115-2 ヴァーニア神話(裏)
あるところにごく普通の少女ヴァーニアがいました。彼女はとても心優しく、困っている人には手を差し伸べるとても優しい少女でした。
ある日、ヴァーニアは泣いている娼婦に出会いました。愛する夫がいないのだと泣く娼婦に、ヴァーニアは町中を探して駆け回り、なんとか夫を見つけ出して再会させてあげました。
ヴァーニアは彼女から指輪をもらいました。
ある時、ヴァーニアは見知らぬ老婆に出会いました。お腹が空いたと言う彼女に、ヴァーニアは買ったばかりのパンをあげました。
ヴァーニアは彼女から指輪をもらいました。
またある時、ヴァーニアはこの地域を収める領主様に会いました。この町1番のワインが飲みたいと言う彼に、美味しいワインを持っていることで有名な貴族からワインを分けてもらい、彼に差し出しました。
ヴァーニアはそのお礼にイヤリングをもらいました。
ある時、近所奥さんが、お前の家の水車が羨ましい、と言っているのを聞いたヴァーニアは自分の家の水車をそのまま奥さんに渡しました。
ヴァーニアは彼女からネックレスをもらいました。
ある時、近所のおじいさんが腰が痛くて働きに出られないと言っていました。ヴァーニアはおじいさんの代わりに一日中畑仕事を行いました。そのお礼に、ヴァーニアはおじいさんからブレスレットをもらいました。
またある時、裸足で歩く老人に出会いました。靴が無くて足が痛いと言う彼に、ヴァーニアは持っていたお金の全額を差し出して新しい靴を買うように言いました。
ヴァーニアは老人から指輪をもらいました。
ある日、怒り狂う近所のお兄さんと出会いました。足の怪我を侮辱されたと怒るお兄さんに、ヴァーニアは自分の服を使って足の怪我が隠れてしまうほど大きなズボンを作ってあげました。
ヴァーニアはお兄さんから指輪をもらいました。
ヴァーニアは、7人からもらった装飾品以外、何にもなくなってしまいました。これでは暮らしていくこともできません。食べるものもないし、水もありません。服も靴もないし、お金も全てあげてしまいました。
仕方なく、ヴァーニアは町中の捨てられたボロ布をかき集めて、なんとか服を作りました。
見窄らしい姿のヴァーニアに、町のみんなは冷たく接しました。餓鬼のように細く何日も洗われていない彼女の身体を見て、誰もが逃げていきました。
それでも、ヴァーニアは決して泣きませんでした。亡き母の教えがあったからです。
『困っている人には手を差し伸べなさい。その手はいずれ、自分をも掬い上げるのよ』
母の言葉を信じて、ヴァーニアはみんなのために働きました。
貰った装飾品を売ろうとは、一切考えませんでした。これら全てが、自分のした親切が認められた証のように思えたからです。
けれど、けれども。
どんなに誰かの為に身を粉にしても、誰もヴァーニアに目を向けてはくれませんでした。誰もヴァーニアを見ようとはしません。
ただ、ヴァーニアが耕した畑を見て『今年も豊作だ』と喜ぶばかり。身体中から血を流したヴァーニアのことは、誰も見てくれません。
彼らにとって、ヴァーニアの【親切】はいつしか【当たり前】に変わってしまったのです。
その日、ヴァーニアは初めて、少しだけ泣いてしまいました。
その後、ヴァーニアの元に、教会で働いているという神官様がやってきました。
「この世界を統べる7柱の神々が、ヴァーニア、君を新たな神に迎え入れると仰っている」
神官様は、1週間後にヴァーニアを迎えにくると言って帰って行きました。
神のお告げは、あっという間に村中に広がりました。
心優しい少女ヴァーニアが神様になる。
それを聞いた町の人たちは、こぞってヴァーニアの元を訪れてこう言いました。
「いつもありがとう」
「貴女のおかげよ」
「いつもとても助かっている」
「水をあげよう」
「薬をあげよう」
「食事をあげよう」
「服をあげよう」
「「「「「「「さぁ、新たな神様」」」」」」」
『こんなに貴女に【親切】な私たちを、もっとずっと、幸せにして!!』
「お前たち、やめろ!!」
そう言ってヴァーニアの前に立ち塞がってくれたのは、月に一度だけ町を訪れる商人の息子・シルヴィオという少年でした。
彼だけが、ヴァーニアを気に掛けてくれました。
彼だけが、ヴァーニアに手を差し伸べてくれました。
彼だけが、傷だらけのヴァーニアを手当してくれました。
彼だけが、ヴァーニアにお礼を言ってくれました。
彼だけが、ヴァーニアに謝ってくれました。
「守ってあげられなくてごめんな」
「助けてあげられなくてごめんな」
「逃がしてあげられなくてごめんな」
「俺が、子供で、ごめんな」
ヴァーニアは、彼のことだけはすきでした。
町のみんなのことも大切だけれど、彼のことだけは、すきでした。大事でした。
けれど、けれど。
ヴァーニアに首を垂れ崇め奉る町の人間にとって、ヴァーニアへの【親切】を穢らわしい目で見つめ、顔を合わせることすら許さないシルヴィオが、とても邪魔でした。
「どうする」
「どうする?」
「邪魔な子供」
「邪魔な商人の子供」
「居なければいいのに」
「居なければいいのに」
「嗚呼、とても邪魔だ」
「とっても邪魔だ」
「居なければいいのに」
「居なければいいのに」
「──嗚呼、でも」
「俺たちがこんなに邪魔に思うんだから、ヴァーニア様はもっと邪魔に感じているよなぁ?」
ヴァーニアが目を覚ますと、そこにはシルヴィオが居ました。いつものように、細く小柄なヴァーニアを抱きしめて。隣で、眠っていました。
身体中を真っ赤にして、眠っていました。
ヴァーニアの周りには、町のみんなが立っていました。立って、笑って、言いました。
「ヴァーニア様。邪魔な男は、とても【親切】な私たちが、貴女のために排除しましたよ」
「さぁ、ヴァーニア様。私たちを幸せにしてください」
「いつものように畑を耕して」
「いつものように水を汲んで」
「いつものように家畜に餌を与えて」
「いつものように町中を綺麗にして」
「いつものように──」
「「「「「「「「私たちを幸せにしてくださいな!!!!!!!」」」」」」」」
シルヴィオ。
シルヴィオ。
嗚呼、たった1人、私がすきだったひと。
シルヴィオ、ねぇ、シルヴィオ。
「──わたし」
わたし、つかれちゃった、よ。シルヴィオ。
「ヴァーニア」
ふと気がつくと、そこには神官様が立っていました。
「神官、様」
「神殿へ」
ヴァーニアは神官様の案内で、大陸で最も大きな教会の大聖堂へ向かいました。町のみんながヴァーニアが新たに身に纏った衣に縋ってきましたが、ヴァーニアは笑顔でこう告げました。
「【親切】な皆様。私が神となった暁には、皆さんを【幸せ】にすると誓います」
大聖堂に着いたヴァーニアは、祈りの間で祈りを捧げ、聖水で身を清め、7人の神様から贈られた装飾品を身に纏って、神様への階段を登りました。
今までのヴァーニアの善行と優しさを見ていた7人の神様は、彼女を新しい神様とし、この地を収めるようにおっしゃったのです。
こうしてヴァーニアは、善行と博愛の女神として人々に信じられるようになりました。
まだ絶妙にキリが悪いので、明日の同じ時間にもう1話更新します。
2月14日の12時です。バレンタインデーですね!
信じていただけない気がしますが、次の話はバレンタインデーにピッタリ(?)な(いや、バレンタインデーだからそうなったわけでは無いのですが)愛の話になりました。
愛の話です。本当です。
お時間ありましたら、よろしくお願いします!




