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19.ナイフの修正

 初心者の森で沢山ゴブリンを素材還元した翌日。私の机の上には、素材還元で手に入れたボロボロのナイフが置かれていた。


「本当にこれがもう一度使えるようになるのか? とてもじゃないが、難しいんじゃないか?」

「いえ、大丈夫です。この程度なら、少しの修復で元のナイフ以上に良くなる余地はあります」

「ヒナの手に掛かれば、ということか」


 机に乗った黒猫のシオンさんは期待のある眼差しを向けてくる。期待されて戸惑ってしまうけれど、クラフターの魂に火が付いているので些細な事で動揺しなくなっていた。


 一本のナイフを手に取ると、状態を確認する。ナイフは片刃になっていて、刀身は真っすぐだ。その刃の部分は刃こぼれが酷くて、このままだと普通のナイフとして使えない。刀身を研ぐ必要がある。


 柄の部分もボロボロになっていて、このままだと普通に握って使えない。このまま使うと、このナイフの能力を十分に発揮出来ないままだ。だから、柄は新しく作り変える必要がある。


「まず、刃を研ぎましょう。『砥石召喚』!」


 スキルを発動させると私の前に砥石が三つ現れた。


「三つも必要なのか?」

「はい。荒砥石、中砥石、仕上げ砥石と言います。細かく砥石を買えると、良い刃に研いでいけるんですよ」

「そういうものなのか。何やら難しそうだな」

「そうでもないですよ。使っていれば、自然と覚えますしね」


 召喚した砥石を準備すると、表面を水で濡らす。しばらく放置して、水を吸収させてから作業を開始だ。


「じゃあ、研いでいきます」


 ナイフを手に取ると、まずは荒砥石を使用する。角度を気を付けて刃を研いでいく。すると、室内に刃が研いでいく音が響き渡る。


「えへへ、いい音……」


 なんて心地いい音。ずっと、聞いていたい。


「ヒナの顔が嬉しそうに蕩けているぞ」

「久しぶりに聞いたので、嬉しくて……。シオンさんもこの音がいい音だって思いませんか? 刃が削れていって、少しずつ良くなる音。あぁ、堪りません!」

「……ヒナは時々おかしくなるよな」


 呆れたシオンさんの声が聞こえてくるが、それが気にならないくらいにこの音に夢中になる。地道な作業だけど、良くなっていく素敵な音。道具が喜んでいる声が聞こえてくるようだ。


 研ぎながら刃を確認して、また研ぐ。その繰り返しをしていくと、刃こぼれが綺麗になくなった。


「じゃあ、砥石を変えますね」


 良い感じで刃が削れると、今度は中砥石に変える。同じように研いでいき、刃を調整していく。荒砥石で付いた傷を消すために、丁寧に削っていく。


「うーん……うん、いいね」


 何度も削った後に確認すると、刃が整った。これであとは、仕上げ砥石で最後の仕上げだ。最後は集中して丁寧に研いでいく。何度も確認しながら研いでいくと――。


「……綺麗。出来た!」


 刃を確認して、ようやく完成した。光を当てて見て見ると、光を反射させてまるで鏡みたいに綺麗になった。


「おぉ、凄いな! あんなボロボロだったナイフが鏡のように光を反射させているぞ」

「大満足です。切れ味を試してみましょうか」


 シオンさんも驚くほど綺麗に整ったナイフ。私はアイテムボックスから紙を取り出すと、その紙にナイフの刃を当てる。すると、スッと紙が切れた。


「刃を当てただけでこの切れ味だと!?」

「じゃあ、次は固い物で試しましょう」


 次にアイテムボックスから木の枝を取り出す。その枝に向かってナイフを振り下ろすと、固い木がスパッと切れた。


「なっ……木が簡単に!?」

「うん。上出来です」

「上出来というか、最高級品のナイフでは!?」


 そんなに驚くことかな? でも、褒めてくれるのは嬉しい。


「じゃあ、この仕上がりを目標に他のナイフも研いでいきましょう」

「こ、こんな切れ味のナイフがまだ他にも出来るのか……」


 私は気合を入れ直して、次のナイフに取り掛かった。


 ◇


 それから全てのナイフを研ぎ終え、今度は柄の製作に取り掛かった。まずはナイフから古い柄を取り外し、タングの形を確認する。


 次はそのタングの形に合うように、新しい柄の部分に溝を掘り、手に合うように手持つの部分も切り出して整えていく。


 人が握って違和感がないように凹凸を付けて、その凹凸の距離も計算して、頭をフル回転させて持ち手の形を作り出していく。


 何度も自分の手で握って、違和感のない柄の形を追及していった。こういう細かいところまで考えて作るのが好き。今、私は夢中になる工作をしているのだ。


「ふふふっ、良い柄が出来そう」

「……また、怪しい笑みを……」


 自然を笑みがこぼれて、夢中で柄を整える。そして、満足のいく形を追及出来た。後はこれをナイフの数だけ用意するだけだ。


 黙々と木を削り、形を整え、やすりをかけて仕上げていく。じっくりと時間をかけて、柄の部分も完成した。


「後は組み合わせて……」


 最後にナイフのタングの部分に柄を合わせるように付けると、修復の終わったナイフが完成した。


「シオンさん、見てください! ナイフが完成しましたよ!」

「ほう、凄いな。見違えるほどに良くなっている。このナイフも売れるだろうな」

「本当ですか? そうだったら嬉しいです!」


 捨てられるナイフから買われるナイフに変わった。やっぱり、どのアイテムも可能性を秘めている。その可能性を諦めなければ、どんなアイテムでも再び輝けるんだ。


 だから、このナイフをもっと良いナイフにしよう。


「私、考えていたんですよね」

「何をだ?」

「このアイテムに付与する能力のこと」

「……ん?」


 切れ味だけ良いナイフだと売れない可能性がある。だから、これに能力付与は必須だ。その能力は何がいいか、修復しながら考えていた。


「色んな能力を付与出来ると思うのですが」

「……い、色んな能力……だと?」

「他にはない能力を付与すれば、このナイフの価値は上がると思うんです。だから、付与する能力は『使用者の守護』です」

「い、いや……ちょっと待て。このナイフに含まれている魔力が極極極小だ。そんなアイテムに能力付与など……」

「えっ? 出来ますよ。見ててください」


 信じられないというシオンさんの目の前で私は出来上がったナイフに能力の付与を行う。ナイフに手を掲げて、意識を集中させると付与術魔法を発動させる。


 すると、ナイフが一瞬光った。……うん、出来た。


「ほら、見てください。付与出来ましたよ」

「なん……だと……?」


 シオンさんに見せると、信じられないような顔をしてナイフを見る。しばらく無言だったシオンさん。だけど、突然飛び上がった。


「本当に付与されている、だと!? 普通ならこの魔力量だと、付与出来ないんだが!」

「少しあれば誰だって出来ますよー。乗せるだけでいいんです」

「誰だって出来る訳がない!」


 えっ、でも……クラフトワールド・オンラインだと普通に出来たのに。そんなにおかしいかな?

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