第12話 勇気を出す理由
第12話 勇気を出す理由
翌朝。
マリカは少し早く目を覚ました。
昨夜から、何度も同じことを考えている。
王宮へ行くか。
行かないか。
答えはまだ出ていなかった。
◇ ◇ ◇
朝食の席でも、どこか上の空だった。
「眠れませんでしたか?」
エリアスが心配そうに尋ねる。
「あ、いえ……。」
慌てて首を横に振る。
「大丈夫です。」
そう答えたものの、考え事が顔に出ていたのだろう。
エリアスはそれ以上何も聞かなかった。
聞かずにいてくれる優しさが、ありがたかった。
◇ ◇ ◇
食後、二人は工房で作業を始める。
マリカは魔石を種類ごとに分けながら、小さく息をついた。
(怖い……。)
王宮なんて、自分には縁のない場所だ。
失敗したらどうしよう。
迷惑をかけたらどうしよう。
また何かを失ってしまうのではないか。
そんな考えばかりが浮かんでくる。
その時だった。
「マリカ。」
エリアスが穏やかに声をかける。
「はい?」
「無理に返事をしなくても大丈夫ですよ。」
「……。」
「王宮へ行かなくても、私は困りません。」
その言葉に、マリカは顔を上げた。
「だから、行かなければいけないとは思わないでください。」
優しい声だった。
安心させるような、穏やかな声。
きっと、マリカが責任を感じていることに気付いているのだろう。
「……ありがとうございます。」
胸の中の重たいものが、少しだけ軽くなった気がした。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
庭で洗濯物を干していると、一人の近所の女性が声をかけてきた。
「こんにちは、マリカちゃん。」
「こんにちは。」
「最近よくエリアス様のお手伝いをしているんですって?」
「はい。少しだけですが……。」
そう答えると、女性はにっこり笑った。
「エリアス様、とても助かってるって話してたわよ。」
「え……?」
思わず聞き返す。
「『一人では気付かなかったことにも気付いてくれる、大切な助手です』って。」
その言葉に、マリカは目を丸くした。
エリアスは、自分のいないところでもそんなふうに話してくれていたのだ。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
◇ ◇ ◇
夕方。
工房で作業を終えたエリアスが、道具を片付けている。
マリカはその背中を見つめ、小さく息を吸った。
「あの……。」
エリアスが振り返る。
「はい。」
「私……。」
緊張で声が震える。
それでも、しっかりと顔を上げた。
「王宮へ、一緒に行きたいです。」
一瞬の静寂。
そしてエリアスは、心から嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。」
その笑顔を見た瞬間。
勇気を出してよかった。
そう思えた。
王宮はきっと怖い場所だ。
それでも、一人ではない。
そのことだけが、今のマリカには何より心強かった。




