第13話 助手の装い
第13話 助手の装い
王宮へ行くと決めた翌日。
朝食を終えると、エリアスが一枚の紙を見ながら言った。
「今日は町へ行きましょう。」
「買い出しですか?」
「それもありますが、今日は別の用事があるんです。」
穏やかに微笑むその表情からは、何を考えているのかわからない。
「私に……ですか?」
「ええ。」
その一言だけを残し、エリアスは出かける準備を始めた。
◇ ◇ ◇
町へ着くと、エリアスは迷うことなく一軒の仕立て屋へ入っていく。
店内には上品なドレスやスーツ、外套が並んでいた。
「いらっしゃいませ、エリアス様。」
店主は親しげに頭を下げる。
「注文していたものはできていますか?」
「もちろんです。」
そう言って運ばれてきた箱を見て、マリカは首を傾げた。
「……?」
店主が箱を開ける。
中には、淡いクリーム色のワンピースと、紺色の上品なケープが丁寧に畳まれていた。
「きれい……。」
思わず見とれてしまう。
派手ではない。
けれど、優しい色合いと繊細な刺繍がとても美しかった。
「助手として王宮へ入るなら、それらしい服装が必要ですから。」
エリアスが穏やかに言う。
「え……。」
「私からの贈り物です。」
その言葉に、マリカは慌てて首を横へ振った。
「だ、駄目です!」
「どうしてですか?」
「こんな立派なお洋服……私にはもったいないです。」
きっと高価なものだ。
自分が受け取っていいはずがない。
「それに、また腕輪までいただいたのに……。」
遠慮するマリカへ、エリアスは困ったように笑った。
「これは私が贈りたいだけなんです。」
「でも……。」
「助手として来てもらう以上、私が用意するのは当然ですよ。」
その言葉に、マリカは返す言葉を失う。
自分のために選んでくれた。
その事実だけで、胸が温かくなった。
◇ ◇ ◇
「試着してみましょう。」
店員に案内され、更衣室へ入る。
着替えを終え、恐る恐る姿見の前へ立つ。
「……私?」
鏡に映っていたのは、見慣れない自分だった。
優しい色合いのワンピースは肌になじみ、紺色のケープが落ち着いた印象を与えている。
髪も店員が簡単に整えてくれた。
まるで別人のようだった。
「お待たせしました。」
カーテンを開ける。
エリアスは振り向くと、一瞬だけ目を見開いた。
「……とても似合っています。」
その一言だけだった。
けれど、飾らない言葉だからこそ、本心だと伝わってくる。
マリカは照れくさそうに頬を染めた。
「ありがとうございます……。」
◇ ◇ ◇
帰り道。
大切そうに箱を抱えるマリカを見て、エリアスはふっと笑った。
「そんなに大事そうに持たなくても大丈夫ですよ。」
「だって……。」
マリカは箱をぎゅっと抱きしめる。
「こんなに素敵な服、初めてだから。」
その小さな呟きに、エリアスの足が止まる。
「初めて……ですか。」
「はい。」
マリカは少しだけ寂しそうに笑った。
「今まで、自分のために服を選んでもらったことなんて、一度もなかったので。」
その言葉に、エリアスは何も言わなかった。
何も聞かなかった。
ただ、隣を歩く歩幅をほんの少しだけ緩める。
その静かな優しさが、マリカには何より嬉しかった。
箱を抱える腕に、自然と力が入る。
この服は、初めて自分のために贈られた大切な一着。
その温もりを、マリカはいつまでも忘れないだろうと思った。




