第30話 罠
第30話 罠
文献を調べてから数日。
工房には再び穏やかな日常が戻っていた。
しかし、エリアスは以前より王宮からの呼び出しが増え、屋敷を空けることも多くなっていた。
その日も朝早く、一通の書簡が届く。
「王宮からですか?」
マリカが尋ねる。
「ええ。」
封を開いたエリアスは、小さく頷いた。
「魔導具保管庫で原因不明の魔力障害が起きているそうです。確認を依頼されました。」
「今日ですか?」
「できるだけ早く来てほしい、と。」
急な依頼だった。
◇ ◇ ◇
「私も一緒に行きます。」
マリカは迷わず言った。
エリアスは少し驚いたように目を瞬かせる。
「ありがとうございます。でも、危険な仕事ではありませんよ。」
「……それでも、一緒にいたいんです。」
その言葉に、エリアスは少しだけ考えたあと、穏やかに笑った。
「では、一緒に行きましょう。」
◇ ◇ ◇
二人は王宮へ到着し、案内役の騎士に連れられて保管庫へ向かった。
地下へ続く石造りの通路。
人通りは少なく、ひんやりとした空気が漂っている。
「この先です。」
騎士が重い扉を開けた。
中には大小さまざまな魔導具が整然と並んでいた。
エリアスは一つずつ状態を確認し始める。
「……妙ですね。」
「何かわかったんですか?」
「魔力障害の形跡がありません。」
その時だった。
ガタンッ!
突然、背後で重い扉が閉まる。
「!」
二人が振り返る。
外から鍵が掛けられる音が響いた。
「誰です!」
エリアスが扉へ駆け寄る。
しかし返事はない。
静まり返った地下室に、足音だけが響く。
◇ ◇ ◇
その瞬間。
マリカの左手の腕輪が、今までで最も強く輝いた。
頭の中へ文字が浮かび上がる。
『警告』
『刻印対象が危険です』
続いて、新たな表示が現れる。
『奪取行動を確認』
マリカは息を呑んだ。
ついに。
《刻印》が文献にあった「奪おうとする者」を感知した。
次の瞬間、部屋の奥から黒い外套の人物がゆっくりと姿を現す。
「ようやく会えたな。」
低い声が地下室に響く。
フードの奥に隠れた表情は見えない。
しかし、その視線は真っ直ぐエリアスへ向けられていた。
エリアスはマリカをかばうように一歩前へ出る。
「私の後ろに。」
静かな声だった。
けれど、その声には迷いがない。
マリカは小さく頷きながら、胸の前で手を握りしめる。
腕輪の光は、まだ消えていなかった。




