第34話 芽生えた想い
第34話 芽生えた想い
事件が解決してから、数日が経った。
王宮では調査が続いていたが、エリアスの生活には少しずついつもの穏やかさが戻っていた。
工房には、今日も魔導具を作る音が響いている。
「この部分は、もう少し魔力の流れを緩やかにすると良さそうですね。」
エリアスが設計図へ指を置く。
「では、こちらの部品を変えてみます。」
マリカが部品を探し、手渡す。
以前より自然に息が合う。
言葉にしなくても、相手が何を求めているのかわかるようになっていた。
◇ ◇ ◇
午後。
休憩時間に庭でお茶を飲んでいると、エリアスがふと呟いた。
「不思議ですね。」
「何がですか?」
「少し前まで、この屋敷には私一人しかいませんでした。」
マリカは静かに耳を傾ける。
「仕事も研究も、一人でできると思っていました。」
エリアスは空を見上げる。
「誰かと暮らすことも、誰かに頼ることも必要ないと。」
その言葉に、マリカは少し驚いた。
いつも優しく、誰かを助けるエリアス。
そんな彼が、そんなふうに思っていたなんて知らなかった。
「でも……。」
エリアスはマリカを見る。
「今は、一人でいる頃よりずっと穏やかな気持ちでいられます。」
胸の奥が温かくなる。
「マリカがいてくれるからです。」
◇ ◇ ◇
その夜。
マリカは自室の窓辺で、静かに夜空を眺めていた。
こちらの世界へ来たばかりの頃。
何も持っていなかった。
頼れる人もいなかった。
大切にしたものは、いつも奪われてきた。
だから、期待することを諦めていた。
どうせ失うなら。
最初から大切にしなければいい。
そう思っていた。
けれど。
この世界で出会った人は違った。
エリアスは奪わなかった。
無理に何かを求めなかった。
ただ、安心できる場所をくれた。
「……。」
胸へ手を当てる。
最近、エリアスのことを考える時間が増えた。
笑っていると嬉しい。
疲れていると心配になる。
離れていると、無事か気になる。
その気持ちの名前を、ようやく理解する。
「……好き、なのかな。」
小さな声が夜へ溶ける。
まだ少し照れくさい。
けれど、もう認めてもいいと思った。
大切な人を失う怖さより。
大切な人と一緒にいる幸せの方が、大きくなっていた。
◇ ◇ ◇
同じ頃。
エリアスもまた、自室で一枚の設計図を眺めていた。
そこには新しい魔導具の案が描かれている。
小さな守護石。
持つ者の魔力を安定させ、危険を知らせるための魔導具。
その中心には、青い魔石が使われていた。
先日、マリカへ贈ったものと同じ色。
「……。」
気付けば、彼女のことを考えている。
初めて会った時。
不安そうにしていた姿。
少しずつ笑顔を見せてくれるようになったこと。
自分を頼ってくれること。
そして。
危険な時、自分を守ろうとしてくれたこと。
「守りたい。」
自然と言葉が漏れる。
それは、責任感だけではなかった。
彼女が幸せでいてほしい。
彼女の笑顔を、これからも近くで見ていたい。
その願いに、もう名前をつけられる。
「……大切にしたい人、ですね。」
エリアスは小さく微笑んだ。
◇ ◇ ◇
二人の想いは、まだ同じ言葉にはなっていない。
けれど。
互いを思う気持ちは、もう確かなものになっていた。




