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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
128/160

127  終幕へのソナータ - 11

【花影のさくら】

https://ncode.syosetu.com/n7959ie/

完結済みの小説です!

お時間がある時に、ゆっくり読んでいただけると嬉しいです!

今。

我らの手に刀は無い。

けれど授かった力はある。


戦え、抗え。




「【暁】に所属してから、いい男になったと思いません?俺の弟」


「いや、ずっと閉じ込められてたので、【暁】に所属する前も後も知らないんですけど、私」




ニコニコと近づいてきたイル・バガットに、シシィは気まずい表情で答えた。ずっと監禁状態だったのに、知っているものか。




「昔はねぇ、兄さん兄さんって言いながら俺の後ろにくっついて、初めて学校に行く日もギャーギャー泣いて、授業が終わるたびに俺のクラスに来てたんですよ」


「それは……なんというか、想像しただけですが、可愛らしいですね」




結構お兄ちゃん子で、泣き虫だったのか。




「それが今は、40、50の、働き盛りの大人たちさえ従えて人の上に立つ男になったんですから、誇らしいものですよ」


「そう、でしょうね」




────この男、何が言いたいんだろう。ただの弟自慢なはずないと思うんだけど。




「でもやはり、才能は眠っていてね。中学の終わりかけくらいかな?成長期に入った途端に、肉体の成長と共に才能も一気に開花して。俺なんか、足元にも及ばなくなったんですよ」




今は遅めの反抗期です。

イル・バガットは寂しげに笑って言った。




「あの、ご用件は」


「俺の弟かっこいいでしょって話です」




────弟自慢だった。




「ソウデスカ」




時間を無駄にした。

そう思ってシシィはため息をつく。




「貴方も、僕と同じものが見えていますか?」


「は?」


「よく空を見上げているので」




空。

うっすらと結界の膜が見える、けれど晴れた青い空。


けれどシシィが見ているのは、空ではなくて──




「……貴方は?」


「僕には見えますよ。ジオラマに手を伸ばす、観測者の手が」


「……私にも、見えています」




雲の隙間から陽の光が差すように、一本の手が、この【世界】に差し込まれている。


城みたいにデカデカとした手ではなく、見える人にしか見えないような、上空の飛行機を探すより難しいほど小さい手が、そこにある。




「あの手の傷跡、やはり壮也のものですか」


「でしょうね……?……傷跡でわかるんですか」


「あれは美風が風邪をひいた時に、お粥を作るって言ってキャベツを切ろうとした時に切った傷跡です」


「……お粥にキャベツ?好みはそれぞれですけど、塩でよくありません?」


「お粥が何かを知らない人でしたから。あと作り方も」


「……家庭科の授業、学校でありますよね」


「教科書に書いてあればできるんですけどねー。残念ですよね、彼」




残念ってベクトルじゃない。

レシピを見ろ、レシピを。




「死者の魂を引っ掴んで、【あちら】に戻しているようですね」


「【千里眼】、ですか」


「正解です」


「なるほど」


「僕の【千里眼】はね、壮也の【最果てを見通す目】とは違って、一定の範囲内しか見えないんですよ。現在は大陸全土が見えますけど、大陸より先の、海の向こうまでは見えない」


「……そう、ですか」


「それでね」




イル・バガットは目を伏せて微笑んだ。




「君に、告白をしようと思って」


「……はぁ?……い、意味が、わかりませんね」


「まぁ気にせず。──美沙夜、君が封じられていた【箱】。アレを作ったのが、壮也や俺と言ったら、どうします?」




────そういう、告白?




「……何も。封じられるに値する人間だという自覚はありますから。だから、何も。怒りませんし、悲しみません。嘆きませんし、何も思いません」


「……そう、か……そっかぁ……」




イル・バガットはその場に小さくしゃがみ込んで、くしゃりと自分の髪の毛を握った。はあぁぁぁぁ、と長くため息をついて、脱力する。




「私に怒って欲しかったんです?」


「君と同じさ。怒られたり責められたりするに値することをしたと思っている。だから君も俺を嫌っているのかと思ってた」


「いや、別にそういう理由じゃないですよ。話したこともないけれど、なんとなく『この人はきっと苦手だ』と思ったから、距離を置いていただけです」


「それ、理由があって嫌われるよりタチ悪い」


「だって、仕方がないでしょう。『貴方は数多の人を見てきた』でしょうし、【千里眼】を持っています。会っただけで全てを見透かされて、気分のいい人はいないでしょう」




仕方なさそうに、シシィは笑った。


目の前にいる男は教師だ。ただ普通に働いていた人とは違い、数多の生徒一人ひとりを見定め、見極め、見抜き、導き、背中を押してきた人だ。ただ働くだけじゃ、そこまで人とは関われない。


彼と話してみたら、そこまで嫌な人間じゃないことはわかった。けれど、壮也と顔を合わせた時の前例があるせいで、まず先に誰も彼もを警戒する癖がついた。


壮也の未来視は果てが無い。

世にある全ての選択肢、その果てにある未来、その全ての可能性を一つ残らず、余すことなく、見果てる。


だから、怖い。


見透かされるのが、怖い。




「それはごめん。でも俺は壮也みたいにありとあらゆる選択の果ての未来までは見えないよ。せいぜいが今起きていることを、この場所から見る程度。あの女神の今とかね」


「……そう」




小さくため息を一つ。

目的のために力をふるい、目的の役に立つことができる彼らは、本当にすごい。


だって、だって私は……




────神様と話せる以外、何にも無い。




「でも、そうか。これを告白しても、君は怒らないのか。強いね」


「……は、え?強い?どこが?」


「いや強いでしょ、どう考えても。自分が閉じ込められた原因……と言ったら変か?うーん、まぁ、自分を閉じ込めていた【箱】を作った張本人だよ?そんな奴が目の前に現れたら怒るでしょ、普通」




────正確には俺と壮也だけど。




「普通、人を封印する【箱】は作れないし、人は封印できないと思うんですけど」


「あー、君って結構理屈で攻める感じ?」


「【箱】の中では論文ばかり読んでました」


「うわ、すごいね。俺、自分の専門分野の論文しか読めない」


「時間が無限にあったようなものなので」


「すみませんでした」


「だから怒ってませんって」




美沙夜は楽しそうにくすくすと笑った。【あちら】でも【こちら】でも、人とはあまり話さなかったから、凄く──そう、新鮮、だった。




「──ねぇ」


「はい」


「頼みがあるんだけど」


「なんでしょう」




イル・バガットはシシィの目を正面から見据えて、真面目な表情で、言った。




「俺と一緒に、他のみんなを殺して欲しい」

キリが悪いので、明日7月3日の同じ時間にもう1話更新します。あまりにもお兄ちゃんの言っていることが暗すぎる。貴方はもっとムードメーカーでいいのよ。


そういうわけですので、次回更新は明日の12時です。よろしくお願いいたします!

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