第11話 王宮への誘い
第11話 王宮への誘い
腕輪を贈られてから数日。
マリカは屋敷での暮らしにもすっかり慣れてきていた。
朝は掃除をし、庭の手入れをして、工房ではエリアスの手伝いをする。
設計図を整理したり、魔石を種類ごとに分けたり。
ほんの些細な仕事ばかりだったが、それでも「ありがとう」と言ってもらえることが嬉しかった。
◇ ◇ ◇
昼食を終えた頃。
玄関の扉が叩かれた。
「失礼します。」
現れたのは、以前依頼書を届けに来た王宮の使者だった。
「エリアス様、王宮より書簡をお預かりしております。」
「ありがとうございます。」
封筒を受け取り、中を確認したエリアスは、小さく頷いた。
「予定どおりですね。」
「何かあるんですか?」
マリカが尋ねると、エリアスは書簡を机へ置いた。
「来週、王宮で新型魔導具の実演会があります。」
「実演会?」
「私が開発した魔導具を、王族や騎士団、研究者の方々へ披露する場です。」
穏やかに説明する。
「私は開発責任者として出席します。」
さすが王宮直属の魔導具師。
その言葉だけで、エリアスがどれほど信頼されているのかが伝わってきた。
「それで……。」
エリアスは少しだけ表情を和らげる。
「王宮から『助手を連れてきても構わない』と言われています。」
「助手……?」
「はい。」
マリカを見つめ、優しく微笑む。
「工房を手伝ってくれているあなたに、一緒に来てもらえたらと思ったんです。」
「わ、私が……?」
思わず声が裏返る。
「でも、私は何もできません。」
「そんなことはありません。」
エリアスはすぐに否定した。
「いつも工房を手伝ってくれていますし、私にとっては十分、大切な助手です。」
その言葉に、胸が熱くなる。
"大切な助手"
そんなふうに呼んでもらえたのは、生まれて初めてだった。
「もちろん、無理にとは言いません。」
「……。」
「知らない場所です。不安なのも当然ですから。」
その優しい気遣いが、かえってマリカの背中を押した。
「……少しだけ、考えてもいいですか?」
「ええ。返事は急ぎません。」
穏やかな笑顔は、いつもと変わらなかった。
◇ ◇ ◇
夜。
自室へ戻ったマリカは、窓辺に座って星空を見上げていた。
「助手……。」
その言葉を小さく繰り返す。
今までの人生で、自分に役割を与えてくれた人はいなかった。
必要とされることも。
頼りにされることも。
ほとんどなかった。
それなのにエリアスは、迷いなく「助手」と呼んでくれた。
そのことが、胸の奥をじんわりと温めていく。
王宮は怖い。
知らない人ばかりの場所は苦手だ。
それでも――。
エリアスの隣なら。
少しだけ勇気を出せる気がした。




