第27話 狙われた魔導具
第27話 狙われた魔導具
数日後。
エリアスは完成した魔導具を王宮へ納品するため、朝から工房で最終確認をしていた。
「これで最後ですね。」
マリカが部品の数を確認する。
「ええ。ありがとうございます。」
エリアスは完成した魔導具を専用の木箱へ丁寧に収めた。
王宮へ納める大切な品だ。
傷一つ付けるわけにはいかない。
「今日は一緒に来ますか?」
エリアスが尋ねる。
マリカは少し考えたあと、首を横に振った。
「今日は屋敷で留守番をしています。」
「わかりました。」
穏やかに微笑み、エリアスは王宮へ向かった。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
屋敷で洗濯物を取り込んでいたマリカは、突然腕輪が熱くなるのを感じた。
「……!」
今までで一番強い熱だった。
頭の中へ文字が浮かび上がる。
『刻印対象に対する悪意を感知』
続いて、新たな表示が現れる。
『刻印対象の所有物が奪われる危険があります』
「所有物……?」
思わず息を呑む。
次の瞬間、景色が流れ込んできた。
王宮の廊下。
納品された木箱。
その箱へ近付く黒い手袋の人物。
周囲を警戒しながら、木箱を別の箱とすり替えようとしている。
「駄目……!」
映像はそこで途切れた。
◇ ◇ ◇
マリカは胸を押さえた。
《刻印》が知らせている。
エリアスの大切な魔導具が奪われようとしている。
けれど、自分は王宮にはいない。
助けに行くこともできない。
どうすればいいのかわからず、その場で立ち尽くしてしまう。
「お願い……。」
祈ることしかできなかった。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
王宮では、納品を終えたエリアスが担当官と確認をしていた。
「こちらで間違いありません。」
担当官が木箱へ手を伸ばした、その時。
近くを巡回していた騎士が、一人の男を呼び止めた。
「待て。」
男は驚いたように足を止める。
「その箱はどこへ運ぶつもりだ。」
「わ、私は命じられて……。」
騎士が箱を開けると、中には全く別の魔導具が入っていた。
担当官の表情が変わる。
「本物はどこだ!」
騒ぎを聞きつけたエリアスも駆け寄る。
幸い、本物の木箱はすぐ近くの保管室にあり、無事だった。
誰かが途中ですり替えようとしていたらしい。
男はその場で騎士たちに取り押さえられた。
◇ ◇ ◇
夕方。
屋敷へ戻ったエリアスは、いつもより少し疲れた様子だった。
「おかえりなさい。」
マリカが迎える。
「ただいま戻りました。」
荷物を置きながら、エリアスは苦笑した。
「今日は少し騒ぎがありまして。」
その言葉に、マリカの胸がどきりとする。
「納品した魔導具をすり替えようとした者がいたそうです。」
「……!」
やっぱり。
《刻印》が見せた光景は、本当に起きたことだった。
「ですが、騎士の方が気付いてくださって、大事には至りませんでした。」
「そう……だったんですね。」
安心したように息をつく。
エリアスは不思議そうに首を傾げた。
「まるで、知っていたような反応ですね。」
「えっ?」
慌てて笑顔を作る。
「い、いえ……無事でよかったと思って。」
「ええ。」
エリアスは優しく微笑んだ。
「心配をかけてしまいましたね。」
その笑顔を見ながら、マリカは心の中でそっと腕輪へ触れる。
(《刻印》は、本当にエリアスさんを守ろうとしている。)
その確信は、もう揺らぐことはなかった。




