同等
空は雲が去り、晴天を見せる。まるで今の二人の気持ちの靄を晴らすように。
水姫はそっと彼女の背に周り、注連縄の封印を解いてやる。
水神の紋が浮かび上がった。
「──阿須波様。宿主の言葉を受け入れるというのも、憑き神の役目ですよ」
「………」
「私も、日々学ぶことがあります。人間は脆く弱く…一人では何も出来ないと思っていました。けれど、実際はそんなことありません。人間は強い。自ら選択をして、その足でどこまでも歩いて行ける」
「……水分」
「充分……“同等”成り得る存在です。たまには先を歩くのをやめて、隣を歩いてみたらいかがですか?」
水姫の微笑みに阿須波神は微笑して、深くため息をつく。
「……変わったのね、水分。以前の貴方ならそんなこと言わなかったのに」
「褒め言葉として受け取っておきますわ」
「……興が冷めたわ」
マコ、行くわよ。
阿須波神はそう言って屋上から降りる。
さすがにこの高さは飛び降りられない真は慌てて階段へと向かう。
真が席を外したことを確認すると、阿須波神は振り返って人差し指を真っ直ぐこちらへと向けた。
「出雲を目指す以上、貴方達はあちき等の敵。今度は正々堂々よ。手加減する気なんて毛頭ないから、覚悟しておくことね」
それは宣戦布告だった。
“今度こそ正々堂々”。
その言葉の意味を理解した水姫と夏は顔を見合わせ合いながら、込み上げてくる感情のまま微笑んだ。
「…それからそこの貴方。貴方よ、少年」
「え、俺っ?」
「この期に及んで図々しいかもだけど───よかったら、マコと仲良くしてあげてね」
「……え?」
そのタイミングで丁度真が降りて来て、阿須波神はこちらに向けて人差し指を立てて去っていく。
…まるで言い逃げのようだ。
何だかんだお互いを思い合っているパートナーである二人の背を眺めながら、夏は肩の力を抜く。
「疲れた……」
「そうですね。では自宅に戻りますか?」
「いや、講義……、っ講義!?」
慌てて時計を見ると、時刻は授業開始三十分前。
ダッシュで戻って間に合うか間に合わないかの瀬戸際だ。
夏は慌てて階段を降りる。
そんな忙しくも地面に落ちていた鞄を拾う夏の姿を眺めていた水姫だったが、下から声がかかる。
「水姫!何やってんだよ!早く来い!」
「…え?」
「よく知らないとこだから一人じゃ嫌なの!早く来い!講義遅れるだろっ」
「………」
水姫は目をぱちくりと瞬かせて、間もなくぷっと吹き出した。
そうして、もはや取り繕う気もない可愛らしい宿主の背を、今日も追うのだった。




