第20話 初めての刻印
第20話 初めての刻印
隣町への買い出しから数日。
工房には、いつもの穏やかな時間が流れていた。
エリアスは新しい魔導具の設計図を描き、マリカは完成した部品を種類ごとに整理していく。
窓から吹く風が心地よい午後だった。
◇ ◇ ◇
「今日はここまでにしましょう。」
エリアスがペンを置く。
「お疲れさまでした。」
マリカも小さく頭を下げた。
その時、玄関の扉を叩く音が響く。
「失礼します!」
元気な声とともに入ってきたのは、王宮の若い騎士だった。
「エリアス様、王宮より追加の依頼書をお持ちしました。」
「ありがとうございます。」
依頼書を受け取り、内容を確認する。
「また王宮ですか?」
マリカが尋ねる。
「ええ。」
エリアスは苦笑した。
「最近は依頼が重なっていて。」
「大変ですね。」
「ありがたいことです。」
そう言って笑う姿は、少しだけ疲れて見えた。
マリカはそれが少し気になった。
◇ ◇ ◇
夕方。
依頼書を読み終えたエリアスは、そのまま工房へ戻っていく。
「今日中に設計だけ終わらせてしまいます。」
「私も何かお手伝いします。」
「ありがとうございます。」
二人で並んで作業を続ける。
静かな時間。
紙をめくる音だけが聞こえる。
ふと、マリカはエリアスの横顔を見つめた。
(忙しそう……。)
無理をしていないだろうか。
ちゃんと休めているだろうか。
そんなことばかり考えてしまう。
◇ ◇ ◇
その時だった。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
「……?」
今まで感じたことのない、不思議な感覚。
左手にはめた腕輪が淡く光る。
そして――。
マリカの視界に、一瞬だけ淡い銀色の糸のような光が浮かんだ。
その糸は、目の前にいるエリアスへと繋がっている。
「え……?」
驚いて瞬きをすると、光は消えてしまった。
「どうしました?」
エリアスが顔を上げる。
「い、いえ。」
慌てて首を振る。
「何でもありません。」
気のせいだったのだろうか。
そう思おうとした、その時。
頭の中へ、静かな声が響いた。
『刻印可能対象を確認しました。』
誰の声かわからない。




