119 終幕へのソナータ - 3
そこは、とても静謐で。
「ここが……」
寂寥感とでもいうべきか。
整えられた洞窟の中のような、青い炎の灯り以外に何も無い、ただただ仄暗いその場所。
そこに。
「────」
キラキラと輝く蒼銀の鱗をもつ、巨大なドラゴンが眠っていた。
猫が丸くなって眠るように、翼を折りたたみ、大きな顔をこちらに向けて、一体のドラゴンが静かに眠っている。
「彼が──?」
「ええ、彼こそがシルヴィオ。この“世界”を創り上げた世界創生の獣にして、玲華、貴女をこの世界に転生させた【裁定者】オルディネの正体です」
起き上がれば、見上げるほどの背丈がありそうなドラゴンを、全員がじっと見つめている。
「ここまで移動させるのも一苦労でしたよ。イル・バガットを脅し……失礼、彼にお願いして、この場所に移動させたんです。本来彼がいたのは、先ほど降りてきた螺旋階段の真下でしたから」
螺旋階段があったのは教会の真下で、穴は真っ直ぐ下に向かって続いており、かなり広々とした階段だった。目の前のドラゴンが上空から落下した時にできた縦穴だと言われれば、確かに納得できる。
「階段を整備させるついでに、穴を横に伸ばしてもらったんです。身体は丁寧に安置させていただきましたけれど、流石に教会の内部ほど整備する訳にもいかなくて」
誰でも簡単に通す場所でも無いですし。そう言って小さくため息をついたシシィは、何かに反応して、さっと後ろを──螺旋階段を振り返る。
「──嗚呼、戻ってきましたか」
そう呟くと、意味深な笑顔を玲華に向けた。
「さ、本体のお目覚めですよ」
螺旋階段からやってきたのは、小さな、真っ白な文鳥だった。人に驚いた様子もなく、真っ直ぐにドラゴンの、人間でいう眉間の部分に止まる。
「えっ!?」
その瞬間、文鳥の体は青白い光を放って消えた。多数の光の粒になって、ドラゴンに吸収されるように消えていって──
ゆっくりと、ドラゴンの目が開く。
「おはようございます、シルヴィオ。その姿で会うのは初めてですね」
「…………」
ゆっくりと上体を起こしたドラゴンは、固まった身体をほぐすように、首を振り、翼を動かし、腕を動かし、尾を振り、立ち上がった。
【嗚呼、美沙夜。君か】
「ええ」
【文鳥の姿だと、周りの全てが大きく見えていたが。人間さえ小さく見えるな】
「それはそうでしょうね。ほら、ご覧になってくださいな。玲華と、暁人ですよ。当然ご存知でしょう?」
【嗚呼、そうか。この姿では初めまして、玲華?】
「その喋り方にその声……本当に、オルディネ……なのね」
ドラゴンの口は、どこをどうみても人間のそれとは違う。なのに、彼の口から、自分たちの言語と同じ音がする。耳に入ってくる。
【嘲笑うかい?それとも同情する?】
「何故?」
【君たちが僕を嫌っているのは知っている。当然だ。僕は君に、“人を殺せ”と言った。僕の目的のために、君に酷い行いをさせた。僕の我儘のために、君を勝手に巻き込んだ】
「それで?」
【──???】
「私は、別に怒っているわけじゃないの」
【しかし】
「こうなってしまったのは、私が弱かったから。意思や、心が、弱かったから。だからね、別にオルディネに対しては怒っていないの。だから大丈夫よ」
ゆっくりとシルヴィオが瞬きをする。
「それに、貴方たちの話を聞いたら……なんだか……そうね、上から目線な言い方になってしまうけれど、可哀想に思ってしまって。だから、いいの。貴方も辛い思いをしたのね」
【…………っ】
「だから、もういいのよ。全部終わらせましょう。私と、貴方と、ここにいるみんなで。この『当たり前に組み込まれた狂気と永遠の皇国、偽物の楽園。表面に騙された、美しいだけの理想郷』を、終わらせましょう」
今日はもう1話更新してます!




