紫の稲妻
黒馬ビニャメンは堂々と整備された道を進み、そして石造りの冷たく巨大な建物の手前で停止した。恐らく刑務所であろう施設を見ながら、シュマリア、女神と荷車から降りる。ポトスンも御者席から飛び降り、ビニャメンに
「待っていてくれにゃ」
軽く声をかける。直後に施設入口から制服を着た屈強な男性職員
qが出てきた。
低姿勢の職員に先導され、施設の地下へと降りていく。石壁で作られた迷路のような地下通路を少し歩くと、黒い鉄扉が突き当たりに見えてきた。職員は大きな鍵をポトスンに渡すと黙って去って行った。女神はニヤニヤしながら
「二十七分前にここに入れられたばかりだわ」
ポトスンは黙って鍵穴に鍵を入れ、横に回す。
鉄扉が開くと、中はこちらから三分の一程の所で鉄格子で仕切られ、奥側にはトイレとベッドだけがある広い牢屋の中心に囚人服を着たミサ姫が呆然とした表情で座っていた。俺達が入ってきても床を見つめるだけで気付いていない。こちら側には古びた椅子が三脚置かれている。女神は端の椅子に座り
「ナラン君、シュマリアちゃん、異端審問を開始して」
ポトスンは逆端に座り、シュマリアは鉄格子の近くに立つと
「ミサ・ガセッタ王女様、トラアス教国から異端審問に来た上級テンプルナイトのシュマリアと申します」
ミサ姫は座ったまま顔を上げると
「……ああ……早いな……」
そうポツリと言って、また俯いた。
シュマリアはニコリと微笑み
「……神の裁きの件については聞き及んでいます。しかし、悔い改めれば女神様は許してくれますよ?」
ミサ姫は大きくため息を吐くと
「……あなたが上級テンプルナイトでも、女神が横に居るわけじゃないでしょ……女神が何の意図があって私に神の裁きを落としたのか分からないでしょ?」
シュマリアは自信に満ちた顔で
「分かります。あなたが教会ネットワークの補助金をカジノ建築費用に付け替え、多数の国民を不幸にしたからです」
ミサ姫はまたため息を吐いて
「女神が、そんなに人間のことを考えてわけないでしょ?私なんて比較にならない悪人が歴史上には居たわけだし、何で私だけが神の裁きを……」
女神がいきなり立ち上がると
「ミサちゃん、振り合いなのよ。あなたは悪いことに比べて良いことの部分が小さいの。あと、あなたクラスの悪人は例外なく神の裁きや天罰を受けてるわ」
そう言うと一瞬消えて、格子の向こうに立ち消え、そしてまた元の椅子に座った状態で出現した。俺も何となく天使の翼を出して、それから消してみる。ミサ姫は慄いた表情で立ち上がり
「げっ、幻覚?シュマリアさん……?」
シュマリアはニコリと笑いながら
「女神様と、大天使ナラン様です。ご同席していただいています」
淀みない口調で正直に教えた。
ミサ姫は信じられない、といった表情で唖然とした後
「……とうとうおかしくなってしまったみたいね……シュマリアさん、私は……神罰島に送られるの?」
シュマリアはニコリと笑って
「ここで悔い改めれば、行く必要はありません。女神様に御慈悲を乞うのです」
ミサ姫は自嘲するような表情を浮かべ
「……本当に女神がその子なら、一つ尋ねたいことがあるけど」
女神が上機嫌で頷いたので、シュマリアが
「どうぞ」
許可を与えると、ミサ姫は悪意に満ちた表情でジッと女神を睨み
「……こんな不完全な世界を創って、あんた何考えてんの?聖書にあるように可能性を伸ばすのが人の役目ならば、私の欲望もその為に肯定されるべきでしょう?どうして、あんたが創った世界は、こんなにせせこましいの?」
女神はニコニコしているが額に青筋が浮いてきた。怒っているようだ。いや、キレるの早くねえか?もしかして痛いところ突かれたんだろうか……聖書をよく知らない俺には分からんけど……。直後に、目の前のミサ姫を
ズガアアアアアアアアア!!
という耳が死にそうな轟音と共に紫の稲妻が包んだ。




