御慈悲に値しません
とうとう泣き崩れ落ちた神官に老王は
「……分かった。カワユ大司祭ほどの神官が言うのならば、それは由々しき事態であるのかも知れぬ。直ちに調査を約束しよう」
「……大王……何とぞ……何とぞ」
神官は屈強な衛兵達から担架に乗せられ連れて行かれた。
俺は、玉座に座り憂うげに考え込み始めた老王の近くで動けず立ち尽くす。完全にミスった。真面目そうな神官と、優しげな老王に不要なストレスを与えてしまった。老王は大きくため息を吐くと
「ミサを呼べ!下にいるはずだ!」
少し離れ左右に控える衛兵達に命じた。
俺は玉座の横に座り込みながら、本気で反省する。あんなボタンを気軽に押すんじゃなかった。とにかくまだ廃墟の城壁が消えただけだ。もうこれ以上、無闇に人々の営みを壊すことはない。調子に乗ったら駄目だよな……。などと考えていると、玉座の間の黄金の扉が開き
「ちーちーうえー!なーんですかああ!」
嬉しそうな子供の声が響いてきて、俺は思わず立ち上がる。
玉座の前に元気よく走って来た銀のティアラを被った可愛らしい子供に俺は驚く。緑の髪は似ていないが、大きな両目は老王そっくりな優しげな光を湛えている。150センチ無さそうな身体が着た黄色のドレスは似合っているというより子供っぽさを増幅させている感じだ。
老王は玉座より降り、飛びついてきたその子供を抱きしめると
「……ミサよ。近隣の城跡に神の裁きが降った。知っているか?」
「……神の裁きとは?」
キョトンとしているミサと呼ばれた子供に
「聖書での城や建物を消失させる神の怒りの事だが、先ほど実際に起こったと、カワユ大司祭が伝えてきた。心当たりは?」
ミサと呼ばれた子供は首を傾げ
「ありませんわ。我が国は上手くいっております」
そう言うと、腕を離した老王に跪き
「無駄を削って余った税金で財源を作り、その財源を適切に投資し、財政を立て直す構造改革を我が国は完璧に達成しました!みんなハッピーです!良いインフレでお給料もあがって最高です!」
老王は満足げに頷くと
「なら良い。恐らく神の裁きは、聖者誕生の儀式へと、茶飲み友達のカワユ大司祭を送らなかった私へのものだろう。直ちに女神様に謝罪の祈りと、儀式への大司祭派遣の手配を始める」
「さっすが父上!有能です!」
老王は頷いてミサを下がらせたので、俺は慌ててミサの後を追う。
ミサは宮殿2階の自室へと戻ると、鏡で自らの顔を見て髪を梳かしながら
「……神の裁きかあ……私かなあ。でも怠惰で無能な人が貧乏になるのは仕方ないよねえ。弱い者が淘汰されるのも天命だし!我が国は強い人だけ残れば良しっ!弱肉強食さいっこー!」
そう言うと立ち上がりクルクル回って
「いえい!今日も私はプリンセス可愛い!」
鏡にピースサインをキメ、扉を開け廊下に出て行った。何か自覚がありそうなので、俺も続くことにする。
ミサは宮殿中庭で行われていた貴族たちの立食パーティー会場へと行くと、壇上ヘと颯爽と上がり
「みなさーん儲かってますかー!」
拡声魔法がかけられたマイクに向けそう言い放つ。貴族達から大歓声が上がり、ミサは得意げに
「また港町にカジノを作ります!もーっと大きいものです!是非、王立建築会社、そして王都株式市場にさらなる投資を!ぜーったいに儲かりますから!このビッグウェーブに迷ってる暇はないですよー!いえーい!」
明らかに調子に乗ったピースサインに貴族達が地鳴りのような歓声を上げる。会場内は嫌な雰囲気は無く皆楽しそうだが、俺は街も見てみようと思った。天使の翼で中庭から飛び立つ。
賑わう城跡都市の外れには、如何にもスラム街というバラックが立ち並ぶ広い一角があった。城壁近くに古い教会があったので着地する。周囲jは行き場が無さそうなホームレス達で溢れている。皆風呂に入れないようで、凄い臭いだ。扉が開いた教会内へと入ると、そこら中に老若男女の病人が寝かされていてシスター達に混ざり、シュマリアが必死に看護を手伝っていた。
教会の裏手に行った俺はリブラーに頼んで気配の消失を消して貰う。次の瞬間にはシュマリアが裏手から慌てて出てきていた。俺の気配だけで分かったらしい。そして泣きそうな顔で
「この国は、もはや女神様の御慈悲に値しません……」
俯いて言って来た。
シュマリアの話はひどいものだった。サンス王が作った教会ネットワークを中心にした強固な弱者救済制度を、老王に近年政治を任されたミサ姫が、その補助金を削り続けることで極限まで弱体化させ、そこで余った大量の税金をカジノ建設に注ぎ込み続けた。流れに乗って投資をした金持ち達は更に金持ちになったが、その何千、何万倍もの国民が国中で病気や貧困で苦しんでいるとのことだ。カジノによる破産や借金、依存症も急激に増えているらしい。
もう、この国をこのままにしてはおけないと思った俺は、今まで見たこととシュマリアに聞いた全てを頭の中で総合して、一つの決断を下すことにした。




