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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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114  激動のノットゥルノ - 7

裏口を抜けて、狭い隠し通路に入って、松明が導く道を、その炎を消しながら進んでいく。隠し通路を抜けた先はちょうど城壁を超えたところで、その先には──




「姫様っ……!」


「マリン、アラド、ベンク!」


「お待ちしていました」


「やっと来てくれましたね!待ちくたびれましたよ〜」




“こんな”レイエンフィリアにさえ、3人はいつも通りに接してくれる。それがとても嬉しくて。でも、申し訳なくて。




────こんな、こんなの。涙が、出てしまう……




「さぁ、殿下。行きましょう」




目の前には街馬車が用意されていた。現世で言う乗合バスのようなものだ。それに5人で乗り込んで、アラドが手綱を取って走った。行き先は、すでに聞いているらしい。


広場に民衆が集まっている今、大聖堂がある広場とは反対方向の山に向かうこの道には、人はおろか、猫も犬もいなかった。




────私はいつから、自分をレイエンフィリアだと思っていたのだろう。私は結局、いつだってレイエンフィリアでは無かった。いつだって玲華でしかなかった。


────本物のレイエンフィリアが居続けたならば、こんな狂った世界にはならなかったはずなのに。




いつしか馬車は止まり、玲華たちはそこで降りる。ただただ、山の始まりがそこにあった。馬車の存在を消すため、ベンクが手綱を取る。数キロ走らせて乗り捨てるそうだ。教会の場所を叩き込まれたアラドが先行して、決して緩やかではない山を登っていく。


玲華は、心ここに在らずの状態まま山を登った。無心だった、とは言わない。山に登っているなんて気づかないくらい、ずっとずっと、ひたすらに、自分を呪った。




────私が、レイエンフィリアに転生しなければ。そうすれば、この国の人たちは正しく生きられた。


────部下が名誉欲しさに他を圧倒する?それの何が悪い。言葉を飲み込んだ周囲にだって非はある。


────愛する人のために強欲に努力することの何が悪い。


────愛する人からの愛を求めて、情欲の熱に溺れることの何が悪い。


────愛する者への侮辱に、己のうちから湧き上がる激情をぶつけて何が悪い。


────生きるために肉を喰んで何が悪い。


────己の持たぬものを求めて何が悪い。


────身を守るために威嚇して何が悪い。


────全てを諦めて、身を委ねることの何が悪い。


────それらは全て、人から生まれた感情だ。七つの大罪、7柱の悪魔。人間から生まれた感情を、人間が身勝手にも悪魔に仕立て上げた。




「──ィリア」




────それら全てを把握しながら目を閉じて、世界の歯車があげる悲鳴に耳を塞いで、ただ、レイエンフィリアが生き続けていれば。




「──ンフィリア」




────私が転生しなければ。私が死ななければ。……九龍院家なんて、存在しなければ。




「レイエンフィリア!!」


「……っ⁉︎」




視界が景色を明瞭に捉えた時には、目の前に大きな大きな教会があった。真っ白な外壁には蔦が這い、ガラスは所々が割れてしまってはいるが、壁や天井が崩れている様子はなく、風雨は容易に防げそうではある。




「大丈夫ですか?レイエンフィリア」


「へい、き……」


「……そうには見えませんが?」




平気じゃないのは自分が1番よくわかっていた。視線が痛くて、アラドに向く。




「……ベンクは」


「間も無く来ます。アイツの気配が近づいていますから」


「待ってから入るの?」


「はい。そのつもりです。マリン、平気か?」


「ええ、ヒールじゃ無くてよかったわ」


「ヒールだったらおぶってたよ」


「……じ、ぶんで登るわ」


「させるか、そんなこと」




赤くなったマリンが可愛い。

玲華について来てくれた3人も、レイエンフィリアという人間がどんどんおかしくなっていくことには気付いていただろうに。それでも、ここまで来てくれた。




「……ごめんなさい、巻き込んでしまって。でもありがとう。一緒で、安心するわ」


「……今は聞かなかったことにしておきます。ベンクと合流したら、聞かせてください」


「…………ええ、そうね」




風が吹く。

緑の匂いが駆け抜ける。


目の前に聳え立つのは、真っ白な外壁に蔦が張っている巨大な教会。陽に照らされた外壁は今も眩しく、けれど神々しさを保っていた。


重い木の扉が、重厚な音を立てて開く。




「ようこそ、お客人。中へどうぞ」




そう言った白い女性に、暁人は躊躇いなく告げた。




「悪いが、もう1人と合流してからで頼む」




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




「レイエンフィリア殿下、キリルさんにマリンさん、アラドさんとベンクさん……ですね。ええ、覚えました」




真っ白な髪と金色の瞳でレイエンフィリアを見つめた聖女──シシィは優雅に紅茶を口に含んだ。


真っ白な髪、シミひとつないきめ細やかな肌、ふわりとした真っ白な衣装。一際目を引く、アンバーのように煌めく美しい瞳。

そして品のある立ち居振舞いと洗練された所作。


その全てが、神秘的。その一言に尽きるものだった。




「さて、語りましょうか。この世界の成り立ちを」




巨大なステンドグラスをバックに、シシィは微笑んだ。光が差すステンドグラスを背負ってもなお、彼女が霞むことはない。




「ねぇ、皆さん。気になったことはないですか?我らが神とは、誰なのか」


「「「……???」」」




マリン、アラド、ベンクは首を傾げた。

なぜそんなことを考える?だって、神は神なのに。主神ヴァーニアは神である。ヴァーニアはヴァーニアである。

ただ、それだけ。

疑うべきところなんて──




「『疑うべきところはどこにもない』。本当にそう思いますか?ねぇ、レイエンフィリア殿下?」


「…………」


「ふふ、だから私がいるのですよ」




楽しそうに嗤う。

嗤う、嗤う。

とっても可笑しそうに。愉快そうに。

無知な子羊に知恵をもたらすように。




「ヴァーニアは老人に化けた7人の神様を助け、対価としてそれぞれから宝石を貰いました。ヴァーニアはその善行と、宝石が本物の神具であると認められて神様になりました。これが一般的に広まっているヴァーニア神話です」




3人が頷く。




「……じゃあ、ヴァーニアを神と認めた7人の神はどこに行ったんでしょう?ヴァーニアはどこに居たんでしょう?なぜ、」




シシィがステンドグラスを仰ぎ見る。

その動作に合わせて、全員が光り輝くステンドグラスを見上げた。




「不思議な言い伝えが、民衆の間で広まっているのでしょう?」




そこにあるのは、5枚のステンドグラス。右端、左端、右から2番目、左から2番目、中央の順に物語となっている。


大まかな内容はこうだ。


右端は『“魔女”が世界を黒く染める』

左端で『蒼銀のドラゴンが現れる』

右から2番目は『ドラゴンは黒く染まった大地を元の姿に戻して眠りにつく』

左から2番目では『7人の人間が現れ、新たな社会を作った』

中央で『そうして世界は再び平穏を取り戻した』




「「……!」」


「察しがいいですね、レイエンフィリア殿下、キリルさん。そうです。共通してますよね?7人」




ヴァーニアの前に現れた7人の神。

言い伝えに突然出てくる7人の人間。




「それと、貴方たちの身のうちに宿る【それ】も、そういえば同じ数ですね」




【悪魔】。

負の感情が集まり、形を成し、人に害をもたらすと言われるもの。大罪の悪魔。7柱の悪魔。




「ど、う、いう、こと……なの……?」




シシィは楽しそうに微笑んだ。




「そのための私です。正しき歴史の伝導者。本来なら無かったはずの世界に手を伸ばした、神に最も近いとされた九龍院家のはぐれ者」


「……っ⁉︎」


「ふふっ、今更お気付きですか暁人様?ええ、そうです。お久しぶりですお二人とも。この姿では初めまして。シシィとしてこの世界で聖女を務めております、九龍院美沙夜です」




そうだ、覚えている。

人間でありながら、いつも他人を見て笑っていた。面白いのではない。例えるなら、研究対象が予想外の発展をするような、それを見守っているような。


面白いというより、興味深い・好奇心をくすぐられると言ったような。


神と同じ目線で言葉を交わせる、おそらく世界でも唯一の人間。対等に言葉を交わし、談笑し、世界の命運さえ変えかねない。そんな人間。


人を小馬鹿にしているように見られがちだが、実際にはそうではない。ただただ、己を含めた人間という生き物を実験動物としか見ていないだけ。おもちゃ箱の中の人形たちを見ているだけ。


見ている時間軸がそもそも違う人間なのだ、美沙夜という人間は。


だから壮也でさえ彼女とは一線を引いていた。


1秒後の未来、その選択肢の先の未来、全ての事象、ありえたはずの未来、存在したかもしれない世界。それら全てを見果てる眼を持った壮也には、彼女という人間、それそのものが狂気だった。

1個あった選択肢は、彼女が1人、ただそこにいるだけで万になる。『八百万の神どれに語りかけるか?』その全ての未来を見果てなければならない壮也の脳は、彼女という存在を無意識的に排除した。そうするしか無かった。

だから壮也の周囲の人間は、彼女を物理的に排除することにした。そうするしか、無かった。


彼女は、人間の世に居てはならない人間だった。彼女が居てしまっては、それこそ地球一個なぞ簡単に消し飛ぶ。


だから、大事に大事にしまいこんだ。


大切に封をして、消えないように箱で覆って。

神さえ干渉できないくらい、丁寧に丁寧に。


世界にとっての脅威は、壮也1人でさえ手に負えないのだ。そこに、神と対等な人間なんて現れたら──世界の均衡なんて、あったものじゃない。


なのに。




「さぁ、語りましょう。紡ぎましょう。この壊れた果てた世界を」




目の前には、美沙夜がいる。




「表面上の平和と美で彩られた、残酷なまでに朽ち果て荒廃したこの世界を」




閉じ込めて、封じ込めて、大事に大事に、生かしも殺しもしなかったはずの、世界が生み出した人間の形をした生き物が。




「これこそまさに創世神話。ヴァーニアという神様の誕生譚」




聖女の生皮を被った破壊神が、そこで。




「私の手によって、私の声によって、私の言葉によって歪んだ、7人の神が遊んでいた遊戯盤の物語を」




天使のような顔で、世界の破滅を語り出した。

今回は長くなりました。

ここで2週間後まで伸ばしてしまうとキリが悪い気がしたので、明日の同じ時間に、もう1話更新します。


2月13日の12時です。

どうぞよろしくお願いいたします!

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