第10話 初めての贈り物
第10話 初めての贈り物
翌朝。
朝食の支度をしていると、エリアスが小さな木箱を持って工房から出てきた。
「マリカ。」
「はい?」
「少し、こちらへ来てもらえますか。」
呼ばれるまま工房へ入ると、作業台の上に見覚えのある腕輪が置かれていた。
「あ……。」
数日前、棚から落ちそうになっていた銀色の腕輪だった。
「これ……。」
「完成しました。」
エリアスは優しく微笑む。
「本当は修理の予定だったのですが、せっかくなので少し改良しました。」
「改良?」
「魔力を込めると、疲れを和らげてくれる魔導具です。」
そう言って腕輪を手に取る。
「手を貸してください。」
「は、はい。」
マリカがおそるおそる左手を差し出すと、エリアスは丁寧に腕輪をはめてくれた。
ひんやりとしていた銀細工は、すぐに体温になじんでいく。
「サイズは大丈夫そうですね。」
「はい……。」
自分のために作ってもらった。
その事実だけで胸がいっぱいになる。
「でも、こんな大切なもの……。」
遠慮しようとすると、エリアスはゆっくり首を横に振った。
「受け取ってください。」
「え……。」
「あの日、落ちる前に受け止めてくれたでしょう?」
穏やかに笑う。
「あれがなければ壊れていたかもしれません。」
「そんな、大したことじゃ……。」
「私にとっては大したことなんです。」
その言葉に、マリカは何も言えなくなった。
"大したこと"
そう言ってもらえたことが、何より嬉しかった。
「ありがとうございます。」
何度も頷きながら、小さく頭を下げる。
エリアスも安心したように微笑んだ。
◇ ◇ ◇
その日の午後。
庭で洗濯物を干していると、腕輪が淡く光った。
「え?」
驚いて見つめるが、光はすぐに消えてしまう。
壊れたわけではなさそうだ。
「気のせい……?」
首を傾げながら作業を続ける。
しかし、その時。
胸の奥でも、同じように小さな温もりが灯った。
まるで腕輪と、自分の中にある《刻印》が呼応したようだった。
その不思議な感覚は一瞬で消えたため、マリカは深く考えなかった。
◇ ◇ ◇
夕食のあと。
エリアスは工房で設計図を描いていた。
マリカは温かい紅茶を淹れ、そっと机へ置く。
「ありがとうございます。」
ペンを止めて微笑むエリアス。
「少し休憩してください。」
「では、お言葉に甘えて。」
二人で湯気の立つ紅茶を飲む。
静かな時間だった。
会話がなくても気まずくない。
同じ空間で、それぞれ好きなことをして過ごす。
そんな穏やかな時間が、心地よかった。
窓の外では、星が静かに輝いている。
マリカは何気なく腕輪へ触れた。
すると、不思議と心が落ち着いていく。
この温もりが腕輪のおかげなのか。
それとも別の理由なのか。
まだ、その答えは誰にもわからなかった。




