第24話 打ち明けられない秘密
第24話 打ち明けられない秘密
《刻印》が悪意を感知した翌日。
マリカは朝からどこか落ち着かなかった。
昨日見た光景が頭から離れない。
あれは本当に《刻印》の力だったのだろうか。
それとも、自分の思い込みだったのだろうか。
考えれば考えるほど、答えは見つからなかった。
◇ ◇ ◇
朝食の席。
「今日は静かですね。」
エリアスが穏やかに尋ねる。
「そうですか?」
「何か考え事でも?」
「……少しだけ。」
曖昧に笑ってごまかす。
本当のことは言えなかった。
もし勘違いだったら。
もし余計な心配をさせてしまったら。
そう思うと、口を開けなかった。
「何か困ったことがあれば、遠慮なく相談してください。」
優しい言葉が胸に染みる。
「はい。」
小さく頷いた。
◇ ◇ ◇
午前中。
工房で作業をしていると、エリアスが棚の上にある箱へ手を伸ばした。
「私が取ります!」
思わず声を上げる。
「ありがとうございます。」
脚立へ上ろうとするエリアスより先に箱を取って渡す。
「最近、よく気が付きますね。」
「そんなことないですよ。」
照れ笑いを浮かべながら答える。
本当は違う。
何かあったら守りたい。
そんな気持ちが自然と体を動かしていた。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
屋敷の前に王宮の紋章が入った馬車が止まった。
護衛騎士と侍女に付き添われ、リシェリア王女がゆっくりと馬車から降りる。
エリアスはすぐに玄関へ向かい、恭しく一礼した。
「リシェリア王女殿下。本日はようこそお越しくださいました。」
「急な訪問にもかかわらず迎えてくださり、ありがとうございます。」
王女は柔らかく微笑む。
「今日は父――国王陛下からの感謝状と、新たな魔導具開発のご依頼をお届けに参りました。」
侍女が丁寧に書簡を差し出す。
エリアスは両手で受け取り、深く頭を下げた。
「身に余る光栄です。」
◇ ◇ ◇
応接室へ案内されると、護衛騎士は扉の外で待機し、侍女も少し離れた場所に控えた。
マリカがお茶を運ぶと、王女は嬉しそうに微笑む。
「お久しぶりですね、マリカさん。」
「お久しぶりでございます。」
少し緊張しながら挨拶を返す。
王女はお茶を一口飲み、穏やかな口調で言った。
「エリアスは昔から、自分のことは後回しにしてしまう人なんです。」
「殿下。」
少し照れたようにエリアスが苦笑する。
「夢中になると食事も忘れてしまいますから。」
「……そうなんですか。」
マリカは驚いてエリアスを見る。
王女は優しく微笑んだ。
「だから、もし気付いたら少し休むよう声を掛けてあげてください。」
「はい。」
マリカは真剣に頷いた。
◇ ◇ ◇
王女を見送ったあと。
工房へ戻ると、エリアスはさっそく新しい依頼書へ目を通し始めていた。
「エリアスさん。」
「はい?」
「その前に、お茶にしませんか?」
エリアスは机の上の時計代わりの魔導具を見て、少し驚いたように笑う。
「もうそんな時間でしたか。」
「少しだけ休憩です。」
「……そうですね。」
穏やかに微笑むエリアスを見て、マリカも安心したように笑った。
《刻印》のことは、まだ話せない。
それでも、自分にできることはきっとある。
そう思いながら、マリカは温かいお茶を二人分用意するのだった。




