表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/35

第34話 芽生えた想い

第34話 芽生えた想い


 事件が解決してから、数日が経った。


 王宮では調査が続いていたが、エリアスの生活には少しずついつもの穏やかさが戻っていた。


 工房には、今日も魔導具を作る音が響いている。


「この部分は、もう少し魔力の流れを緩やかにすると良さそうですね。」


 エリアスが設計図へ指を置く。


「では、こちらの部品を変えてみます。」


 マリカが部品を探し、手渡す。


 以前より自然に息が合う。


 言葉にしなくても、相手が何を求めているのかわかるようになっていた。


◇ ◇ ◇


 午後。


 休憩時間に庭でお茶を飲んでいると、エリアスがふと呟いた。


「不思議ですね。」


「何がですか?」


「少し前まで、この屋敷には私一人しかいませんでした。」


 マリカは静かに耳を傾ける。


「仕事も研究も、一人でできると思っていました。」


 エリアスは空を見上げる。


「誰かと暮らすことも、誰かに頼ることも必要ないと。」


 その言葉に、マリカは少し驚いた。


 いつも優しく、誰かを助けるエリアス。


 そんな彼が、そんなふうに思っていたなんて知らなかった。


「でも……。」


 エリアスはマリカを見る。


「今は、一人でいる頃よりずっと穏やかな気持ちでいられます。」


 胸の奥が温かくなる。


「マリカがいてくれるからです。」


◇ ◇ ◇


 その夜。


 マリカは自室の窓辺で、静かに夜空を眺めていた。


 こちらの世界へ来たばかりの頃。


 何も持っていなかった。


 頼れる人もいなかった。


 大切にしたものは、いつも奪われてきた。


 だから、期待することを諦めていた。


 どうせ失うなら。


 最初から大切にしなければいい。


 そう思っていた。


 けれど。


 この世界で出会った人は違った。


 エリアスは奪わなかった。


 無理に何かを求めなかった。


 ただ、安心できる場所をくれた。


「……。」


 胸へ手を当てる。


 最近、エリアスのことを考える時間が増えた。


 笑っていると嬉しい。


 疲れていると心配になる。


 離れていると、無事か気になる。


 その気持ちの名前を、ようやく理解する。


「……好き、なのかな。」


 小さな声が夜へ溶ける。


 まだ少し照れくさい。


 けれど、もう認めてもいいと思った。


 大切な人を失う怖さより。


 大切な人と一緒にいる幸せの方が、大きくなっていた。


◇ ◇ ◇


 同じ頃。


 エリアスもまた、自室で一枚の設計図を眺めていた。


 そこには新しい魔導具の案が描かれている。


 小さな守護石。


 持つ者の魔力を安定させ、危険を知らせるための魔導具。


 その中心には、青い魔石が使われていた。


 先日、マリカへ贈ったものと同じ色。


「……。」


 気付けば、彼女のことを考えている。


 初めて会った時。


 不安そうにしていた姿。


 少しずつ笑顔を見せてくれるようになったこと。


 自分を頼ってくれること。


 そして。


 危険な時、自分を守ろうとしてくれたこと。


「守りたい。」


 自然と言葉が漏れる。


 それは、責任感だけではなかった。


 彼女が幸せでいてほしい。


 彼女の笑顔を、これからも近くで見ていたい。


 その願いに、もう名前をつけられる。


「……大切にしたい人、ですね。」


 エリアスは小さく微笑んだ。


◇ ◇ ◇


 二人の想いは、まだ同じ言葉にはなっていない。


 けれど。


 互いを思う気持ちは、もう確かなものになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ