8 企画
楽しくて嬉しくて、色々いじり倒して、この製作ソフトの特性も大体つかめた。整理するとノベル、ADVを作るのに特化したソフトである事。人物や背景、音楽も簡単に使える事。分岐や変数も存在するが、これは今の自分には使いこなせないので一本道のノベルなら作れるという事。同様にムービーも入れられるらしいがこれも自分にはよく分からない。そして自分が持っているフリー版にはある程度の制限がかかっている事。それは登録できる絵や音楽の数だ。だがこれは背景が十数枚、キャラ絵が十枚、音楽が十曲までというくらいだ。それだけ使えればフリーゲームなら充分だ。長編ノベルはよほどの腕がないと中だるみして飽きやすい。この制限は自分には全く影響がないという事だ。
そうと分かれば早速ゲームデザイン開始だ。幸い用意していたプロットはいくつもある。今すぐテキスト入力に取り掛かりたいがそれはまだ時期尚早というもの。きっちりグランドデザインを描いて全体像を掴みつつ作業に入るべし、などともっともらしい事を言いながら、自分はその面倒くさい手順を楽しんでいるのだ。噂に聞いた、エロゲーメーカーの踊る製作会議を一人で再現したいだけなのだ。
一本道ノベルならやはりギャルゲー。これが鉄板だろう。しかし! フリーゲームにはハイレベルなギャルゲーがすでに何本も存在している。なかには商品化してもおかしくない良作、秀作がひしめいている。そんななかに我が社がノコノコ新規参入するのが果たして正しい選択といえるのだろうか? あえて言おう! 否であると!
社長の自分が銀河万丈の声で拳を振り上げ全否定。ならば次に人気のジャンル、ホラーならどう?
確かにホラーなら一本道ノベルとの相性もいいでしょう。それは認めます。でもよくお考え下さい。現在我が社に在籍するシナリオライターおよび原画家に、それを作れる技量があると本気でお考えですか? 私には丸太に乗って太平洋横断に乗り出す愚行としか思えません。
女性専務の自分が眼鏡の位置を直しつつ小山茉美の声ですげなく却下。
その後も会議は回る回る。喧々諤々の議論を行い,意見の調整、すり合わせ等々の末、我が社のデビュー作は最も製作が容易であろうバカゲーに落ち着いた。少々滑っても作画崩壊起こしても、ま、バカゲーじゃしょうがねえかぁ~。と、大目に見てもらえるというプランナーの自分の正論に皆が意見できなかったのだ。というか、会議を開くまでもなく規定路線だったんだけどね。もしかして自分はプランナーに向いてるのかな? などと思いつつ脳内会議を終わらせ早速製作に取り掛かる。量販店から帰ったのは四時頃だったが、すでに七時を回っていた。
いつも小説に使うテキストファイルを開いてシナリオの大筋を書き込んでゆく。このあたりは小説執筆で培ったノウハウがあるのでお手のものだ。ストーリーも大体頭の中でできてる。後はこの原型を細かく削りだしていけばよい。
雛形が完成すれば後はシナリオだ。キャラのセリフや場面転換を挿入して全体の話を整える。途中、つい悪ノリしてしまい、有名作品のパロディやオマージュを随所に盛り込み、一人ニヤニヤしてしまう。パロネタ投稿者の昔とった杵柄である。
トイレ休憩や食事を挟みながらシナリオもほぼ完成。夜の十一時を回っていた。
SFの世界観でありながらアナログなギャグをちりばめ、カタルシス溢れるラスト。そして現代の社会問題も風刺した野心作だ。これを四時間ちょっとで書き上げるのだから我ながら恐ろしい。やはり自分はシナリオライターを目指すべきなのかな? などと言ってる場合ではない。明日から仕事だ。今すぐソフトを起動してテキスト入力を始めたいがここは我慢だ。今からそんなことやってたら確実に深夜になる。明日の仕事に差し支える。お楽しみは後にとっておくものさと自分に言い聞かせ、遅い入浴を済ませて床についた。




