第22話 大切な人の印
第22話 大切な人の印
《刻印》の力に気付いてから数日。
マリカは誰にもそのことを話さずにいた。
エリアスに打ち明けようかと何度も考えた。
けれど、自分でもまだ能力のことがよくわかっていない。
不用意に話して混乱させたくなかった。
だからもう少しだけ、一人で様子を見ることに決めていた。
◇ ◇ ◇
その日の午後。
二人は工房で新しい魔導具の組み立てをしていた。
「この部品を押さえていてもらえますか?」
「はい。」
マリカが部品を支える。
エリアスが魔力を流し込むと、魔導具は淡い光を放った。
「成功ですね。」
ほっとしたように笑うエリアス。
「よかったです。」
マリカも自然と笑みを浮かべる。
最近は、こうして二人で作業することが増えていた。
少しずつ、本当に助手らしくなれている気がする。
◇ ◇ ◇
作業を終えたあと、エリアスは工房の棚から一冊の分厚い本を取り出した。
「これは魔導具師向けの基礎書です。」
「私が読んでもいいんですか?」
「もちろんです。」
そう言って本を差し出す。
「工房を手伝ってくれるなら、知識もあったほうが楽しいでしょう。」
マリカは両手で大切に受け取った。
「ありがとうございます。」
本を開くと、魔石の種類や魔力の流れについて、丁寧な挿絵付きで書かれている。
「難しそう……。」
「最初はわからなくて当然ですよ。」
エリアスは優しく笑う。
「ゆっくり覚えていけば大丈夫です。」
その言葉に、マリカの肩から力が抜けた。
◇ ◇ ◇
夕方。
書斎で本を読んでいると、ふいに頭の中へ文字が浮かんだ。
『刻印対象 1名』
『信頼度上昇』
「え……?」
思わず声が漏れる。
文字はすぐに消えてしまった。
「信頼度……?」
そんなものまでわかるのだろうか。
首を傾げながら本を閉じる。
今まで何も表示されなかった能力が、少しずつ変化している。
それだけは間違いなかった。
◇ ◇ ◇
夜。
夕食の片付けを終えたあと、二人は縁側に並んで座っていた。
夜風が心地よく吹き抜け、虫の声が静かに響いている。
「最近、本をよく読んでいますね。」
エリアスが穏やかに話しかける。
「少しでも役に立ちたくて。」
マリカは照れくさそうに笑った。
「エリアスさんが教えてくれること、全部知らないことばかりで。」
「楽しんでもらえているなら嬉しいです。」
しばらく沈黙が流れる。
気まずさはなかった。
静かな時間さえ心地いい。
ふと、マリカは左手の腕輪へ視線を落とした。
そして心の中で、小さく呟く。
(この力があるなら……。)
(これからもエリアスさんを守れますように。)
その願いに応えるように、腕輪が一瞬だけ淡く輝いた。
しかし、その光に気付いた者は誰もいなかった。




