堕天
椅子に座ったまま、黙って狼を眺めていると
「ガウ……」
ポツリと一言だけ鳴いて息絶えた。慌てて立ち上がると俺の背後から
「やっと、身体より自由になれた」
背後から声がして振り返る。そこには、目の前の遺骸と全く同じ狼が立って居た。狼は微かに透け、光の粒子を体表から振りまきながら
「それほど時間がない。我らガウアスが守ってきたスカウ・ニクス帝国の歴史を若き大天使に伝えよう」
そう言って床に伏せたので、俺も黙って椅子に座り直す。狼の恐らくは霊体が語った長い長い話はこのようなことだった。
千数百年前にスカウ王国とニクス王国があった。スカウ王国は女神教を信仰していて、ニクス王国は神魔教という、地上に訪れたヒトが広めた宗教を信じていた。スカウ王国はクリスタルアーム、ニクス王国はローレシアンソウルという古代遺物を持ち、魔力が湧き出るそれらを源泉に発展していった。
語り手である狼ボイの子孫であるガウアスは聖書に記録のない獣の大天使であった。女神は、大きな力を持つ両王国のバランス管理をガウアスに任し、それは千年間上手くいっていた。ある時、スカウ王国の王が狂うまでは。
王は、当時数年かけ行われていた聖者誕生の儀式を絵画ではなく「動画」という動く絵に収めようとクリスタルアームの魔力を使い、禁断の手法に手を染め始めた。半年程で「動画」装置は完成した。しかし、クリスタルアームの魔力は一次的だが枯渇していた。
弱体化したスカウ王国にニクス王国が攻め込み、泥沼の戦争が百年続いた。ガウアスとその眷属は人死を減らそうとしたが、当時の管理者シーネの方針で人同士の争いに大天使は手を出せないことになっていた。結果的には黙って見ていることしかできなかった。
傍観者であることに耐えきれなくなったガウアスは眷属もろとも堕天した。獣として時には悪役にもなり双方の王国が統合するまで導き抜いた。もはや大天使でないガウアスに対し、シーネは介入して来なかった。そうして争いの調停にすり潰される様にガウアスは死に、その眷属たちも死んでいった。最後に残った眷属の子孫がボイだが、実はスカウ・ニクス帝国には、現在も宗教の違いという争いの火種があり、先日とうとう、旧スカウ系王族と旧ニクス系王族の争いが起こった。しかし現在、女神教圏では戦闘が禁じられており、女神教を信じるスカウ系王族は一方的に攻撃され続け旗色が悪い。
ボイは穏やかに語り終えると
「……若き大天使よ……帝国を頼む……」
そう言って虹色の閃光を放つと消え失せた。抜け殻になった遺骸だけが残る。
「……」
いや、俺休暇中ですよ!?なんてやべー話聞かせるんだよ!重すぎるって!と、とにかく服を貰って、ボイの墓を作ろう……それから教国に戻る……帝国はすげえ気になるけど、絶対リースを見に戻るからな!邪神いい加減にしろよ……。




