124 終幕へのソナータ - 8
【花影のさくら】
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完結済みの小説です!
お時間がある時に、ゆっくり、じっくり、読んでいただきたい物語になりました♪
こちらも併せてお読みいただけると嬉しいです!
手を、伸ばした。
なんで伸ばしたのかは、自分自身わかっていない。
“手を伸ばさなければならない”
そんな、使命感や義務感のような、“そうしなければならない”という思いに突き動かされて、手を伸ばした。
その手が、誰かに掴まれる。
水に沈んでいた手を水面から誰かが掴んで引っ張り上げられるように、勢いよく掴まれて引っ張られる。
誰に?
そんなことわからない。
────でも、なんだか。
すごく、凄く、懐かしくて。
「……ぁ」
そうか、この手。覚えがある。
そう、彼だ。
今まで指導してきた人間の中で、彼史上最も天才だった人。教える必要もないくらい、全てを持っていた人。
まだまだ若い14歳の青年の両肩に、九龍院家500人の命と日本に住むすべての人間の未来を背負っている人。
彼、こそ。
────そう、や……さま。
ああ、嗚呼。視界が明るい。
明るい部屋で目を閉じている時のように、瞼の向こうに光を感じる。
「嗚呼、やっと、だね」
耳元で、壮也の声がした。
少し疲れたようなその声に、動かない体に鞭打って、目だけをゆっくり開く。それしか出来なかった、とも言うのだけれど。
「──貴方が、1人目です。……おかえりなさい」
「…………ぁ」
「やっと、おひとり。貴方を連れて還って、これました」
疲れ気味の彼の声。
「やっと、一歩を踏み出せた。一歩を踏み出せることが、貴方によって、証明された」
「……そ……、……ぁ」
「はい、そうです。壮也です」
仕事着の和服に身を包み、顔に〈獅子〉と筆で書かれた和紙のお面を被った壮也が、その顔をこちらに向ける。
「おかえりなさい。無事に連れて還ってくることができて、本当に良かった。【あちら】にいる彼らにとっても、貴方は希望でしょうね。もちろん、俺たちにとっても」
帰ってきた。
還ってきた。
もう無理だと諦めた。
背後から体を日本刀で貫かれた、あの瞬間に。
青い花園を抜け、狂気と永遠の皇国、偽物の楽園で目を覚ました、目に映るもの全てを拒絶したいほどの恐怖と絶望感。
そんな、日々から。
帰ってきた。
還ってきた。
武器を手にし、すべての人々のために命をかけてきた血まみれの日々に。
────帰って、こられたのか。
自分は死んだはずだ。
民のために、結界の礎として、その身を捧げたはずだ。
けれど、自分の意識は今、ここにある。
視線を壮也に向ければ、口にせずとも壮也は疑問に答える。
「死んだ人間の魂は、一瞬、宙を漂う。肉体が死のうとも魂が死んでいなければ、九龍院の人間なら容易に生き返らせられる。──だから、貴方の魂に、手を伸ばしたんですよ。『さぁ、帰りましょう。どうか、この手を取ってください』と」
嗚呼、あの声は、本当に貴方の声だったのか。
「貴方は手を伸ばしてくれた。手を取ってくれた。だから掬い上げられた。貴方が生きることを諦めないでくれて、本当に良かった」
「……っ」
「おかえりなさい。みんなで、貴方たちみんなの帰りを待っていました。小さな一歩ですが、確かに踏み出した一歩です」
掬い出したのは、まだ彼1人。
全員を救うために、壮也はまた身を犠牲にするのだろう。
けれど、救える命が目の前にあるのならば、自分たちの命は顧みなずに助けの手を伸ばす。
それもまた、九龍院。
────嗚呼、本当に、還ってきた。
「……壮也、大丈夫?」
「嗚呼、美風。ご苦労様」
「ご苦労様は貴方の方でしょう?どう?師匠のよう、す……は……、……!?」
「ついさっきね、目が覚めたんd……」
「い、医者先生!!!医者先生呼ばないと!!!なんで呼ばないのよ壮也のバカぁ!!!!!」
「今頼もうとしたんだってば……」
バタバタバタバタと大きな足音を立てて、美風が走っていく。医者先生ということは、九龍院の一員で医者の龍平を呼びに行ったんだろう。
この賑やかさも、また懐かしい。
「相変わらずでしょう?美風も。そこが可愛いんですけどね」
────急に惚気られた。
「仕方ないじゃないですか。お歴々に無理を通してでも婚約者にしたくらいですもん。惚れてなきゃここまでしませんよ、俺も」
────ナチュラルに心読まれてるなぁ……
「まぁ、全部想像で返事をしているわけですが」
────!?!?!?!?!?
「未来は見えるけど心は読めませんよ、俺」
────嘘をつけ、完全に会話になっていたじゃないか。
「貴方ならなんて返すかなぁと想像して、言い終わったであろうタイミングで言っているだけですって。読めてないですよ」
────…………なんかもう怖い。
「おや、そろそろ医者先生も来るみたいですね。それじゃあ、俺はこれで。また【あちら】に意識を飛ばさないといけないので」
そう言って面を持ち上げた壮也は、誰もが振り返るようなその美貌で微笑みかける。
「改めて、おかえりなさい」
ある日を境に色が変わってしまった、日本では珍しい銀の髪と黒い瞳で美しく笑いかける。
「……おかえりなさい、浩二師匠」
次回の更新こそ、玲華ちゃんと暁人くんサイドの神様の怒りをどうやって鎮めるのか!?みたいな話を書きます。ちゃんとします。
次回更新は2週間後の6月4日の12時です。
怒涛の勢いで発売される、好きだった乙女ゲームの続編を買うためにもお仕事を頑張りつつ、こちらの小説も完結まで走り切りたいと思います。
目指せ年内完結!(言うだけタダ)
どうぞよろしくお願いいたします!!!




