ep.3 ム仕返し
暖かい季節、特に夏は身近に恐ろしい奴らが巣くっている。
蒸し暑さに体力を奪われる中、ソイツは現れた。
ーーブゥゥン。
思わず振り向くと、開けっぱなしのドアの奥を小さな影が横ぎる。
小さいと言っても耳元に寄っている奴じゃない。羽音もやや低かった。こうなるともう大変だ。
「今のなに? ハエ、まさか蜂じゃないだろうな」
連中は素早い。不意打ちの一瞬で判別するのは不可能だ。
ただ、明るい時間帯なのは幸いだった。毒持ち野郎てないことを祈りつつ対処に動く。嬉しいことに、ソイツは蜂ではなかった。
後日、夜間に新たな刺客が現れる。
数多の通り名をもつビックB。水を飲みにキッチンへ行き、灯りをつけた時だった。不覚にもかなりの接近を許してしまう。
「くそぅ、いつもいつも驚かせやがって」
都合よく奴がいるのはシンクだ。逃げる気がないとは生意気な。
頭にきて、殺虫剤を取りに行く時間を惜しみ、近くのポットから湯を得る。
「くたばれぇい」
容赦なく上から湯をぶっかけた。これが驚くほどよく効くのだ。
そんなこんなで、日々、人虫大戦を繰り広げていた。
ある日のこと、見知らぬ森の中で目を覚ます。
どうにも記憶が一部飛んでいる。なぜ、こんな所にいるのか。
「おいおい、誰が運んだんだよ」
悪ふざけをしたバカはどこのドイツだ。
文句を言ってやりたいが堪えて、帰り着くために森を歩く。
(これといって特徴のない森たなぁ)
彷徨ううちに陽の光が弱まっていった。
木々の間に居座る影が濃くなる。やがて完全に陽が落ちてしまう。
ーーパキッと響いた音に肩が跳ねた。枝を踏んだらしい。
「困ったなぁ」
うっかり暗くなるまで歩いてしまった。これでは火を起こすのも難しい。
視界が悪く、道具もない。なぜか直前まで持っていた筈のスマホが消えていた。
途方に暮れていた、その時ーー。
ーーガサ、ガサガサ。
何かが茂みの草葉を揺らす。しかも複数いるようだと音で知る。
ポツポツと小さな光が見えてきた。青や緑、紫にオレンジと様々な光の群れが闇に蠢く。
次の瞬間、パァと天から光が差す。
目にした光景に鳥肌が立ち、総毛立つ。なぜならそこには、大小の虫が無数に獲物を睨んでいたのだから……。




