ep.1 霊体隔離
まっくろな視界の中、しゃがれた声が聞こえた。
「8月✖️✖️日、午前✖️✖️時……岡本✖️✖️さん、66歳が永眠しました。通夜、火葬案内……」
これは朗読だとすぐに感じる。
瞼はまだ重いが、脳裏の片隅は不思議なくらい冴えていた。
だからこそわかってしまう。読み上げられているものが、フィクションではないと。文章のソレが空想物語のものじゃなかった。
途端に不快感を覚える。微睡みの心地よさを邪魔されたからだけではない。最悪の目覚めを予感したからだ。
しかし幸いにも、本日はお休み。迷うことなくリセットを選び、手探りで布団を引き寄せて頭から被った。
耳を両手で塞ぎ、全神経を集中させ、再び眠りへと落ちていく。
(ん? ここはどこだ)
鼻腔をくすぐる木の香り。瞼を開けてもまっくらだ。
自分の手すら見えない。完全な闇に横たわっていた。
(なんだ、身体が重い)
足も首も動かせそうにない。手はどうだろうか、と意識を集中させる。
(よし、動くぞ)
妙にふわっとしている気がするけど、今はそれどころじゃない。
感触を頼りに周辺を探る。意外と狭い場所のようだ。上、横、正面と壁があった。どうやら閉鎖空間にいるらしい。
脱出を試みたが、どこを押しても動かなかった。閉じ込められている。その考えに至り、段々と怖くなって、助けを呼ぼうと思う。
「ーーッ!?」
声が出ない。胸騒ぎに似た衝動が湧き起こった。
ーーパチッと高い音が響く。次いでバチバチとした音が壁越しに聞こえた。
(まさか、この音って)
嫌な予感がして焦りが増していく。
不安を増長するように足元が明るくなる。朱色の光が強まっていき、何かが焦げる臭いがした。
(ひ、火だ)
逃げないと死んでしまう。そう思うのに身体は動かない。
ふと、なんて邪魔な器なんだ、という感情が脳裏を過った。なす術もなく、炎が燃え広がっていく。肌を焼く熱に、胸の奥が締めつけられる。
どこにも行けないまま、身体も意識も、灼熱の朱へ呑まれた。
「8月✖️✖️日、午前✖️✖️じ……」
声なき悲鳴を上げる傍らで、不吉な朗読が耳に響く。




