休憩室
「話は中で聞くから」
「あ、はい」
連れられていくと、二階へと続く階段の下、会計をするらしい場所の後ろに扉があった。言い表すならバイトの休憩室のように見えるその場所。
「ちょっと中に入っててね」
「え?あの、はい…、」
中に入り、側にあった椅子に座る。
「…、なんだここ」
見る限り、休憩室にしか見えなかった。中央に大きな木のテーブルがあって奥には畳が敷かれていた。何か取引きするための場所かと思ったが、そうではないらしい。壁にかかった銀色の時計は4時20分を指している。小さな秒針の音が耳についた。
まだ数分も立っていないのに一人になり本当にやってくれるのだろうか、噂は本当だろうか、という不安さが大きくなっていく。
「やぁ雀上君ごめんね、この時間お客さん多くなるからちょっとお店閉めてきた」
言いつつ架颯屋さんは部屋に入り、側にあった丸いパイプ椅子に座る。
「えっそ、そこまでしていただかなくても、」
「えぇ?こんなとこいるなんて誰かに知られたら良くないよー?まず親が怒るよ」
「そんな…本屋に来たくらいで…」
「ばかだなぁ、あんまり良い噂のない場所だよこの本屋。悪い噂の溜まり場に安易に来るのはオススメしないね僕は」
少し沈黙。つい、黙ってしまう。
「まぁいいや。で、城米高校3年生の副会長さん僕に何の用でしょうか?」
驚いて立ち上がる。椅子が床を叩きつけた音が大きく響いた。
「え、なんで、」
「この街の有名人だ。知ってるよ雀上くん噂の種だからね。さ、はやく話そう、仕事は早く終わらせたいたちなんだ」
自分を知っていた、という事実に、いろいろな考えが巡って焦る。
「とりあえず座りなよ、話さないと始まらないし」
「なんで知って…」
笑顔の店主に怖さが見える。
だがそれも一瞬で、架颯屋さんは呆れ顔でぼくを見てきた。
「……はー、なんのことはないよ。君は君が思ってるより有名なだけだ」
「……ぼくが?」
「中学までえらく騒いでただろう不良くん。それに加えて名前は君が言ったんじゃないか、わかるよそりゃあ」
それに制服じゃん、と付け加えられる。あ、あーーー、と思うと同時に、自分の浅はかな考えとか諸々を指摘されて恥ずかしい。
中学まで不良だった自分は、結構有名だったらしいのだ。けれどエスカレーター制の学校のおかげで高校生になった自分はあるきっかけを得て、今や真面目優等生として副会長へと変身。
不良不良と呼ばれなくなって、もう忘れられた過去なのだと思っていたために、恥ずかしい。
「あ、あの、今は違いましてと言いましてですか、」
「はは焦りすぎ」
自然な笑いがこぼれた店主は目元を崩したえらく可愛い顔で笑った。怖いクマが突然可愛らしさを見せたみたいな。驚きで凝視。
「…まぁそんなのいいから。とりあえず座って話して」
「あっ、と、はい」
「僕はめんどくさいのあんまり好きじゃないから出来れば手短にお願い」
「ええ?」
「堅苦しいおはなしが苦手なんだよ、仕事は勿論別だから安心してー」
そろそろ話してくれないかなぁという雰囲気を読み取って倒れたパイプ椅子に手をかけ座り直す。
時計を見ればまだ数分と経っていなかった。机を挟んだ向かい側、架颯屋さんと目線が合う。
手汗を拭って、息を吐き出す。
「……友人を、連れ出して欲しいんです」
仕事内容を呟き、そしてぎゅっと拳に力を入れる。
助けなければという思いでいっぱいだった。
「街の何でも屋だと聞き来ました。お願いします」
「なるほど」
そう言った架颯屋さんは、始終にこやかだった。




