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2.石像の声

サクッと4話で終わらせます٩( ᐛ )و

聖女という存在は、数百年に一度選ばれるという。


それは例外的な奇跡。

その名誉も、責務も私に重くのしかかっている。昨日の適性検査の反応、護衛や関係者の視線、そのすべてが「名実ともに私が聖女であること」を示していた。否定はもちろん、躊躇すらできる立場ではなかった。



そして最初の祈りの儀式へと向かう。


朝の光が聖域の高窓から差し込んでいた。埃まじりの粉がかすかに揺れ、その一粒一粒が光を帯びて輝いている。空気は静かで重い。祈りの記憶が染みついた空間の息遣いを感じさせた。まるでこの空間そのものが生き物のように感じた。


私はゆっくりと歩く。

意識の端には、昨日の「たすけて…」という囁き声が残っていた。あれは気のせいではなかった。


だが、いまそれを考える時では無いと切り替えようとした。


今必要なのは混乱ではなく、祈願の儀式。

覚悟を整えて、静かに息を整えた。


大理石の床はひんやりとしていて、靴底を伝う冷たさが心細さや恐怖のような感情を感じさせた。


だが、9歳ながら一度経験した戦場を思い出し、あの時に比べれば容易い事だと自分に言い聞かせ私は進んだ。中心部に設えられた巨大な台座。そこには三体の聖女像が祀られていた。



三体の石像は、祈りを捧げる姿勢を保ったまま静かに佇んでいる。そして、近づくと完全な静止ではないことに気がついた。


光が表面に当たるたびに細かな揺らぎが走り、陰影が微妙に変化する。石像そのものが“記憶”を持ち得ているように思える。それだけで、生気を帯びた象徴に変わる。


その間を石柱が揺れ動く。

「ゴウン…ゴウン…」

石同士が擦れ合う鈍く響く音が足元にも伝わる。柱は一定のリズムで動いているが、時折わずかに速度を変えるような揺らぎがある。その不規則さは胸騒ぎを感じさせる。


私は指定された位置――緩やかに動き続ける台座のふち、三体の石像とほぼ同じ円周上に膝をついて祈り始めた。光と影が交差し、視界の末端が揺れる。音と振動が呼吸と同期するような錯覚にとらわれた。


唱え始めた。祈詞。言葉は落ち着いているが、心の奥では警報のような違和感が鳴っていた。

そのとき、はっきりと声が聞こえた。


「たすけて…」


昨日より明瞭に。祈詞の途中で。風でも囁き声でもない。頭の奥、意識の隅に直接響くような音像。振り返るべきか、一瞬だけ立ち止まりそうになった。だが私は言葉を繋ぐ。止めることはできない。


(どうして…どうしてこんなにも鮮明に聞こえてくるの?…でもどうやら他の人には聞こえていないみたいね…。一体どういうことなのかしら)


祈りが終わり、私は気づいた。三体の石像のうち一体だけが、こちらを見ていたのだ。その一体の目は確かに「視線の重さ」を持っていた。他の二体と比べ明らかにその一体だけが“意思”を訴えている。


(…なんとなくだけれどこの石像…もうすぐ“期限が尽きる”存在なのかもしれない。)


じっと見つめていると、他の二体とは明らかにこの一体は存在感が違っていた。どこか切羽詰まったような、ヒリヒリするような感覚があった。


(…もしかしたら新たな聖女の“交代”を待っているの?交代…私は…新たな祈りの“器”として消耗されていく?交代というよりも交換のような…まさか…ね?)


私は拳を握る。はっきりとはわからないが、そこにあるのは、“この制度の裏にある重さ”に気づいてしまった者としての覚悟だった。


護衛のエルディンの姿が人影の端に見えた。無事に祈願を終えたことを参列者に知らせるためだろう。彼の顔に安堵が浮かんでいるが、私には確かめなければならない事ができた。


私の“戦い”は、祈りの中で、すでに始まっていた。

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