ep.2 幽体貫通
自分を脅かすものから、逃げるように物置部屋へ行った日のこと。
少ない持ち物と、室内にある物で細やかな平穏を過ごす。アウトドア用の電灯を傍らに置く。身を隠したくて、灯りは最小限だ。
「ここは静かでいい」
誰も私の領域を侵して来ない。
持ってきた本を手に取り開く。まだ早鐘を打っている心臓を鎮めるため、紙面に並んだ文字を追いかける。
「ふぅ……」
どれくらいの時間が経ったのか。
首と肩に疲労感を覚える。いったん本を閉じ、片付けて久しいボードゲームを広げた。テキトーに駒を並べていく。
「姫、今わたくしがお助けします」
囁くような声でセリフをあてた。
ルールは無用。別ゲーのカードまで持ち出して無法地帯を楽しむ。
あっという間に夜は更けていった。
眠気に襲われ、時計を見て、収納箱の中から毛布を引っ張り出す。適当な古着を枕にして身体を横たえた。
唐突に意識が浮上する。浅い眠りという奴か。
瞼越しにも、まだ外が暗いとわかる。きっと深夜なのだろう。私は寝返りを打とうとした。
すーっと扉が開く音がする。忍んだ足音が、ギィギイィと床を踏みしめ近づく。
(どうしよう。誰か、入ってきた)
咄嗟に息を殺す。全身に変な力が入った。
このまま静かにやり過ごすか。それとも逃げたほうがいい?
でも扉は1箇所だけだ。一度でも物音を立てれば気づかれてしまう。
(こっち来ないでっ)
ギィ、ギギィとなおも足音は近づいて来た。
もうすぐそこまで、と感じた時ーー。
「あーっ!?」
肩を掴まれた。首や腕、肌に触れる不快感にもがく。
だが何がおかしい。最初は上からだった。けれど今は……。
「ひぃっ」
下から胸や腹をまさぐる手の感触。
身体を起こした覚えはなかった。なのに背中側からなんてあり得ない。
しかもひんやりしていて、服をすり抜けているとしか思えない。
「やめて、嫌ぁ……」
必死に抵抗する。正直、声が出せているかわからない。
自分のものじゃない、息遣いを聞いた気がした。
無我夢中で身をよじる。すると肌を撫でていた感触が消えた。何も見えないが、うまく脱出できたのだろうか。
ほんの一瞬、気が抜けたその時ーー。
「ーーッ」
背中から何か、うすら寒いものが私を貫いた。




