よろしゃす
ボーッと窓の外の街の光を見つめていると、突如
「儀式終わったぞ。休憩室へ見に行ってやれよ」
「うわっ、びっくりした」
黒装束のローウェルが壁からにじみ出るように出現した。恐らく起きた時から居たのだろう。窓を開けタバコの煙を外ヘ流し始めた。一応、黒装束をタンスから取り出し、着ていると
「ガセッタとスカウ・ニクスに関わったか」
「おっさん、誰かから聞いたんだな」
ローウェルはタバコを吸って煙を夜空へ吐き出すと
「古代遺物があるんだよなあ。女神も何考えてるか分からんが、リブラーをあえて古代遺物に近づけてるな」
「……迷惑なのは確かだ。どうせこの会話も聞いてるんだろうけど」
「うん」
いきなり横に黒装束姿の女神は出現した。ローウェルは振り向かず
「プライベートを尊重しろ」
「それはいいんだけど、あの……」
「よくねえだろ」
「よくないですって」
俺とローウェルに同時に顔を向けられ抗議された女神は涙目になり
「聞いてよお、大事な話ですよお」
ローウェルは舌打ちをして外に煙を吐き出す。俺がジッと女神を見ると
「サナーちゃんを既にジン・スカイストリートから降下させました。ゆっくり落ちていって聖塔前の石碑に着地するんだけど、演出として大天使が宙で抱きかかえるのとか良いと思うの!」
また面倒なことを熱く語り始めた。
「いや、そういうサービス精神を発揮するから、聖者誕生儀式のプログラムに奇跡が組み込まれ、後々苦労するんですよ……」
「うっ……的確なツッコミ……」
女神は一瞬仰け反ったが、気を取り直したように
「とにかく!ナラン君よろしく!ついでに、皇帝陛下御一行って覚えてる?」
「……ヒト世界のやつですね」
見世物にされていたすげえ怖いやつだ。
「そろそろ限界だから、ナラン君引き取ってくれないかって。アンジェラちゃんが」
「……引き取る?」
「うん。レベル357のアークエンジェルの威厳でよろしゃす!」
女神はそう言って「パンッ!」と音をさせて手を合わせ、俺に頭を下げると即座に消えた。
やべー予感しかしない。絶対女神の頼みは酷い展開になる。もうよくわかっている。ローウェルがタバコを皮ケースに入れ揉み消すと
「同行してやる。石碑前に行くぞ」
そう言って窓から飛び降りた。俺もとりあえず後を追う。
夜の教都を足早に歩き続け石碑近くへと行くと、既に人だかりが出来ていて、皆そびえ立つ聖塔の先端を見上げ祈っている。俺も見上げると確かに、謎の虹色の光が激しく発光していた。ローウェルが舌打ちして
「クソ女神、座標ミスったな。マリオンヌよりいい加減じゃねえか」
「おっさん、どういうことだ?」
「聖塔の先に落としたサナーちゃんが引っかかってるんだよ」
「あー……遠回りして行ってくるわ」
「それがいい。適当に発光するスキル付けていけよ。身バレに気をつけろ」
俺は頷いて、建物の間の細い道へと走って行き、聖塔からかなり離れた場所で
「リブラー、光るスキルを付けてくれ」
すぐにいつもの声が
エネルギーの漏洩、着火する生命を追加しました。前回も説明しましたが、マイナススキルなので出来るだけ急いでサナーさんを救出しましょう。
直後に吐き気と立ちくらみと共に全身が輝き出し、どうにか天使の羽根を出し夜空ヘと飛び立つ。スキル効果か、かなりの速度が出たので、あっという間に聖塔の先端まで到達すると、激しく虹色に光り輝き、横向きに寝ているサナーが、聖塔最上部先端に設置された黄金の女神像のツインテールの右に、右腕が引っかかった状態で浮いていた。急いで外してやり、サナーを抱きかかえ、吐き気と目のかすみと戦いながら急降下し、石碑の前へと無事着地すると
「うおおおおおお天使様が聖者様を!」
「奇跡が起きたああ!」
「見て!夜空に虹が!」
確かに見上げると虹がかかっている。女神、余計な演出入れたなあ……。俺はサナーをその場に置くと、聖塔の正面入口が開き、一斉に走ってくるシスター達や司祭達を横目に、上空へと飛び上がった。
必死に飛び続け、数十秒でジン・スカイストリートの端へと着地すると、光も吐き気も消える。リブラーがスキルを削除したらしい。遠くから走って来ているシュマリアが右手を振りながら
「ナラン様!女神様が新たな仕事を!」
多分、さっき言われた皇帝陛下御一行のやつだな……。妙にスムーズなのでまた女神から誘導され始めているようだ。




