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7 始動

 重ね重ね私事で非常に申し訳ないのではあるが、実は今般、マイホームの購入に踏み切った。あまりにもタイミングがよすぎるので眉に唾でも付けられそうではあるのだが、事実なのだから仕方がない。とはいえ、そんな大それた事でもなく、たまたま運よく縁があり、国産普通乗用車程度の価格で買える中古物件にめぐり合えたというだけの話である。折りよく貯金もあったし、いま住んでるアパートも環境があまりよろしくない。ならば思い切って買っちゃおうか、と、なったのだ。途中で他に買いたいという人が現れれば遠慮なくそちらに譲る程度の購入意欲ではあったが、幸か不幸かそれもなく、話はとんとん拍子に進んでいった。ただし、デメリットもないではない。まず、ただでさえ遠い職場が更に遠くなる。今までより十分早い出勤は余儀なくされるであろう。次に近くにコンビニも病院もない。今はさして困ることはないが、後々高齢者となったときが些か不安である。以前書いた小説が自分の運命を暗示しているようで少々怖い。メリットは近くに山と海があり、人もほとんど住んでおらず静かな事くらいか。ただし、そのぶん道はめちゃめちゃ狭いぞ。これがよかったか悪かったかは実際に引っ越してみなければ分からないだろう。

 いくら話が進んだとはいえ、そこはマイホーム様の購入である。一朝一夕にはさすがにいかない。不動産屋さんと何度もミーティングを重ね、司法書士さんに渡りをつけてもらう。その間、役場やその他諸々、転居の手続きのために足しげく通わなければならない。仕事をしつつ、実に面倒な作業ではある。それでも戸建てのマイホームが手に入るのだから我慢である。

 さりとてこちらもいきおい、行動に出られるタイプでは決してなく、むしろ慎重居士を自認している。おまけに貧乏なのである。なんでもあちらの言いなりになって契約書に素直にサインできるほどの胆力はない。猜疑心の強い自分は建物購入の際のテキストを図書館から借りてきたり、役場にお得な制度はないか聞きに行ったりも一応、した。が、残念な事に当地は移住者や空き家活用に対する意識はとみに低いと見え、都合のいい補助らしきものは見当たらなかった。

 それでもなお悪あがきをすべく休日、私用のついでにネットで調べることにした。実はこの頃、ネットカフェに行かなくてもネットができる裏技を会得していた。

 それは電気量販店のスマホコーナーで試用できるスマホを使って検索するという、我ながらセコい技だ。だがガラケーしかもっていない自分にはありがたいサービスである。店員に声をかけられても、自分の携帯を黄門様の印籠よろしくかざせば店員は、ははーと土下座……なんかもちろんしないが、とりあえず言い訳は立つ。

 私用を済ませ量販店にいざ、突撃。慣れないスマホのスワイプに少々戸惑いながらも目的の案件を探す。五分も経たずに店員さんが声をかけてきた。

「スマホの購入をお考えでしょうか?」

「ええ、まあ。自分、ガラケーしか持ってないんで」

 とりあえず愛想笑いをしつつさりげなく画面を閉じる。

「そうですか。丁度いま、○○という機種が大変お得になってますよ」

「へえー。結構いいっスねえ。ちなみに契約するとしたら、今使ってる携帯の契約とかはどうすればいいんスか?」

 店員さんの、さっさとスマホ買って乗り遅れた時代の波に周回遅れで駆け込み乗車しろやオーラをかわしつつ取り留めのない会話でその場をしのぐ。あくまで自分の勝手な妄想だが。

 それから無難かつ不毛な会話を続けること約三分、店員さんの、ではごゆっくりお試し下さいという許可を得て、合法的に無料ネットサーフィン権をゲット。心ゆくまで質問板を検索させてもらおう。が、こちらも三分ほど調べて有用な裏技など存在しない事実を思い知らされる。やはりテレビで見たような、永住すれば土地建物がタダで手に入るといった、夢のようなプランなどそうそう転がっているものではないらしい。

 調べ物が終わると急に手持ち無沙汰になってしまった。さっきの店員もよそのほうへ行ってこちらには一瞥もくれない。ついでに自分が投稿しているサイトを覗いてみる。特にこれといった動きがないのは分かっちゃいるが。しかも作業はおろかログインもできないのだから特にやる事もない。再び路頭に迷い、性懲りもなくフリーゲームで検索をかけてみた。何かオススメの、自分のまだ知らないゲームはあるかな? などと思ったわけだ。

 すると、『ゲーム作りたいんですが、素人でも作れるソフトってありますか?』だって。

 まさについ最近の自分が、いや、今でもだが是非聞きたいド直球な質問ではないか。自分と質問者が完全にシンクロし、震える指で画面をスワイプ。すると……

『○○というソフトを使えば誰でも作れると思いますよ。ゲーム製作、がんばって下さい』

 なぁにぃ~? あるだってぇ? しかもその名前はなんか見覚えがあるぞ。カタカナでやたら長い名前だが、落としたソフトの中にあった気がする。なんか名前がとんがってて上、中級者向けと思ったので開かなかったのだ。言い訳させてもらえばメモリの節約という理由から何でもかんでもインストールするのも憚られた。なにしろ自分はろくすっぽ使えもしないやたら高機能なドローツールなどを、いつか使えるかもとか思ってメモリの一部を占有させているのだ。しかもなかなか物を捨てられない性格から、昔のイラストやらフリーゲームを置きっぱなしにしている。日々メモリの残量を侵食する青色のバーにビビりつつ、だらだらとデータを溜め込んでいるのである。使える可能性の低いゲーム製作ソフトを手当たり次第にインストールなどできなかったのだ。

 それを知った自分はすぐさま量販店を出、急いで帰宅。翌日から仕事だ。少しでも時間が惜しい。家に帰ると大急ぎでノーパソを開く。画面に出たのは昨日まで書いてたバカ小説。えいくそお前は邪魔だとばかりにファイルを閉じる。

 USBメモリをセットして未解凍のソフトを探す。あったあった、これだ、とUSBの中でファイルを展開。メモリの残量は少ないが構うものか。予備のUSBにコピればよい。

 若干長い立ち上げに焦らされつつ起動画面を恐る恐るクリック。シンプルすぎるインターフェースに戸惑いながらも適当にテキストを打ち込む。そしてプレビュー。

 おおっ! 出た! 学園の教室の画面に、今しがた自分の打ったテキストが出力されている! キャラ絵はないが本物のゲーム画面みたいだ。いや、これは本物のゲームが作れるツールなのだ。しかも自分にもできる! 大げさとかバカとか思われても構わない。このときの自分は、本当に目頭が熱くなったのである。ディスプレイがぼやけて見えたのである。誰もいない居間で、自分は愛機のノーパソを膝に乗せたまま、ガッツポーズをとり、歓喜の声を上げた。

 大声で叫びたかった。ゲームが作りたくても作れなくて、諦めている人たちに。昨日までの自分に。「安心して下さい! 作れますよ!」と。

挿絵(By みてみん)

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