第31話 欲しかった力
第31話 欲しかった力
重い扉が閉ざされた地下保管庫。
エリアスはマリカを背中へかばいながら、目の前の黒い外套の人物を見据えていた。
「あなたは誰です。」
静かな問いかけ。
男は喉の奥で小さく笑う。
「名乗る必要はない。」
ゆっくりとフードを下ろす。
現れたのは四十代ほどの男だった。
鋭い目つきには、底知れない執着が宿っている。
「私は長年、この国の魔導具を研究してきた。」
男は静かに語り始める。
「だが、どれほど研究を重ねても、お前には勝てなかった。」
視線はエリアスから外れない。
「王宮直属の天才魔導具師、エリアス。」
「……。」
「私の研究は評価されず、お前だけが称賛される。」
その声には、長年積み重ねた嫉妬が滲んでいた。
◇ ◇ ◇
「だから魔導具を盗ませたんですか。」
エリアスが静かに尋ねる。
「そうだ。」
男は悪びれもせず頷く。
「少しずつ信用を失わせるつもりだった。」
王宮で起きた魔導具のすり替え事件。
あれも、この男の仕業だった。
「だが、それだけでは足りなかった。」
男は不気味に笑う。
「ある文献を見つけてしまったからな。」
その一言に、マリカの肩が震える。
「異世界人の固有スキル。」
「……!」
「《刻印》。」
男がその名を口にした瞬間、地下室の空気が凍り付いた。
◇ ◇ ◇
「守る力。」
「絆によって成長する力。」
「そして、奪われることを拒む力。」
男は恍惚とした表情で続ける。
「素晴らしい能力だ。」
その視線がゆっくりとマリカへ向く。
「異世界人。」
マリカは思わず息を呑む。
「やはり、お前だったか。」
「……。」
「エリアスを調べていて気付いた。」
男は一歩近付く。
「最近のお前は、偶然では説明できないほど危険を避けている。」
「だから、お前の近くに能力者がいると考えた。」
マリカの背中へ冷たい汗が流れる。
気付かれていた。
「その力を手に入れれば。」
男の目が狂気を帯びる。
「誰にも大切なものを奪われることはない。」
「違います。」
思わず声が出た。
男が眉をひそめる。
「この力は……。」
マリカは震えながらも男を見つめ返した。
「誰かから奪うための力じゃありません。」
「守るための力です。」
一瞬、地下室が静まり返る。
◇ ◇




