安堵
しばらくすると、全員の治療が終えた。
夏が治療し、水姫が介護する。
そうしていくうちに、少しずつ全員から規則正しい呼吸音が聞こえはじめて、顔色は元に戻っていた。
その明らかな結果に、夏は安堵の息をついた。
人工的なものではないが、初めて人を治療し、救うことができた。
疲労感はあれど、嬉しそうに笑う夏に水姫も目を細めた。
間もなく救急車が来るだろう。
職員室にも連絡を入れたし、あとは大人達が来るのを待つだけだ。
その全ての作業を終えた夏は、長い長いため息をついて、頭を抱え込んだ。
「終わった…さようなら、俺のTHE普通ライフ…」
神力を開放し、本当の意味で神憑となった夏を、水姫は後ろから抱きしめる。
突然のことに驚いた夏だったが、声をかけることはしなかった。
気を使ってくれているのだろうと水姫は気づいていた。
そんな夏の心遣いが心底嬉しかった水姫は、夏の細い背中に頬を摺り寄せ、小さく呟くのだった。
「…第一関門クリア、ですね」
「…うるさい」
一方。
「あらら、あちきの可愛い下僕ちゃんの炎がやられちゃった…」
そんな教室の様子を、反対側の校舎の屋上から見ていた男女がいる。
日陰で残念そうに呟く女がため息をつく。
上から俯瞰する景色には、水のように透き通る美しい髪をした女神が宿主である少年に突き放されているところだった。
その全てが不服そうな女とは裏腹に、男は焦りを隠せない。まさか、ここまでするとは思ってなかったのだ。
「ねえ…ちょっとやりすぎだよ。俺の大学でもあるんだよ?」
そんな男の言葉に女は唇を尖らせた。
「うるさいわねぇ…このくらいでへばってもらっちゃこっちが困るのよ。それに、わざわざ“火”の子にしてあげたのよ? 優しいでしょう」
「………」
どこらへんが…と言ってやりたくなったが、男は口を慎む。この女には何を言っても無駄な上に、言ったところで自分ではどうにもできない。
「でも、ここまで目くじら立てるの珍しいよね。何か恨みでもあるの?」
不意に男が尋ねると、女は反応を印したが、返事を返すことはなかった。
いつもなら返ってくるはずの返答がないことによって、男はなにかまずいことを聞いてしまったのではないかと焦った。
が、それも束の間。
何が面白いのか、女は一頻り笑う。
唐突なそれに戸惑いを隠せなかった。
やがて、満足したのか女は妖艶な微笑みを向けた。
「……さあ?」
そう言って、その姿を隠すのであった。




