第26話 守りたい人
第26話 守りたい人
黒い影の姿を見た翌朝。
マリカはいつもより早く目を覚ました。
窓を開けると、朝露に濡れた庭が静かに輝いている。
昨夜は何度も外を気にしてしまい、あまり眠れなかった。
(やっぱり、気のせいだったのかな……。)
そう思おうとしても、《刻印》が見せた光景が頭から離れない。
◇ ◇ ◇
朝食を終えたあと。
エリアスは庭で魔導具の試験を始めた。
新しく開発中の魔導具は、畑へ水をまくための補助具らしい。
「少し離れていてください。」
「はい。」
マリカが数歩下がる。
エリアスが魔力を流し込むと、魔導具は柔らかな光を放った。
次の瞬間、小さな水の粒が霧のように庭全体へ降り注ぐ。
「わあ……!」
薬草へ均等に水が行き渡り、葉が朝日にきらきらと輝いた。
「すごいです!」
マリカは思わず拍手をする。
「これなら水やりがずいぶん楽になりますね。」
「そのために作ってみました。」
エリアスは照れくさそうに笑った。
人を助けるための魔導具。
便利にするための魔導具。
エリアスが作るものには、いつも誰かへの優しさが込められていた。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
作業がひと段落すると、エリアスは庭の木陰へ腰を下ろした。
「少し休憩しましょう。」
「お茶を持ってきます。」
マリカは冷たいハーブティーを淹れ、二人で並んで座る。
穏やかな風が吹き抜ける。
しばらく静かな時間が流れた。
「マリカ。」
「はい?」
「王宮へ行った頃と比べて、よく笑うようになりましたね。」
突然そう言われ、マリカは目を丸くした。
「そう……ですか?」
「ええ。」
エリアスは優しく頷く。
「最初は、何かに怯えているような表情をすることが多かったので。」
その言葉に、マリカは少し俯いた。




