起きるわ!」
私は自分のスキルが好き。自分の思いのままにクラフトをすることが出来るから。だから、遠慮なく活用するし、活用しないとスキルに申し訳ない。
「型をテーブルに置いておいて、と。じゃあ、吹き竿にガラスの素を入れて、ガラス炉に入れて熱します」
「火はどこだ?」
「私の火魔法を使います」
ガラス炉の中で火を起こし、温度を調節する。
「ほう……細かい調節まで出来るんだな」
「火魔法は色んな場面で使うものですから、それなりに上手く使えます。そろそろ、いいですね」
じっくり、ガラスの素を熱すると、それを型の中に入れる。
「じゃあ、息を吹きかけて……ふー。よし、これでいいですね、あとは切り離して。えい。はい、これで形作りは終わりです」
「は? 一瞬で終わったぞ」
「そして、すぐに水魔法で急速冷却!」
「水が出てないぞ!?」
「冷却用なので、水が出ないようにしました」
「水魔法なのに、水が出ないとは!?」
冷却は何でも使えるから、ちょっと自分なりに改良したのだ。でも、これでガラス瓶は急激に冷やされた。これによって、良いガラス瓶が出来る。
「ふふっ……見てください、シオンさん!」
私は型からそっとガラス瓶を取り外し、両手で大事に抱えた。光の差し込む工房の中で、それはきらりと淡い輝きを放つ。
どの角度から見ても歪みがなく、透き通った水のように澄んでいて。自分で作ったのに、思わずため息が出るほど綺麗だった。
「わぁ……今回のめちゃくちゃ上手に出来ました!」
胸がじんわり熱くなる。何度作っても、この瞬間が一番好きだ。
ちゃんと作れた。理想通りにできた。その実感が胸の奥から溢れてくる。すると、下で見ていたシオンさんがガラス瓶をじっと見つめる。
「……完璧だ。いや、完璧どころか……王都の専属工房でも、ここまでの透明度は滅多に見ない。厚みも均一、歪みもなし、表面の滑らかさも……ちょっと、鳥肌が立つレベルだぞ」
「えへへ……!」
褒められた瞬間、心から嬉しい気持ちが溢れてくる。作った瞬間に褒められることってなかったから、凄く嬉しい。
「上出来すぎる。……いや、これは上出来なんて言葉じゃ足りん。ヒナ、本当にすごいぞ」
「すごい、ですか!」
「すごいどころじゃない。天才だ。いや、天災か……いや、天才だ……? くそ、言葉が迷子になるほどすごい!」
「どれですか!? 天才ですか!? 天災じゃないですよね!?」
「天才だ! 天才で合ってる!」
シオンさんの声は、呆れと感心が混ざっているのに、とても優しい。
「本当にすごい。こんな瓶が大量に作れるなら、依頼どころか、王国中から仕事が殺到するぞ」
「えへへ! じゃあ、たくさん作らないといけませんね!」
「ま、待て待て! まずは依頼分からだ! 暴走するなよ!? 本気でやると工房ごと吹っ飛ぶ気がする!」
「吹っ飛ばしませんよ!」
でも、その勢いで作りたくなるくらい、嬉しくて仕方がない。私は胸にぎゅっと手を当てて、改めて瓶を見つめた。
「さぁ、もっと作りますよ!」
その嬉しさは、工房いっぱいに広がるようだった。




