ロックオン機能
シュマリアに俺の判断を打ち明けると、納得した様子で頷いて
「……良いお考えだと思います。それに合わせ、私がこうするのはどうでしょうか?」
シスター服のポケットから、鉄札を出して見せてきた。そこには
「トラアス教国 上級テンプルナイト シュマリア」
というシンプルな文字が彫られ、虹色に鈍く発光していた。更にシュマリアが宙で鉄札を離すとフワフワと浮きながら、シュマリアの広げた右手に吸い寄せられて収まる。
驚いているとシュマリアはニコッと笑って
「貴重な浮遊鉄を使った、テンプルナイトである証明です。文字は一流職人の方が私の血と溶かしたオリハルコンを混ぜ、刻んでくれています」
「そうすれば、身体に吸い寄せられるんですか?」
「その通りです。各国の大司祭ならばよく知っていることですね。つまり、これがあれば本物のテンプルナイトであるという証明になります。」
シュマリアはそう言うと覚悟を決めた様子で
「ナラン様、我々上級テンプルナイトは異端審問も許可されています。私は、女神様が異端者に寛容だとよく理解しているので、その権限を使ったことは一度もありませんが……」
シュマリアは具体的には言っていないが、そのやりたいことを理解した俺は頷く。
「シュマリアさん、地上のことは頼みます。俺はこれから2日、決めたことをやり続けますから、そちらのタイミングでお願いします」
シュマリアは頷くと、空へ向け祈りを捧げ
「女神様……私の勝手をお許しください。私はこれから自らの強大な権力を使います」
「では行ってきます」
俺は天使の翼を生やし、わざとこの街の上をゆっくりと一周した後に、遥か上空にあるジン・スカイストリートへと大きく羽ばたきながら飛び上がって行った。これで目撃者ができたはずだ。後はこの街はシュマリアに任せよう。
ジン・スカイストリートの何時もの屋敷前へと俺は着地すると、急いで開いた扉から屋敷2階の薄暗い部屋へと駆けていく。拾遺の地図もボタンもそのままになっていた席に座り
「マリオンヌさん!聞きたいことあります!よろしくお願いします!」
そう大声で頼むと、マリオンヌが直ぐ横の床から細長く顔だけ出しながら滲み出てきて
「……地上でのナラン君、モニターで見てたよお。君の考えていることは出来るけど、本当に良いんだね?一人の女性が完全にぶっ壊れるけど」
「……多分、それが一番、犠牲が少ないと思います。誰も死なずにあの国を変える為には……でも……」
いつの間にか逆隣に居た女神が
「あの子、あれでも37歳よ。立派な大人の女だから自分の責任は取れるわ」
マリオンヌがニヤニヤしながら
「完成度高い疑似ロリだよねえ」
全ての悩みが消えた俺は、マリオンヌと女神からスペシャル神の裁きの「ロックオン機能」とか言うやり方を習う。
習った通りに地図を右手の人差指と中指を交互に上下させつまむように拡大していくと、宮殿の中庭が映し出され、更に壇上へと拡大していくと、テーブルが並べられ椅子に座ってワインを飲んでいるミサ姫を真上から見ている状態になった。俺はミサ姫の頭や肩全体をぐるっと指でなぞって虹色の線で囲う。そして大きく息を吐いた。
マリオンヌが
「もう一回説明するね。生き物に対するロックオンモードの場合は、右の5つのボタンは、左から、虹色の雷を落とすだけ、雷を落として服や装飾品を消す、肌より上の髪の毛や眉毛まで全部消す、手足まで消して身体だけ残す、全て消す。ってなってるからね?」
俺は深呼吸する。つまり、右2つは絶対に押してはならないということだ。腕を組んで画面を見ている女神が
「間違えて押さないように、右2つはロックをかけたわ。この星の歴史上これで手足まで消されたのはあんただけよね」
マリオンヌに鋭い目線を飛ばす。顔だけの細長いマリオンヌはニヤリと笑うと
「神罰であると理解した瞬間、脳を駆け巡る気持ち良さがヤバかったよ。僕はドMでもあるからね」
女神は大きくため息を吐くと
「あんたには人間はまだ早かったのね」
そう言って
「聖書の慣例でいくと、まず左を押して、反省が見られなかったら一時間ごとに右を押していくんだけど」
マリオンヌが嬉しそうに
「段々、失っていくのがすげえ気持ちいいんだよなあ……まずは世間の信頼、そして文明人としての資格って感じで」
俺はもう決めている。
「最も左を何度か押して、それで変わらなければ右を押していきます。行きますね」
そう言って、左のボタンを押した。
次の瞬間には画面上のミサ姫は立ち上がり、周囲の壇上に居たメイド達が逃げ出したり気絶していた。マリオンヌが
「稲妻を何度も見てると操作者によっては目を痛めるから、このリアルタイムスクリーンには映らないようにしてるよ」
腕を組んだ女神が真顔で
「ロックオンされた対象には、スペシャル神の裁きの音も光も感じられないわ」
画面上の壇上には多数の衛兵達や使用人が上がってきて、驚くミサ姫を取り囲み始めた。
ミサ姫は担架で宮殿の医務室に連れて行かれる。画面上では天井の上からその様子を見ている。マリオンヌが
「ロックオン解除しない限り、ずっとミサ姫を追うようになってるからね」
腕を組んだ女神が軽く息を吐き
「で、次は一時間後?」
「少し様子を見ます」
「……ミサ姫は、ナラン君に感謝すべきね。私なら一発目で毛まで全部消してるもの。大悪人でしょこの子は」
「国の為に真に良いことしてるって思ってるのが素敵だよねえ。僕ですら悪人だっていう自覚あったのに」
「開き直っても悪人は悪人だけどね。まあ、振り合いよ。この子は悪事に比べて良い部分が少すぎる」
俺はふと思い出し女神に
「……あの、ニャンギエフ大司祭も神の裁き受けるレベルの悪人だと思うんですけど……」
女神は嬉しそうに
「ビッグニャンニャンは悪事の規模がミサ姫と比べて遥かに小さいし、運良くまだ誰も殺してないわ。司祭の真似事もしてるし!」
女神からすると真似事に見えるのか……。一応正規の大司祭だったはずだが……。
「……魔法弾他国に撃ち込んだんでしょ?」
女神はニッコリ笑うと
「うん!ビッグニャンニャンっぽいよねえ」
良く分からないが邪神的にはオッケーらしい。頭がおかしくなりたくない俺はもう尋ねるのを止めた。画面では、医務室にサンス王が臣下達と入ってきて、無傷のミサ姫と何か話し始めたが、音は聞こえないので会話内容は分からない。




